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韓国電力公社(KEPCO)、オーストラリアで開発予定の火力発電用石炭鉱山の開発不許可、裁判でも覆らず。開発で取得した利権は座礁資産化の公算(RIEF)

2021-09-18 16:51:19

KEpcoキャプチャ

 

 オーストラリアのニューサウスウェールズ(NSW)州の裁判所は、韓国電力公社(KEPCO)が申請していた石炭鉱山の開発許可を却下する判決を下した。KEPCOが開発を目指していたのは、シドニーから北西約200kmの地点にある農地を露天掘りする炭鉱事業。2年前に同州の独立開発委員会(IPC)から計画を拒否されたが、訴訟での解決を目指していた。KEPCOの鉱山開発利権は座礁資産(Stranded Assets)となる可能性が高い。

 

 KEPCOの子会社のBylong Coalが開発を主導してきた。同州のBylong(バイロング)渓谷にある広大な農地6958haに埋蔵されている膨大な石炭資源の開発計画を立て、同地一帯を買収してきた。対象地域は約1160haとされ、これらを地表から掘り進め、火力発電用の石炭を開発する計画だ。対象地域は古くから穀物栽培等の農業として開発され、現在はナショナルトラストの保全地区にも含まれている。

 

 同地での石炭資源埋蔵量は1億2400万㌧と見込まれ、年産650万㌧を25年間継続生産できるという。しかし、18年にKEPCOの開発申請を受けた同州のIPCは、翌年、同開発計画によるCO2排出量の削減計画が不十分、地下水汚染の懸念、景観への配慮等を理由に、認可を拒否した。

 

 KEPCOは委員会の決定に不服として、裁判所に上訴の形で提訴した。しかし、今回の判決で裁判所もIPCの分析と指摘を支持し、KEPCOの開発計画を改めて却下、裁判費用の支払いを命じた。

 

  計画申請から訴訟の過程で、KEPCO側が強調したのは、新たな炭鉱開業が同地域もたらす雇用メリットだ。これについて判決は、「確かに(雇用等で)メリットを生みだすのは確かだ。だが、操業終了後の復旧等に大きな負担を次世代に負わせる」と指摘。次世代の負担を重視する姿勢を示した。

 

 オーストラリアはこれまで中国向けに大量の石炭を開発輸出してきた。しかし、2018年以降、両国の間は、5Gネットワークからのファーウェイ排除問題や新型コロナウイルス問題等で悪化、対中輸出はほとんど止まっている。本来ならば、韓国資本による石炭開発は、対中需要を補う期待もあったと思われる。

 

 しかし一方で、気候変動対策を国際的に強化する機運が高まっている。国連は石炭火力を2030年までにグローバルに停止することを呼び掛け、OECDも同様の動きを強めている。モリソン豪政権はエネルギー推進を政策の柱として維持しているが、OECDのメンバーとして温暖化対策への対応を明らかにする必要性も迫られている。

 

 このためエネルギー大国のオーストラリア自体、推進するエネルギーの中心をこれまでの石炭から天然ガス、さらには水素開発等にエネルギー政策の力点を移し替えつつある。一方で今回のKEPCOのように、需要国側での発電用の石炭需要は、供給国側の見直し程には進んでいないようだ。日本も2030年までにCO2排出量46%削減を宣言する一方で、既存火力発電の切り替え方針は打ち出せていない。

 

 今回のKEPCOの石炭開発での敗訴は、そうした需給の変化を把握できず、従来の保有資産のダイベストメント(Divestment)のタイミングを逸した企業が、辿る一つの道筋ともいえそうだ。

 

https://www.ipcn.nsw.gov.au/resources/pac/media/files/pac/projects/2018/10/bylong-coal-project/determination/bylong-coal-project-ssd-6367–statement-of-reasons-for-decision.pdf