第11回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑭サステナブルボンド賞:名古屋市「国内初のグリーン/ネイチャーボンドの発行」ICMAの実務者ガイドに準拠(RIEF)
2026-03-26 17:01:52
(写真は、名古屋・東山動植物園で、絶滅危惧種のマヌルネコやユキヒョウの展示説明版の前に立つ名古屋市財政局の鈴木雄太氏)
名古屋市は、国際資本市場協会(ICMA)のネイチャーボンドの実務者ガイド(Sustainable Bonds for Nature : A Practitioner’s Guide)に準拠したグリーン/ネイチャーボンドを、国内で初めて発行したことで、第11回サステナブルファイナンス大賞のサステナブルボンド賞に選定されました。ネイチャーファイナンスの認知拡大に貢献するとともに、ネイチャーポジティブ(2030年までに生物多様性の損失を食い止め、反転させて回復軌道に乗せるという国際目標)の実現に向けた機運を醸成することが期待されます。名古屋市財政局財政部資金課課長補佐(市債担当)の鈴木雄太氏に聞きました。
――国内初のグリーン/ネイチャーボンドの発行に至った動機、目的、背景を教えてください。
鈴木氏 : 名古屋市は1952年に初めて市場公募地方債を発行した、わが国の8つの地方公共団体のうちの1つで、地方債発行には長い歴史を持っています。しかし、ICMA原則に準拠したグリーンボンドなどのESG債については、これまで発行してきませんでした。2024年度に市の総合計画が切り替わったタイミングでESG施策に対する理解促進を図ろうと2025年度からICMA原則に準拠したESG債の発行に取り組むことにしました。
ESG債の発行では後発組であったことから、何か名古屋市ならではの特徴を打ち出して、地方債市場における存在感や、投資家に対する訴求力を強めることはできないかと模索していたところ、2025年6月末にICMAからネイチャーボンドの実務者ガイドが公表されました。そこで、「ネイチャー」という新しいラベルでのESG債発行に取り組むことを決めました。
名古屋市は、2010年のCOP10の開催地で、そこで採択された2011~2020年の生物多様性保全の国際目標「愛知目標」が生まれた地です。2023年10月には政令市初の「ネイチャーポジティブ宣言」も行いました。そんな自治体がグリーン/ネイチャーボンドを発行できれば、こうした背景とも相まってネイチャーファイナンスの認知拡大に貢献でき、ネイチャーポジティブ実現に向けた機運の醸成を図れるのではと考え、挑戦しました。

――今回の債券の資金使途の一つが東山動植物園のユキヒョウとマヌルネコを飼育・展示する獣舎の整備という、とてもユニークなものになっています。
鈴木氏 : 名古屋市が運営する東山動植物園は、「希少動物の『保護』と『増殖』への貢献」を基本方針に掲げ、生物多様性の保全を重要な使命とし、絶滅危惧種(EN:危機)の動植物の保護と次世代への継承に取り組んでいます。国内最大規模の約450種の動物を飼育しており、その約4分の1にあたる約130種が絶滅危惧種に指定されています。絶滅危惧種に指定されているアジアゾウについては初めて日本人だけのチームで繁殖に成功するなど、絶滅危惧種の飼育や繁殖を通じ、生息域外における生物多様性の保全に貢献しています。
そのような中、今回、ネイチャー適格事業としてフレームワークの資金使途としたのが、「人と自然をつなぐ懸け橋へ」を目標に、開園100周年を迎える2036年までを計画期間として取り組んでいる「東山動植物園の再生整備」です。生息環境を再現した獣舎の整備や、アニマルウェルフェア(動物が誕生してから死を迎えるまで、動物の身体的及び精神的な状態を良好に保つこと)の工夫を取り入れながら繁殖に積極的に取り組むとともに、展示を通じた環境教育を行っており、今回発行したグリーン/ネイチャーボンドは、ユキヒョウとマヌルネコを飼育・展示する獣舎の整備に充当しました。獣舎は2027年度にオープンの予定です。
――発行に当たり、難しかった点、気を遣った点はどこですか。
鈴木氏 : 債券発行のフレームワークの策定にあたり、庁内の関係部署との調整や、適合性評価取得に向けた格付機関との調整に苦労しました。市場環境が不安定な中、年間の資金調達の安定消化・金利上昇リスクの回避のため、また、愛知県のグリーンボンドと発行時期が重ならないように、発行時期は当初想定の11月より早めの9月に設定しました。投資家への訴求を考えると、遅くとも8月初旬にはフレームワークを公表するというスケジュールで調整を行いました。
動き出したのが5月頃だったため、実質の調整期間は約3カ月と非常にタイトな状況でした。また、適格事業の事業費に年度ごとのバラつきが発生した場合でもESG債の発行を継続できるように、対象事業をできる限り幅広く選定できるように調整しました。それにより格付機関や庁内関係部署との調整は大変ではありましたが、今後のESG債の継続発行の安定度を高めることにつながったと考えています。

