HOME |丸紅、インドネシアのチレボン1石炭火力発電事業の「早期運転終了」で、アジア開発銀行の「優遇制度」活用。実際の短縮は5年だけ(?)。発電規模5割増のチレボン2は予定通り稼働へ(RIEF) |

丸紅、インドネシアのチレボン1石炭火力発電事業の「早期運転終了」で、アジア開発銀行の「優遇制度」活用。実際の短縮は5年だけ(?)。発電規模5割増のチレボン2は予定通り稼働へ(RIEF)

2022-11-14 23:19:44

Cirebon1001スクリーンショット 2022-11-14 230107

 

  丸紅は14日、インドネシア・ジャワ島西部で操業するチレボン1石炭火力発電所について、アジア開発銀行(ADB)が推進する「エネルギー・トランジション・メカニズム(ETM)」を活用し、2042年に予定する運転終了時期を早める方針を打ち出した。ただ、短縮期間は「5年程度」にとどめるとみられ、現在ほぼ完成しているチレボン2発電所は予定通り稼働させる方針。丸紅のインドネシアでの「脱炭素」方針は、漸進主義のままといえそうだ。

 

 同日、ADBをはじめとする関係機関との間で事業期間短縮に向けた相互協力に関する覚書を結んだ。チレボン発電所は西ジャワ州チレボン県で開発されている。2012年7月に操業を開始したチレボン1と、現在ほぼ完成し、試運転中のチレボン2の2基の発電所を抱える。

 

 今回、早期発電終了の方向性が示されたチレボン1は発電量660万MWの超臨界圧火力発電(SC)。丸紅が筆頭株主で32.5%を出資するチレボン・エレクトリック・パワー(CEP)社が事業を運営している。同社にはこのほか韓国中部電力(27.5%)、Samtan(韓国企業、20%)、インドネシアのIndika Energy(20%)が出資している。

 

 丸紅が、チレボン1の早期終了で利用するADBのETMは、石炭火力からクリーンなエネルギーへの移行支援を実現するための資金供給の仕組み。ADBは石炭火力事業の移行のために低利融資を行い、それを原資として運営会社のCEPは出資企業の持分や当初想定の配当額に該当する資金を供給する。融資の返済資金は、短縮する運転期間の残り期間で得る収益で返済するとしている。

 

 焦点は、現行計画では同発電所の操業期間をどの程度、短縮するかだ。同石炭火力の操業寿命は30年間(2042年まで)としている。この点でADBは「石炭火力は技術的寿命は40~50年で、想定通りに30年間の操業で契約終了となっても、再契約により10~20年の延長されることが通常」と指摘したうえで、「今回のETMを使った覚書で操業終了期間を仮に2037年とすれば、少なくとも実稼働を15年ほど短縮できる」と説明。操業短縮は、契約上の操業期間より5年だけ短い案を例示している。

 

丸紅のインドネシアでの石炭火力発電事業に抗議する同国の環境NGOら
丸紅のインドネシアでの石炭火力発電事業に抗議する同国の環境NGOら

 

 丸紅は、具体的な操業短縮期間には触れていない。今後、1年かけて、ADBや運営会社、政府系投資公社、国有電力会社との間で、売電契約の変更や、代替電源の手配、運転終了時期などを検討する、と説明している。ETMの枠組みを提供するADBと、それを利用する丸紅の言い分に食い違いが生じるはずはないと考えれば、関係機関が実際に想定しているのは「5年程度」の短縮ということのようだ。

 

 ETMでは、ADBの融資に合わせて日本政府も無償資金を提供する。これらの公的資金は、「早期終了」で、関係企業に生じる見込み収益減や配当減を補填することになる。

 

 丸紅は「今後4社で融資条件や代替電源の手配を含めた事業期間短縮による影響緩和策等、諸条件に合意できた場合、チレボン1はETMを採用した石炭火力の事業期間短縮を図る第一号案件となる見込み」と強調している。だが、ADBが説明する「2037年」への短縮でも、当該発電資産の減価償却を終えた後になり、チレボン1投資への実質的な損失は生じない段階といえる。

 

 「操業短縮効果」がほとんど期待できないと思われるのは、インドネシア政府が定める脱炭素目標への貢献がほとんど見込めない点もある。同国が宣言しているパリ協定の「国が決める削減貢献(NDC)」目標は、2030年までに温室効果ガス排出量の31.89%削減。37年の運転終了への短縮では間に合わない。

 

 丸紅は「既存石炭火力における脱・減炭素の推進を通じて、当社グループの脱炭素プロセスを加速させグリーン化を推進すると共に、インドネシアの脱炭素化に寄与していく」と宣言しているだけに、同宣言をウオッシュ化させないためには、2030年の前までに、操業短縮を前倒しする決断することが望まれる。

 

 環境NGOのFOE Japan等は「地域社会が被ってきた大気汚染や生計手段への影響についても考慮すれば、チレボン1号機の一刻も早い早期閉鎖が必要不可欠」としたうえで、日本政府が提供する無償資金が丸紅をはじめとするCEP出資企業の持分や当初想定の配当額を補填する形となる点も「民間企業がとるべき座礁資産に対する責任を公的資金で補填することによるモラル・ハザードが懸念される」と強調している。https://foejapan.org/issue/20221114/10287/

 

 試運転中のチレボン2発電所の発電量はチレボン1より約5倍増の1000MW規模の超々臨界圧発電(USC)。事業会社のチレボン・エナジー・プラサナ社(CEPR)には丸紅が35%出資し、Samtan(20%)、Komipo(10%)、JERA(10%)、Indika Energy(6.25%)で、基本的に丸紅主導の体制に変わりはない。

 

 環境NGOのデータによると、両事業への融資は、チレボン1が融資総額5.95億㌦。内訳は国際協力銀行(JBIC)2.14億㌦、韓国輸出入銀行、民間は日本の3メガバンクとオランダのING銀行。チレボン2はJBIC7.3億㌦、韓国輸出入銀行4.2億㌦、民間銀行は同1と同じ顔触れになっている。

https://www.marubeni.com/jp/news/2022/release/00089.html

https://www.adb.org/news/features/qa-adb-indonesia-partners-mou-first-coal-utility-retirement-etm