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全銀協、「カーボンニュートラル実現に向けた全銀協イニシアティブ」公表。「公正な移行」を掲げ、評価軸の整理対象にタクソノミーも。移行ファイナンスの課題も指摘(RIEF)

2021-12-17 16:33:28

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 全国銀行協会は16日、2050年「カーボンニュートラルの実現に向けた全銀協イニシアティブ」を公表した。日本社会全体のネットゼロへの「公正な移行」を銀行として支え、実現することをミッションとして位置づけた。銀行界全体の重点取り組み分野の中で、サステナブルファイナンスの評価軸・基準についてタクソノミーを含めて「整理」をするとした。トランジションファイナンスについては、「信頼性、透明性に課題がある」とし、特に炭素多排出業種の移行支援は銀行のスコープ3を一時的に増加させる可能性があると、慎重な姿勢を示している。

 

 「イニシアティブ」は、カーボンニュートラルに向かうための銀行業界としての基本方針4項目と、当面(今後3年間)の重点取り組み分野5項目を整理している。基本方針は①(銀行界は)金融・社会インフラとしての役割発揮②産業界との連携③政府・関係省庁への提言④国際的な議論への参画の4点。

 

 これらを実現するための重点取り組み分野は、①エンゲージメントの充実・円滑化②評価軸・基準の整理③サステナブルファイナンスの裾野拡大④開示の充実⑤気候変動リスクへの対応、としている。

 

 基本方針の一番目にあげた「⾦融・社会インフラとしての役割」は、銀行本来の機能を踏まえ、EU等で強調される「公正な移行(Just Transition)」を、(わが国の銀行界が)金融面で支える社会的使命、として位置付けた。

 

 同時に、「カーボンニュートラル」「移行ファイナンス」ならば、銀行はいくらでも支援してくれるのかという期待に対しては、「投融資先を含めた気候変動リスクを管理し、⾃らの健全性を維持するとともに、ステークホルダーの期待にも応える必要」とした。リスク次第という銀行本来の姿勢を堅持する形だ。

 

 「産業界との連携」では、全銀協として関係経済団体と業界レベルのエンゲージメント(対話)を実施し、協会がハブとなって加盟銀行にフィードバックするとした。エンゲージメントの活用は重点取り組みでも最重視項目だ。投融資先となる産業界の取り組み状況は業種や企業によって多様。政府は「グリーン成長戦略」で2050年に向けて成長が期待される14重点分野を選定したが、「一方で、多排出業種の中には、技術的・経済的課題があるケースがある」として、鉄鋼、化学、電力、ガス、石油、セメント、製紙パルプの7業種を列記した。

 

 重点取り組みの一つとした「評価軸・基準の整理」では、投融資先の移⾏計画の妥当性、信頼性を判断する評価基準が十分に整理されていない点への対応強化の必要性を指摘している。この中で、利用可能な基準等として、タクソノミー、各種ガイドライン、シナリオ・ロードマップ、ESG評価等をあげた。

 

 このうちタクソノミーは、経団連が導入に反対を表明してきたが、全銀協はEU以外の諸国への広がりが進んでいることと、国際サステナブルファイナンスプラットフォーム(IPSF)で共通化の作業が進んでいること等を受けて、整理対象に含めた。

 

 サステナブルファイナンスの主な論点として、①ESG評価の活⽤は貸出先・銀⾏双⽅に対応負担があり、⼩⼝貸出に適⽤しづらい②中⼩企業⾦融では、指標のモニタリングなどに負担感あり③トランジション・ファイナンスは国際的に議論の途上だが、信頼性、透明性に課題④多排出業種の移⾏⽀援は銀⾏のScope3(financed emission)を⼀時的に増やす可能性⑤政策転換や規制導⼊による銀⾏の貸出資産の座礁資産化リスクあり――と指摘した。

 

 「情報開示の充実」については、銀⾏の温室効果ガス排出量は⼤宗をスコープ3が占めるため、企業側の開⽰充実と銀⾏の開⽰充実は表裏の関係にある、と指摘。ただ、そのスコープ3の指標・算出方法の整備は発展途上で、分析の不確実性の高さ等からシナリオ分析の設計にも課題があり、TCFD開示も企業側の開示情報不足が大きいとしている。

 

https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/news/news331216_2.pdf