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第6回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑦SOMPOホールディングス・日本の損保として最初に新規石炭火力発電建設の保険引き受け停止宣言で「優秀賞」(RIEF)

2021-02-12 12:02:39

sompo0011キャプチャ

 

 SOMPOホールディングスは日本の損害保険会社として最初に、新規の石炭火力発電所建設の保険引き受けを行わないという方針を示しました。投融資対象に加え、保険引き受けでの「脱炭素」化を示した先見性を評価して優秀賞に選ばれました。CSR室長の越川志穂氏と同課長の堀幸夫氏にお話を聞きました。

 

――2020年9月に、新規の石炭火力発電事業への保険を付与しない方針を日本の損保で最初に打ち出し、12月から実施に移されました。保険会社が保険を付与しないというのは大きな決断だと思います。決断するまでの経緯はどうだったのでしょうか。

 

 越川氏:2017年ころから、保険業界に対しても、環境NGOから引き受けや投融資を制限するようにという声が寄せられるようになってきました。そういった声を聞く中で、当初は、日本のエネルギー政策の現状を考えると、非常にハードルが高いし、現実的には極めて難しいという認識でした。ただ、私どもは以前からNGOの方々ともしっかり対話をしてきたので、お互いに意見交換する中で、この問題に対する当社なりの認識を深めていったということが一つあります。

 

 もう一つは保険会社として、産業界の一員として、日本のエネルギーの現状も逆にNGOの方々に伝えることもしていました。そうした中で、他のグローバルな保険会社とも意見交換をする機会があり、保険会社が気候変動問題に対して果たせる役割についての認識を高めていったという経緯があります。社内では、CSR室だけでなく、リスク管理や保険引受、投融資など部門横断でこの動向を継続的に注視しており、外部環境としても気候変動問題への関心が高まり、2019年12月には経営陣にも報告する機会が出てきました。

 

越川氏
越川志穂氏

 

 その際、経営では、社内でしっかり議論し、考え方、基本スタンスを明確に表明していこうという結論となりました。それが一つのきっかけとなり、社内で議論を重ねた結果、保険引き受けという「保険の公共性」をどう維持するか等の課題もありましたが、グローバルな潮流も受けて、踏み出していこうという意見に固まっていきました。

 

――社内で積み上げたうえで、最後は経営判断に委ねたと。

 

 越川氏:その通りです。確かに、法人顧客にとっても、いままでにないことになりますが、気候変動ついては顧客サイドでも認識はあるはずなので、きちっと説明し、丁寧に対応することで、理解を得ていこうとの結論に至りました。

 

――日本の損害保険会社も3メガ体制なので、どこが最初の一歩を踏み出すのかと、われわれも見つめていました。しかし、最初に宣言するのは勇気がいると思います。経営の判断はどうでしたか。

 

 越川氏:最初に、ということは特に意識しませんでした。ただ、同業他社とも、いろんな場で意見交換したり、国連環境計画(UNEP)の保険イニシアティブ(PSI)等でも意見交換がありますので、各社ともほぼ同じような問題意識を持っていることはわかっていました。

 

――投資家を含むステークホルダーからの反応、あるいは保険に入る顧客企業等からの反応はどうでしたか。

 

 越川氏:投資家からは、特段の大きな反応は聞こえてきていないと思います。法人のお客様については、たとえば石炭関係のプロジェクトをやっている商社あるいは電力会社等には、われわれの営業担当とも連携しながら、丁寧に説明させていただきました。お客様からは、今の情勢を踏まえてご理解はいただけましたが、みなさまよく状況を認識され、やむを得ないという反応でありました。ただ、当たり前ですが、非常に深刻に受け止められているお客様もおられ、この決定は簡単なことではないのだということを改めて認識しました。

 

越川氏㊨と堀氏㊧
越川氏㊨と堀氏㊧

 

――企業にとって保険の引き受けがないと、プロジェクトは事実上できなくなりますからね。

 

 越川氏:そうです。そこは改めて肝に銘じたところもありました。

 

――一方で、NGOの方にとっては、今回の原則には例外もあるので、不十分との不満の声もあります。

 

 越川氏:これはやはりロングジャーニーということで、一歩一歩進めることと、今後、情勢が変わるということもあると思います。国のエネルギー政策の改定も今年行われる予定ですので、そうした情勢の変化を踏まえ、その中で、その時点で、為すべきことに取り組むという視点でやっていくつもりです。

 

――気候変動対応では保険会社自体がTCFD対応を求められています。投融資の分野と、保険引き受け事業の両方にTCFD対応が求められると思います。

 

