第11回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑬サステナビリティ・サポート賞:イー・アール・エム(ERM)日本。金融機関向けに自然関連等のツール支援で協働(RIEF)
2026-03-23 14:22:23
(写真は、ERM日本の兼松浩介氏㊧と宝蔵花穂氏㊨)
国際的にサステナビリティ・コンサルティングを展開するイー・アール・エム(ERM)日本は、ネイチャーファイナンス分野で生物多様性インパクト指標等のツールを開発、主要金融機関のサステナブルファイナンスの取り組みを支援してきたことから、サステナビリティ・サポート賞に選ばれました。同社コンサルティングパ―トナーの兼松浩介氏と、シニアコンサルタントの宝蔵花穂氏に聞きました。
――まずERMの現状を教えてください
兼松氏 ERMは「知る人ぞ知る」という側面のある企業です。会社の名前を知っていても、何をやっているのかをご存じの方は少ないかもしれません。1971年創業であり50年以上の実績があります。5年前に米投資ファンドのKKRが当社の最大株主になり、「環境に強いコンサル」という従来の強みを活かしつつ、よりビジネスの洞察力を持ってクライアントを支援する方向に変わってきています。
ERMには創業以来、3つの柱があります。一つは石油ガス産業における環境・安全管理のサービスです。これは創業した英国において北海油田の開発が進められる中、環境に悪影響が無いように海洋調査を行ったり、そこで働く労働者の安全を守る点などを重視するビジネスを始めたのが原点になっています。石油ガスや化学セクターにおける環境安全支援サービスは今も続いています。
二番目は、途上国でのインフラ開発です。1980~90年代は主に途上国において、環境や先住民・地域コミュニティの権利を十分に考慮しない開発が社会問題化しました。そこで2000年頃から、世界銀行や国際金融公社(IFC)等の国際開発金融機関が自然環境や人権に配慮したインフラ開発のためのセーフガード方針を提唱し、その実装をERMがサポートしました。それらの活動を通じて環境社会配慮の確認支援サービスが、われわれの強みに加わりました。このビジネス展開により、英米だけでなく途上国を含む世界中でオペレーションをする体制を構築しました。その中で1999年に日本オフィスも設立しました。
こうしたグローバル、クロスボーダーのオペレーションがある中で、三番目の柱として、企業合併・買収(M&A)での環境デューデリジェンス(DD)事業があります。事業DDに強みをもつコンサルティング企業は数多くありますが、環境に特化したDDはERMが持つユニークな強みです。特に、2000年代にプライベートエクイティ(PE)が成長し、M&Aの主体の一つとなったことで、PEからERMへの環境DDの依頼が増え、現在も事業の大きな柱になっています。

――サステナブルファイナンスはそれらの柱のいずれにもつながりますね。ERMは同ファイナンスをどう位置付けていますか。
兼松氏 この5年間、ESGやサステナビリティ等が盛り上がる中で、気候変動、自然、人権、人的資本等の分野で企業を支援するべく、より積極的に注力してきました。具体的には、情報開示支援だけでなく、サステナブルファイナンス商品の開発、サステナブルオペレーションの実装にも力を入れています。
金融インフラのサステナビリティ高度化において、ERMは今までは環境社会のネガティブなインパクトを抑えるリスク管理の分野が強かったですが、現在はそれに加えて環境社会のポジティブなインパクトを支援するサステナブルファイナンスも積極的に推進しています。
――今は米国がトランプ政権下で、ESGやサステナビリティ分野は大きな波をかぶっています。「追い風」が無くなったと思われる中で、風がなくても船が進めるのかとの疑問もあります。
兼松氏 本当にそうですね。私は世界銀行やESG評価・認証のサステナリティクス等を経て、2023年10月にERMに入社しました。2020年前後からグリーンボンドやESG投資が急拡大し、まさに“非常に強い追い風”があった時期を体感しました。ですが、2025年初めからそうした追い風は弱まった印象はあります。
