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第7回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑥優秀賞、東急不動産ホールディングス。日本企業として初めてESG債長期発行方針を宣言(RIEF)

2022-02-17 16:07:52

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  東急不動産ホールディングス株式会社は、日本企業として初めて、ESG債の長期発行方針を打ち出したことで、サステナブルファイナンス大賞の優秀賞に選ばれました。2030年度には発行する社債に占めるESG債比率を70%以上とすることを明記しています。ESG重視の財務方針について、グループ財務部統括部長の坂元貴氏に聞きしました。

  

写真は、㊧から鈴木氏、坂元氏、福島氏)

 

――日本企業として初めて、ESG債を資金調達の柱として、長期発行方針を打ち出されました。資金調達全体にESG要因を組み込むことを決められた背景を教えてください。

 

 坂元氏:われわれは、元々、環境に対する取り組みには、ESGやSDGsの観点が世の中に広がる前から取り組んでいます。例えば太平洋のパラオ諸島でのリゾート開発では、現地の椰子の木より高い建物を建てないといった方針で取り組みました。戸建ての住宅開発でも、千葉県の「季美の森」開発では、フェアウェイフロント住宅といって、ゴルフ場に住宅を併設した環境を生かした環境共生住宅に取り組んだこともあります。商業施設でも、東京・表参道に建てた東急プラザ表参道原宿では屋上のテラスを緑化して、鳥や昆虫等が飛んでくるスペースを設けるなどの工夫を行ってきています。

 

 本社のある東京・渋谷のソラスタ・ビルも、日本政策投資銀行のグリーンビル認証やCASBEEのSランク等を取得するなどグリーンビルディング化にも力を入れています。ハード面以外でも、緑をつなぐプロジェクトとして、2011年から住宅やオフィスの建設・分譲の面積に応じて緑を保全していく運動を展開しています。たとえばマンションを分譲した時に、その床面積分を、われわれが森林の保全として寄付をする活動です。オフィスだとオフィスワーカー一人当たりに対して10㎡といった具合に面積と寄付額を決めます。すでに約1850万㎡の森林保全に役立てています。

 

坂元氏
坂元貴氏

 

――環境活動の延長線上にESG債調達が出てきたのですね。

 

 坂元氏:環境以外のソーシャルやガバナンス面にも積極的に取り組んできました。そうした点を評価される形で、ダウジョーンズのサステナビリティ指数のDJSIや、FTSラッセルのFTSE4Good Index等にも採用されています。そういう中で、ESG債が登場した際にも、われわれの事業の方向とも合致すると思い、2020年1月に初めてグリーンボンド(100億円)を発行しました。

 

  ――最初のグリーンボンドの手応えはどうでしたか。

 

 坂元氏:よかったです。発行前は、多少不安もありましたが、投資家の手応えは非常によかったと思います。資金使途は、本社の渋谷ソラスタというビルと、北海道・松前で展開する風力発電事業のリファイナンス資金に充当しました。

 

 昨年5月に、グループビジョンとして長期経営方針を策定し、その中の全社方針を環境経営とDXの二本柱としました。ですから、環境経営は、わが社の長期経営方針の中の「一丁目一番地」になっています。われわれ財務部門もこの長期経営方針に沿って、ファイナンスの面からも環境経営の達成を目指していこうということで、ESG債の長期発行方針を策定することにしました。

 

 つまり、資金調達にESGを絡めることは、われわれとしては自然な流れでした。環境を重視する事業の流れに即してファイナンスもついてくる形になっています。ESG債の長期発行方針自体は、それ以前からも、投資家と対話していく中で必要性を感じていました。われわれは再エネ事業を手掛けているほか、グリーンビルディング等のオフィス事業も抱えていることから、「ESG債の資金使途となるパイプライン」が2000億円近くあります。したがって、これらの資金調達を、長期にわたって安定的に発行していくことが十分できると考え、宣言しました。

 

 ――ESG債を長期資金調達の柱にすることを、投資家向けにどう発信されていますか。

 

 坂元氏:これまでは、われわれが以前から環境対応をやっていること等を債券投資家の方々等に知っていただく機会があまりありませんでした。それがESG債による調達の場合は債券IRも行うので、皆さんに知ってもらえる機会を得られます。そこで、われわれは「“WE ARE GREEN”ボンドポリシー」を策定しました。同ポリシーの目的は、われわれのESGへの取り組みを、債券投資家を含むステークホルダーの方々に理解と賛同を得るとともに、債券投資家に安定的なESG債の投資機会を提供することを目指すものです。

 

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 われわれの社債発行残高に占めるESG債比率の目標は2025年度末に50%以上、2030年度末には70%以上としています。投資家との「対話」の場として、2022年度から「“WE ARE GREEN”ボンドポリシー・ミーティング」を開く予定です。その場で、われわれのESGへの取り組み状況や、発行したESG債の進捗等についてお伝えするつもりです。ミーティングで投資家等から得る意見や提言等は、われわれのESGへの取り組みに活かしていきます。投資家との間での、双方向の意見交換を期待しています。