――ネイチャーボンドの実務者ガイドとの適合性の外部評価はスムーズに取得できましたか。
鈴木氏 : ネイチャーボンドの実務者ガイドとの適合性評価取得に向けては、実務者ガイドが6月末に公表されてからの調整であったため、期間がかなり短く、機動的かつ柔軟に対応する必要がありました。格付機関のアナリストに東山動植物園に来ていただき、動物園職員による解説も交えながらの現地視察を実施するなど、取り組みの内容を丁寧に説明したことで、国内初の「ネイチャー」という新しいラベルを実現できました。
――市場やメディアの反応、評判はいかがでしたか。ネイチャーポジティブの機運は狙い通り高まってきましたか。
鈴木氏 : 発行時、地方債市場の需給環境はあまり良くはない状況でしたが、名古屋市内外の幅広い業態の投資家から49件、103億円の需要を集めることができ、国内初の発行を成功させることができました。市外の投資家の方からは「普段、5年地方債は投資対象ではないが、ネイチャーラベルで発行するというコンセプトに共感し、特別に投資した」という声をいただきました。
市内の投資家からは、「地元市民にとって思い入れのある東山動植物園が、資金調達の充当事業であることから、より身近な債券として投資意欲を高めた」などの、ありがたい意見をいただきました。また、名古屋市がグリーン/ネイチャーボンドの発行に率先して取り組んだことは、マーケット関係のメディア以外にも、地元新聞紙をはじめ数多くのメディアで取り上げていただけました。ネイチャーポジティブの認知拡大、実現に向けた機運醸成につなげることができたのではないかと感じています。
――今後の展開、次のステップを教えてください。
鈴木氏 : 今後もグリーン/ネイチャーボンドを継続して発行できるようにチャレンジし、地方債市場における名古屋市のESG債の存在感を確立していきたいと考えています。それにより市場におけるネイチャーファイナンス拡大に貢献し、ネイチャーポジティブ実現に向けた更なる機運醸成を図ることができればと思います。そのためにはまず何よりも、今回発行した債券のインパクトレポーティングを最優先で取り組み、投資していただいた方々に対する説明責任を果たし、次回の発行に向けたアピールにつなげていきたいと考えています。
他の地方公共団体からもネイチャーラベルについての問い合わせが複数あると証券会社から聞いています。今回、名古屋市が発行したグリーン/ネイチャーボンドが一つのきっかけとなって、他の団体においてもネイチャープロジェクトを資金使途に含むESG債の発行が拡大し、地方債市場やESG債市場がこれまで以上に活性化していくことを期待しています。名古屋市はESG地方債市場に参入したばかりのルーキーですが、今後も社会的意義のある起債を通じて、地域の環境意識を変えるきっかけをつくり、ESG推進を喚起できるよう努めたいと考えています。
(聞き手は、宮﨑知己)

































Research Institute for Environmental Finance