 越川氏:情報開示は、各社のもっている特性とか、各保険契約の特徴とかによって、違ってくると思います。一方で、UNEPFIのPSIでは保険会社22社で連携して、TCFDパイロットワーキングを2018年からやっています。その成果物として、TCFDのシナリオ分析を含む最終レポートが示されました。今後は、個社ごとのいろいろな評価ツールと、共通のツールをどういう風に活用していくかを考えていくことになります。

 

 保険会社にとって、自然災害の評価は本業なので、各社とも精緻なモデルを持っています。自社モデルや汎用のものを自社用に改変したものなどがすでにあるのです。これをベースにしないと、これまでの評価との整合性がつかなくなります。TCFDのシナリオ分析も従来のモデルとのリンク付けをやる形が、たぶん主流になると思います。ただ、投資家は横比較できるツールを求めるので、PSIの共同手法にも開示情報のなかで言及することで、活用する余地はあると考えていきたいと思います。

 

 堀氏 : 自然災害の評価の話は、もともと保険会社としては精緻にやっています。また保険料の算定にも影響します。残念ながら、PSIのパイロットでやった手法は当社のモデルと比較すると使用目的ならびに精度が若干異なるものと評価しています。また、NGFSの議論も踏まえて、将来シナリオを用いたストレステスト等も今後出てくると思われます。目的の異なる複数の手法が併存する中で、これらをどう組み合わせて考えていくか、というのが今後の各社の課題になってくると考えています。

 

堀氏
堀幸夫氏

 

――金融当局もストレステストの実施を検討しているのですね。


  堀氏:欧州の金融当局でも、英イングランド銀行などはストレステストをやっていくそうです。ただし、その結果をTCFDの枠組みに沿ってそのまま開示せよということにはならないように思います。監督としての対応と、情報開示としての活用を分けて考える方向に進むのではと思っています。

 

――御社は、ESG全体の取り組みとして、長年、顧客へのエンゲージメントにも取り組んでこられています。これまでの活動による成果、手応えはどうでしょうか。あるいは顧客側の御社に対する評価に変化等はありますか。

 

 越川氏:これまでも幅広くエンゲージメントをしてきていますが、アセットマネジメント事業でのエンゲージメントは、1999年に立ち上げたエコファンドの「ぶなの森」があります。また、ESGチームが年に約350社を対象としてエンゲージメントを行っています。損保ジャパンはアセットオーナーということで今年度は、新型コロナウイルス感染の影響もあって十分ではないですが、約10社へのエンゲージメントを目指して計画しています。これまでのところ、非常に建設的な対話が進んでおり、投資先企業もわれわれの意見を受け止めていただいていると考えています。

 

 堀氏:ESG課題に対して、どうすればいいのかという答えが明確でない場合も結構あります。あるいは、対応しなければならないハードルが高い場合も結構多いので、私たち自身も明確にこうすべきといえない場合も多いです。したがって、エンゲージメントの中で、お互いにヒントを探り合うという面もあります。私たちもエンゲージメントを続ける中で、保険の営業面でのヒントもいただく。たとえば、脱炭素、気候変動という中で企業が変わろうとしている戦略を知り、それをサポートする商品につながることがあるのではと考えています。

 

 私たちは、投資家としてだけでなく保険の提供者として企業を後押しできる立場でもありますので、営業担当にはビジネスのヒントを、会社としては保険を通じたサポートにつなげていく循環がつくれたらいいなと考えています。

 

―――SOMPOグループは、農業保険をグローバルに展開していますね。農業、食料問題はこれまた地球全体のグローバル課題です。農業保険については、サステナビリティの観点からどのように位置付けていますか。

 

 堀氏:同保険は、グループの強みと位置付けています。昨年12月に米国での農業保険の会社「Diversified Crop Insurance Services :DCIS」の買収が正式に認められました。こうした活動で、世界でも最大手の農業保険のプロバイダーになったといえます。農業保険の位置づけについては、2021年度から始まる次期中期経営計画を今、検討中ですが、その中で明確にする予定です。

 

 2017年から「Agrisompo」というブランドでプラットフォームを作っています。明確な問題意識を持って進めています。日本での小口の農業保険を含めて、同じプラットフォームの中で位置付けていくという方向です。第2回サステナブルファイナンス大賞で、大賞をいただいた「東南アジア農家の自然災害対策」に活用した天候インデックス保険も、そうしたAgrisompoを提供するSompo International(海外子会社)の一つのツールです。同保険も、これまでは財務インパクトが小さく、社会貢献性の強い保険としてとらえられていますが、今後は財務、社会的価値の両面で、もっと大きなインパクトを出していければと考えています。

                         (聞き手は 藤井良広)