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原発輸出/十分な国内対応こそ優先に (河北新報)

2013-05-27 16:40:45

九州電力の玄海原発
九州電力の玄海原発
九州電力の玄海原発


福島第1原発事故から2年が経過し、安倍晋三首相が原発輸出に向けて一気にかじを切りだした。首相は自身が掲げる成長戦略の柱の一つに原発輸出を位置付けている。だが原発事故の原因が未解明の上、多くの住民が古里を追われ避難生活を強いられている中での経済優先路線には、違和感を拭えない。
 先の中東歴訪で首相は、自らのトップセールスで日本企業のトルコでの原発受注を確実にした。原発を輸出できるようアラブ首長国連邦と原子力協定に署名したほか、サウジアラビアとも協定締結に向けた交渉入りで一致した。

 
 原発プラントは1基数千億円にもなる巨大ビジネスだ。多くの新増設計画があるアジアや東欧、中東は、日本企業にとって魅力的な市場であり、政府も以前から積極的な売り込みを図ってきた。

 
 ただ、原発事故で日本の原発輸出の動きは停滞した。中国や韓国に受注レースで大きく水をあけられ、トルコの原発建設では中国の受注が決定的な状況だった。

 
 それだけに首相主導による逆転劇を評価する声は経済界を中心に大きく、首相自身も経済外交に手応えを感じた様子だ。しかしここは冷静に、原発をめぐる国内状況に目を向けたい。

 
 原発事故では、16万人もの住民が家を奪われ生活の立て直しに追われている。事故原因は専門家の間でも意見が分かれ、原子力規制委員会の検証が今月始まったばかりだ。

 
 汚染水漏れや使用済み核燃料プールの冷却停止などのトラブルも相次ぎ、見通しが利かない廃炉作業が住民の帰還意欲をそいでいる。

 
 停止中の国内の原発について首相は「規制委が新基準に適合すると認めた場合は再稼働を進めていく」との姿勢だが、新設については明言を避けている。高速増殖炉原型炉「もんじゅ」(福井県)が事実上の運転禁止命令を受けたことで、核燃料サイクル政策も破綻状態だ。

 
 「事故の経験と教訓を世界と共有し、世界の原子力安全の向上に貢献することがわが国の責務」。首相は原発輸出の意義をこう説明する。そのことに異論はないが、原発事故の処理に手間取り、国内の原子力政策の方向性も固まっていない現状では説得力を欠く。

 
 首相はまず、今国会で表明した通り、原発事故の被災者支援や廃炉に向け前面に立って責任を果たすべきだ。併せて、地球温暖化対策も踏まえた長期のエネルギー政策を明示し、先送りしてきた「核のごみ」の最終処分についても国民に丁寧に説明する必要がある。

 
 共同通信社の世論調査では、原発輸出について、反対が46.2%と賛成の41.0%を上回った。国内外で原子力政策を使い分ける危うさを国民は見透かしている。

 
 「福島第1原発事故の教訓」を、原発輸出の便利な口上として使われては困る。

 

http://www.kahoku.co.jp/shasetsu/2013/05/20130527s01.htm