ただ、この1年を含め、サステナブルファイナンスの分野は進化を続けており、実装まで伴走する支援に対する需要の高まりを感じています。私自身は前職のサステイナリティクスでセカンドオピニオン(SPO)を担当していたのですが、当時、SPO は一定の役割を果たすものの、それだけでは金融機関や投資家が求める“実行段階の支援”には十分に応えられない場合もあると感じていました。具体的には、ESG債のSPOは、資金使途を特定したグリーンボンド等の場合は、現時点でグリーンか、明確な環境改善効果が認められるかなどを、整理する作業です。それ自体、価値のある取り組みですが、将来的にサステナビリティを改善していくことを、企業や金融機関が追求する領域(例:トランジションファイナンス)が拡大する中で、そのままでは期待に応えるのが難しいと感じていました。そのような領域では、ERM が長年培ってきた技術的知見や現場理解がより生きる局面が増えてくると直感していました。
ERMに入社して特に印象的だったのは、技術面や現場での環境・社会リスクに対する深い理解と、その蓄積が実務に直結している点でした。そうした力が実装やポジティブインパクト創出において重要になるのだろうと考えました。そして、金融機関や事業会社との連携で、ERMができるところは多いと思いました。
実際、ERMに入社後、Climate Bonds Initiative (CBI)のパスウェイ型評価の考え方を踏まえたトランジションファイナンス評価枠組みの策定を日本生命と進めたことで大きな学びがありました。また、三井住友信託銀行との気候変動分野での合弁会社設立により、同行との戦略的な連携機会が増え、サステナブルファイナンス分野での取り組みを着実に広げることができています。
両社とは、気候変動だけでなく、自然分野の取組みでもご支援する機会を得ました。それらプロジェクトを通じて一定の存在感が出てきたことから、他の金融機関や企業と協働する機会も増えています。そういう意味では、極端な追い風は無くなり簡単な状況ではないですが、まだ自分たちで船を漕いで意義ある方向に進める立ち位置にいると思います。
――米国のトランプ政権の反ESG・サステナビリティの逆風は結構、本気という感じです。日本での日生や三井住友信託等の金融機関との取り組みは、単に「時差」の問題なのか、あるいは、かなり自分たちで消化したうえで独自の取り組みに昇華していくものなのでしょうか。
兼松氏 私は、現在の環境下においても前進できると思っています。もちろん、激変する国際政治の状況下ではサステナビリティはスローダウン気味であり、それに合わせて動きをスローダウンさせる企業もあるでしょう。一方で、今回のサステナブルファイナンス大賞の授賞式に参加して強く感じたのは、「仮に周りがスローダウンしても自分たちは前に進みたい」という意思が、複数の授賞企業から感じ取れて非常に心強かったです。

おそらく、授賞企業のみなさんも2023年頃に「次のステージに行かないと、サステナブルファイナス市場は活発化しない」というか、“踊り場に来る”と感じて、努力されてきたものが現時点で結実した、と推察します。2020年代の前半は再エネ、電気自動車(EV)、グリーンビルを対象としたグリーンボンドを出せばニュースになる時代でした。それらが一巡して、「サステナブルファイナンスは質や幅の面でも、このままでいいのか」という問題意識が業界内にあり、新しいものを創造したいという空気がその間に広がったのでは、と思います。そういう意味で、「国際的な逆風の中でも何とかやっていこう」という意思が日本の金融機関や企業にある、と感じます。
――日本での個々の取り組み自体が、まさに持続可能性があるのかという疑問もあります。欧米では、個々の取り組みを、国際的なルールメーキングへと高める動きが多いようです。日本の取り組みも、国際的なものにつながることで持続可能性が高まると思います。そういう方向になりそうですか。
兼松氏 そこが本当に重要な点です。サステナブルファイナンスのユニークな価値ある取り組みが、一過性および局所的なものに留まっては非常にもったいない。再現性やスケールの確保は極めて重要で、そこに十分な工夫がなければ、勢いが鈍化する可能性もある。しかし、国内での取り組みを国際的な水準や動向にうまく接続してスタンダード化できれば、継続性は十分に確保できると考えています。
その例の一つは、日生と実施したトランジションファイナンスのパスウェイ型の評価制度です。これはCBIが提唱するパスウェイに沿った適格性評価のアプローチです。従来の評価ではガス火力発電などの化石燃料ベースのアセット等は一律に適格・不適格と判断されがちでした。パスウェイ型アプローチでは、CCS の導入や将来的な水素転換など、排出削減に向けた具体的な計画を踏まえて国際的な気温目標(1.5℃等)達成への貢献度に基づいて適格性評価を行います。今後、同評価手法を活用した投融資実例が増えることを期待しています。
ネイチャーファイナンスでも、植物の光合成から生み出されるエネルギー量であるネットプライマリープロダクション(NPP)をインパクト指標に据えた方法論も日生と提唱し、国内外に広げるべく取組んでいます。
