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第6回サステナブルファイナス大賞インタビュー⑥長野県信用組合・独自のクラウドファンディングを立ち上げ、地域のニーズとファイナンスを連携で「地域金融賞」(RIEF)

2021-02-09 16:01:01

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 長野県信用組合は、地域貢献を促進するため独自のクラウドファンディングを立ち上げて、地域のニーズとファイナンスをマッチングさせる取り組みを評価され、地域金融賞を受賞しました。同信組の総合企画部 主任調査役の前沢秀憲氏と、総合企画部の藤澤亮介氏にお聞きしました。

 

写真は、長野県信用組合の黒岩清理事長)

 

―――クラウドファンディングを独自でやることになった経緯をお聞かせください。

 

 前沢氏:地域金融機関は、地域社会の持続可能性を確保するべく、地方創生に資する取組みを講じることが求められます。長野県信用組合も存在意義として「地域の魅力をプロデュースし、地域社会の新たな価値創造に尽くします」を掲げており、クラウドファンディングについても、地域資源の活用やブランド化に有効なツールとして注目していました。そこで、2015年に内閣府の「ふるさと投資」連絡会議に登録し、クラウドファンディング活用に向けての具体的な検討を始めました。

 

 検討を進める中で、特に長野県には、優れた技術やノウハウを持ちながらも、ブランディングや販路開拓の面で不得意な中小企業等が多いため、これらの事業者を主なターゲットとする、地域特化購入型クラウドファンディングサイトが必要だと考えました。そこで、工業製品関係のプロジェクトに強い「GREEN FUNDING」を運営する「ワンモア」、長野県の「クラウドファンディング活用によるビジネス創出支援事業」の専門家として認定されていた「CREEKS」と私どもの3者連携で、2017年に独自のクラウドファンディングサイト「Show Boat」を立ち上げました。

 

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 「長野から世界に出航」をスローガンに掲げており、初めてクラウドファンディングに取り組む事業者に対しても充実したサポートを提供できる体制をとっています。

 

――信組自らがクラウドファンディングを手掛けるメリット、デメリットはどういう点でしょうか。

 

 前沢氏:私どもとしては、クラウドファンディング支援をきっかけに、新たなお客さまとの取引開始や、既存のお客さまとの取引拡大につながるメリットが生まれます。お客さまがクラウドファンディングを通じて実現したい将来的なビジョンについて、同じ熱意をもって共有し、プロジェクトを作り上げる過程でリレーションが強化され、事業への理解が高まる(事業性評価に結びつく)点等が魅力です。

 

 一方で、クラウドファンディング支援を実際に行うに際して、相当の手間や時間がかかりますが、私どもはそれらに対して手数料等を一切いただいていません。コストをかけたにもかかわらず、それに見合うだけの成果を得られないかもしれないというリスクを内包している点はデメリットともいえます。

 

――クラウドの成功事例として、医療的ケア児保護者を支援する事業で250万円を集めたとのことです。それらの事業への支援者は信用組合の取引先の方々ですか。信組取引先以外の方々の割合はどれくらいありますか。

 

前沢氏㊨と藤澤氏㊧
藤澤氏㊧と前沢氏㊨

 

 藤澤氏:その対象となったプロジェクト名は「医療的ケア児保護者の負担が軽くなるような冊子&ホームページを作りたい」です。同プロジェクトには、過去最高数である405名から支援を集めることができました。そのなかで正確な数字は分かりかねますが、支援者の半分以上は当組合取引先以外の方でした。長野県を越えて、県外の方からも多数の支援をいただきました。起案者である山本里江さんには継続的な営業活動を行っていただき、私どもも新聞やSNS等で様々な情報を発信しました。同プロジェクトはSDGsにもつながる社会的意義のある内容であることも県内外の支援を集めたと考えています。

 

――取引先に対して、新型コロナウイルス感染症に対する事業継続計画(BCP)用のマニュアルも作成して配布しているとのことですが、配布を受けた企業のBCP作成にどのぐらい貢献できましたか。

 

 前沢氏:私どもは、取引先の従業員等が新型コロナウイルスに感染した場合に備えて、感染が疑われた場合の行動基準をまとめた対策マニュアルを作成しました。それを、渉外係がお客さまを訪問した際にお届けしているほか、店舗の窓口でも希望されるお客さまに無料で配布しています。

 

 信用調査会社の調査によると、長野県内の企業では、頻発する自然災害や、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、非常事態への備えの必要性を感じている企業が増えています。それによると、コロナ対応のBCPを今後、策定する意向がある企業が約6割、策定予定はない企業も、その理由は、半数が策定に必要なスキル・ノウハウがないこと等をあげています。そこでBCP策定支援へのニーズは高いと判断をしました。

 

 藤澤氏:策定したマニュアルは取引先企業にそのまま利用してもらうことを想定し、職員向けのBCPマニュアルの仕様を変更して昨年8月に公表しました。取引先企業等から多くの反響をいただきました。県内だけでなく、全国からも反響があり、全国の約9万事業所を会員として抱える業界団体の連合会からの利用申し出もありました。マニュアルの内容はホームページにも開示しています。コロナへの対応は今後も予断は許さない状況なので、BCP策定支援への取組みについても今後も継続していきたいと考えております。

 

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――知的財産に着目した経営支援にも取り組んでおられるようですね。

 

 前沢氏:私どもでは、知的財産権のみならず、技術やノウハウ、データ等を含めた「知的財産」が中小企業等にとって、ヒト・モノ・カネに加えて、最も重要な経営資源のひとつだと思っています。そこで「知的財産」に着目した取引先企業等の本業支援や融資を含む経営支援を「知財金融」と位置付けて取り組んでいます。

 

 「知財金融」に向けた取組みでは2019年度の関東経済産業局が実施する「令和元年度知財経営定着伴走支援事業」で、長野県で唯一の協力金融機関として選ばれ、地域を牽引する取引先事業者2社に対し、弁理士や中小企業診断士等による専門家とともに私どもの職員が加わって、対象企業の知的財産経営の定着に向けた支援を約半年間にわたり実施しました。

 

 藤澤氏:特許庁の「知財を切り口とした事業承継支援事業」に当組合が推薦した2社が採択され、同様に専門家とともに私どもが、当該事業者の知的財産権、ノウハウ、ブランド等の知的財産の「見える化」や「磨き上げ」の支援を実施しました。今年度もいくつかの事業支援を展開しています。

 

――企業が知的財産を保有していても、それを市場化できるように「磨かない」と、宝のもち腐れになってしまうということですね。

 

 藤澤氏:日常業務において把握した取引先の知的財産に関する課題に対しては、INPIT長野県知財総合支援窓口や当組合が連携している特許事務所などの活用を積極的に提案していますが、その結果、取引先が知的財産権を取得するに至った事例も複数件あります。さらに日本弁理士会東海会様とも連携協定を結んで、中小企業の経営力強化を目指した取り組みを進めています。

 

 新型コロナウイルス感染症による大きな影響を受け、中小企業等を取り巻く環境は一段と厳しさを増しています。そのような中で中小企業等が持続的に成長していくためには、自社の「知的財産」の認識とその有効活用に向けた取組みが一層重要になると考えています。

                     (聞き手は 藤井良広)