国連人権高等弁務官事務所、中国・新疆ウイグル自治区で「深刻な人権侵害」を認める報告書公表。中国と欧米・人権団体の板ばさみ状態の国連高等弁務官が退任間際に公表（RIEF）
2022-09-02 01:53:50
各紙の報道によると、国連人権高等弁務官事務所（OHCHR）は8月31日、中国新疆（しんきょう）ウイグル自治区で「テロや過激派対策の名目で深刻な人権侵害が行われてきた」とする報告書を発表した。報告書は少数民族ウイグル族への中国政府の対応を知るため、現地でのインタビューを行った。報告書では中国政府に13項目の「勧告」を示し、「自由を奪われている全ての人を解放し、家族が再会できるよう安全な手段を確立するべきだ」と求めた。
（写真は、バチェレ国連人権高等弁務官。自らの退任の直前に報告書を公表した）
OHCHRがウイグル族への人権侵害を巡る報告書を発表するのは初めて。報告書の発表は、同事務所のバチェレ国連人権高等弁務官の退任日で、退任期限の31日深夜の直前に記者会見が開かれた。
同氏は5月、新疆ウイグル自治区を訪れるため、国連人権部門トップとして17年ぶりに訪中した。しかし、中国側は同訪問は「交流と協力」が目的だとし、当時、バチェレ氏も「調査ではなかった」と説明したことから、人権団体等からは、「人権侵害を否定する中国に利用された」等の批判を受けていた。
しかし報告書は、同自治区の状況をじかに知る40人とのインタビューを実施し、それらの「証言」を補強材料として作成された。インタビューを実施した人のうち26人は2016年以降に、「強制収容所」と批判されている教育施設で拘束されたか、働いたことがある人だったとしている。
実質的な現地調査を受け、報告書は長年、指摘されてきた教育施設に収容されたウイグル族の人々への拷問・虐待疑惑は「信ぴょう性がある」と記載した。そのうえで、こうした（中国政府による）取り組みは、人道に対する罪に該当する可能性があると指摘した。
ロイター通信によると、同氏は報告書の発表に際し「多大な圧力」を受けていたと明らかにしたという。同氏は6月に、通常、想定されていた2期目の続投をせず、8月末で退任する意向を表明した。報告書の発表は、同氏の退任期限の直前に行うという薄氷の展開となった。
報告書は、世界の企業に対し、中国とのビジネス関係が、同国での人権侵害を助長していないか再点検するよう求めている。中国国内でウイグル族が綿花栽培の強制労働に従事させられている疑いが指摘されており、アパレル産業等では同自治区産の「新疆綿」使用を取りやめる動きも広がっている。
米欧メディアによると、報告書は数カ月前に完成していたが、10月に共産党大会を控える習近平指導部が公表に強く反発し、OHCHRに圧力をかけていたとみられる。バチェレ氏は8月の記者会見で、公表に反対する約40カ国が署名した書簡を受け取るなど「多大な圧力を受けている」と明らかにしていた。
報告書が示した勧告では、ウイグル自治区での人権侵害の申し立てを迅速に調査し、安全保障やテロ対策、少数民族の権利を統制する法的枠組みを全面的に見直し、国際人権法を順守することなども促している。
国連は中国政府の反論声明も同時に公表した。声明は「（報告書は）反中国勢力による虚偽とウソに基づいている」などと強く批判する内容だ。中国外務省の汪文斌副報道局長は1日の記者会見で、報告書は「反中勢力の政治的陰謀に基づくずさんな報告だ」と批判。「内容は完全に虚偽情報のごった混ぜだ」等と主張した。だが、対抗措置の可能性には言及しなかった。
OHCHRの報告書は48ページだが、中国の反論文書は3倍近い131ページに及んだ。
中国メディアは報告書の内容を詳しく伝えていない。10月の共産党大会で習近平総書記の3期目入りが正式に決まるまで、対外関係を安定させておきたい思惑があるとの観測がある。
首相補佐官の中谷元氏は1日、OHCHRの報告書について記者団に問われ、「非常に立派だ」と評価した。中谷氏は「現地を視察し、当局との意見交換をした上での発表で確証を持った報告だ」と述べた。
https://digital.asahi.com/articles/ASQ9133SHQ91UHBI007.html
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR017VP0R00C22A9000000/
Research Institute for Environmental Finance