――自然分野への取り組みは結構、進んでいますね。三井住友信託銀行の取り組みも、今回の大賞で優秀賞となりました。同取組へのERMの関りを教えてください。
宝蔵氏 三井住友信託銀行が受賞された「サーキュラーエコノミー・ネイチャーポジティブファンドの組成」については、ネイチャーポジティブに資する事業をまとめたタクソノミーを策定しました。それ以外に同行に対しては、ネイチャー・インパクトファイナンスの開発~実行面で伴走も行っています。

ネイチャー分野におけるインパクトファイナンスの意義として、「自然関連の情報開示は進んでも、実際の資金動員にはなかなか繋がらない」という課題意識やギャップを、われわれが埋めに行く形で方法論の開発と、第三者評価を行った点にあると思います。自然の世界ではTNFDやSBTN等のフレームワークは複数ありますが、これらをいかに金融実務に落とすか、という民間金融機関目線のガイダンスはこれまでほぼありませんでした。一方、自然の劣化は刻一刻と進んでおり、金融システムにとっていずれ顕在化するリスクも増すばかりです。そこで国際機関・政府やスタンダード設定機関からのガイダンスや指示を待つのではなく、ERMと金融機関とが協力し、現場から作っていこうとして作り上げたのが特長です。
同行との取り組みでは、ERMが提供する評価書を元に、同行が企業にローンを提供するスキームです。当社評価のベースとなるのが当該企業が策定したTNFD開示ですが、開示の中で説明されているKPIや目標などを確認することで、対象企業が事業上で自然に対してどのようなネガティブインパクトを及ぼしていて、それをどう緩和し、さらにポジティブなインパクトにつなげているか、という点を評価します。自然の変化は短期的に現れるものではないので、当該企業が設定するKPIや目標が、将来にわたる長期的な目線で自然へのインパクトを改善できるか、という点も評価のカギです。たとえば漁業会社の場合、絶滅危惧種を採取していないか、持続可能な調達をしているかなどをわれわれが評価し、当該企業が今後長年にわたってネガティブなインパクトを緩和しながら、持続可能なビジネスを行っていけるかを確認しています。
――広がりの手応えはどうですか。
宝蔵氏 第1号案件ではニッスイの評価を実施し、その後も、問い合わせや相談は着実に増えています。一方で、市場環境の変化を踏まえながら、その意義を丁寧に伝える工夫が求められており、関係者と共に第2号、第3号へと広げていきたいと考えています。
――ISSBも年内に自然分野の開示案を出します。
兼松氏 ISSB開示を通じて企業からより多くのサステナ情報が開示されることは、サステナブルファイナンス市場の拡大にとってもプラスだと思います。例えば、三井住友信託と実施したのは、インパクトファイナンスですが、KPIを重視した同アプローチはサステナビリティリンクローンにも使えると思います。今までのESGファイナンスのKPIは、GHG排出量をはじめ、男女の従業員比率、役員比率等が主でしたが、今後は、自然や循環経済などの領域を含めてKPIや目標の活用が増えることを期待します。
――「今後」をみると、米国のトランプ政権の流れは少なくともあと、3年は続きます。トランプ氏は、石炭の利用も促進しているほか、「温暖化は詐欺」とも主張しています。日本でも手応えのある取り組みが出ていますが、これらの「芽」が育つのか、あるいは「根」も吹き飛ぶのか。どうみておられますか。
宝蔵氏 政治情勢が不安定で、意見・考えの対立が生じる時期だからこそ、サステナビリティと金融実務を「翻訳」する業務と、その人材は引き続き必要だと思います。私自身、前職で金融機関のサステナビリティ部門の立ち上げに携わったり、気候変動や生物多様性関連の国際会議に参加したりと、(自然分野を含む)サステナビリティテーマ×金融の仕事を数多く経験してきました。この中で感じるのは、金融実務と自然分野の両方がわかる人材が少ない、ということです。
昨今、サステナビリティ専門の人材獲得を抑制したり、専担部署を解体する動きもありますが、自然のような一見、金融とは関係がなさそうなトピックに関する「言語の違い」を理解し、ファイナンスやビジネスに近い視点から語り、実務に落とし込むまでを橋渡しする人材は重要だと思います。こうした分野こそ長年金融機関や企業に伴走し、かつサステナビリティに深く携わってきた、われわれの腕の見せ所だと思っています。
(聞き手は 藤井良広)

































Research Institute for Environmental Finance