HOME10.電力・エネルギー |アイルランド最大で最後の石炭火力発電所を、浮体式洋上風力発電とグリーン水素製造の基地に転換。同国の電力公社ESBが公表。2030年温室効果ガス51%削減の中間目標達成に貢献(RIEF) |

アイルランド最大で最後の石炭火力発電所を、浮体式洋上風力発電とグリーン水素製造の基地に転換。同国の電力公社ESBが公表。2030年温室効果ガス51%削減の中間目標達成に貢献(RIEF)

2021-04-12 16:12:19

Ireland001キャプチャ

 

 アイルランドの公的エネルギー機関のESB(Electricity Supply Board)は、同国で最大のCO2排出源であり、2025年までに廃止される予定の同国最後の石炭火力発電所を、浮体式洋上風力発電所建設の基地に切り替え、グリーン水素プロジェクトの生産拠点とする計画を公表した。同国は2030年の排出削減目標を90年比51%と設定しており、温暖化加速の象徴だった石炭火力発電所を再エネ拠点に切り替える。

 

 「石炭火力」⇒「グリーン水素」転換の象徴になるのが、クレア州キルラッシュのシャノン川河口近くのマネーポイント(Moneypoint)に建設されている石炭火力発電所だ。発電量は915MWで同国最大の石炭火力。1979~87年に7億ポンドを投じて建設された。

 

 同発電所の発電規模は、アイルランドの電力需要の25%をまかなう。同発電所の建設前の同国はエネルギーを輸入石油に頼っていた。だが、70年代の石油危機の影響で自前の石炭火力発電所を国家事業として建造した経緯がある。

 

2025年に廃止が決まっているアイルランド最大の石炭火力発電所(Moneypoint)
2025年に廃止が決まっているアイルランド最大の石炭火力発電所(Moneypoint)

 

 しかし、同国政府は気候変動の進展を受けて、2015年に、気候行動と低炭素発展法(Climate Action and Low Carbon Development Act 2015)に基づき、2050年の温室効果ガスの排出量を80%削減(90年比)することを決定した。そのために、石炭火力発電を停止し、低炭素な再エネ発電への切り替えを宣言した。

 

 ただ、これまで具体的な転換の時期は未定だった。また政府が実行する個別の温暖化対策は「2050年80%削減」の法的目標と整合性がないとして、環境NGOから訴訟を提起され、2020年夏に最高裁判決で国は敗訴している。こうした経緯から、政府は2025年までに石炭火力発電の全廃を明確化し、その代替として、今回、再エネ・グリーン水素事業「グリーン大西洋プロジェクト」を公表した。http://rief-jp.org/ct8/105307

 

 同プロジェクトでは、マネーポイントの沖合にノルウェーのエネルギー会社エクイノールと共同で浮体式洋上風力発電設備を建設する。風力事業は全体で1400MWの発電規模を持ち、160万の家庭の年間消費電力量を供給できる。建設費は数十億ユーロとされ、EUの補助金等を前提に今後10年以内に建設する方針という。

 

 ESBのCEO、Pat O’Doherty氏は「われわれはアイルランド経済からカーボンを取り除かねばならない。長年、マネーポイントでの石炭火力発電の停止を検討してきたが、ようやく今回、同地区の再生計画を公表できた。新事業は雇用創出につながるだけではなく、アイルランドの気候目標に適合し、将来の電力供給の安定につながるものだ」と強調している。

 

 洋上風力発電の建設事業の間、廃止された石炭火力サイトは、風力発電施設の建設、組み立て事業のセンターとして活用される。その後、同地に水電解設備を建設し、風力発電のグリーン電力を活用した「グリーン水素」の製造、貯蔵、配送等を展開する計画だ。

 

 アイルランド連立政権は先月、2050年の温室効果ガス排出量ネットゼロを実現するため、気候行動と低炭素発展法改正案をまとめ、2030年の中間目標を51%削減(2018年比)を明記した。https://rief-jp.org/ct8/112514?ctid=71

 

 我が国でも、仙台、横須賀、神戸等で石炭火力発電所をめぐる訴訟が起きているが、化石燃料設備をクリーン電力の再エネ設備に転換する「オセロ」戦略を国が打ち出す必要があるだろう。

https://esb.ie/tns/press-centre/2021/2021/04/09/esb-announces-green-atlantic-@-moneypoint

https://www.siliconrepublic.com/innovation/moneypoint-wind-farm-renewable-energy