 

 ――ESG債のメリットはどういう点にありますか。

 

 坂元氏:欧州等では、ESG債発行によるグリーニアム(グリーン性のプレミアム)があるという話を聞きます。ただ、われわれは国内でまだ3回しか発行していないので、グリーニアムで調達条件が良くなったという実感は、正直、ありません。しかし、投資家の需要は相当高まっている手応えはあります。普通の社債発行では、これまでわれわれに投資していただく機会のなかった投資家の方も、ESG債だと、資金使途やわれわれのESGへの取り組み姿勢等を評価してもらい、初めて投資してくれたケースもあります。そうした投資家の広がりのメリットは感じています。

 

――最初のグリーンボンドに続いて、行った2回のESG債の概況を教えてください。

 

 鈴木洋充氏(グループ財務部財務グループ グループリーダー):最初のグリーンボンドに続いて、2020年12月にハイブリッド型のサステナビリティボンドを発行しました。資金使途は、環境面では東京・竹芝のグリーンビル等に充当し、社会面では、シニア向け住宅の建設や東京・渋谷でのスタートアップ企業の支援等に充当しました。調達金額は300億円と、比較的大きな金額になりました。その後、2021年10月にサステナビリティ・リンク・ボンドを100億円発行しました。

 

㊧坂元氏と鈴木氏㊨
㊧坂元氏と鈴木氏㊨

 

――東急不動産HDは住宅・オフィスの建設のほか、再エネ事業も広く手掛け、スタートアップ企業支援もやっているということで、資金使途には困らないようですね。

 

 坂元氏:そうですね。そういう意味では、われわれは環境だけではなく、ソーシャルも含めて、多様なウィングの広い事業をやっていますので、資金使途となるESGアセットは豊富です。再エネ事業は太陽光、風力に加えて、バイオマス事業にも試験的に取り組んでいます。将来は洋上風力発電事業にも進出したい意欲もあります。

 

 ――再エネは本業の柱の一つにもなり得ますね。

 

 坂元氏:はい。すでにそうなってきています。開発中も含めると再エネ定格容量は現在、約1200MWで原発一基分以上の発電量に相当します。こうしたアセットが積み上がっていることが、わが社の特徴の一つと言えます。再エネ電力を他の電力会社から買わなくても、自前で活用できています。売電もしています。

 

――ESG債の課題はありますか。

 

 坂元氏:デメリットというか、普通の社債に比べると、発行までに手間と期間がかかるという点があります。ESG債の場合、発行までにそれなりの準備や、色々な各機関の認定等にも時間がかかります。そのため、発行しようと企図してから、発行までに時間と手間がかかるのですが、これも複数回、発行を重ねていくと、だんだん収斂したり、同じフレームワークを使って発行できる面も出てきます。

 

 課題としては超長期債の発行ですね。国内のESG債ではまだそうした長期債は出ていないので、われわれもいずれ取り組んでみたいと考えています。今は10年物が最長の感じですね。償還期間を20年、25年、30年とすると、超長期の目標設定をどうするかという点もありますし、資金使途先のアセット自体を、どのように長期に渡って安定的に保有し続けるのかという問題もあります。そうした課題をどういう風にクリアするかを検討しています。

 

 ――個人向けのESG債を出す考えはありますか。

 

 坂元氏:ESGに限らず、個人投資家向けの株保有を意識したIR活動は今もやっています。個人向け社債自体、われわれとしての発行事例はないものの、もし発行する際にはESG債とすることも前向きに検討するべきと考えています。

 

――今後のESG債の発行はどう展開していきますか。

 

 坂元氏:すでにESGファイナンスは市場でも相当数が出ており、投資家の間でも、それなりに、こなれてきていると思います。どちらかというと均質化されてきています。それまでは「ESG債発行」というだけで、メディアにも取り上げられたりしましたが、これからは中身が大事になってくると思います。われわれはESG債で調達する資金によって取り組む事業の目標についても、野心的で高いものを設定しています。その部分を投資家に理解してもらい、投資をする際の資金使途もよくみてもらい、どういう取り組みをしているのか、対話をどうしていくのかというような点を、ぜひ評価してもらえるようになりたいと思います。

 

 われわれは、ESGファイナンスでも、フロントランナーとしてやってきているかなという自負はあります。目新しいことをやるだけでなく、立てた目標を確実に実現していくことが大事なので、今後はそこに力を入れていきたいと思っています。さらに超長期債等の新しい取り組みにもチャレンジして、有用なスキームを世に出し、他の発行体にも広げていきたい。フロントランナーとしての役割を果たし、ESG債市場全体の成長を牽引できるような立場に少しでもなれればと思っています。われわれのリソースを使って、そこを目指していきたいと思っています。

 

                     (聞き手は 藤井良広)