ロシア北極圏内の資源工場で火力発電所用の燃料タンクから2万㌧のディーゼル燃料流出事故、温暖化の影響で地盤の永久凍土が溶融、建物に影響か。ロシア政府は非常事態宣言を発令（RIEF）
2020-06-04 15:31:03
ロシアの北極圏にあるノリリスクで資源会社の火力発電所付属施設から約2万㌧のディーゼル燃料が周辺の河川等に流出する事故が発生した。ロシア政府は3日、周辺地域に対して、非常事態宣言を発令した。事故の原因として、温暖化の影響で建物が立地している永久凍土が溶融し、施設の強度に影響した可能性が指摘されている。環境NGOのグリーンピースは、汚染による被害は60億ルーブル（約95億円）超にのぼる恐れがあるという。
（写真は、流出した汚染物質で真っ赤に染まった河川。流出防止のオイルフェンスを設置しようとしている）
事故は5月29日にロシア北部の北極圏内の工業都市であるノリリスク市のTaimyrskii Dolgano-Nenetskii districtの工業団地内で起きた。資源最大手のノリリスク・ニッケル（ Norilsk Nikel）の施設内にある火力発電所の燃料タンクが破損、燃料がAmbarnaya とDaldykanの2つの河川に流出したという。河川は汚染で真っ赤に染まった。
車が燃料タンクに衝突し、燃料が漏洩したとの報道もある。漏洩に伴って火災も発生したという。ノリリスク・ニッケルの関係者は、温暖化の影響で永久凍土が溶融している可能性に言及している。http://rief-jp.org/ct8/86345
第一副社長のSergey Dyachenko氏は「異常に暖かい今冬の気温の結果、地下の永久凍土が溶融し、燃料タンクの支えに部分的な影響を与えた可能性があるかもしれない」としている。温暖化の影響でロシアの広大な凍土地帯が溶融する可能性については科学者からも指摘されている。https://rief-jp.org/ct8/97612
永久凍土とは、凍結した状態の土壌を指すが、その名とは異なり必ずしも「永久」に凍結しているわけではない。大部分はロシア、アラスカ、カナダなどの北半球に存在する。それらの地域の約4分の1を覆っている。通常は何千年も前から凍ったままで、深さは数mから100mまでさまざまある。
ノリリスク社の建物の多くは、基盤工事をせず、がちがちに凍った永久凍土の上に直接建てられているという。ただ、同社が自社の工場等から漏えい事故を起こしたのは今回が初めてではない。2016年には、今回の事故地域に近いところにある金属工場の一つで、有害物質の漏洩事故を引き起こしている。その時も有害物質が流れ込んだ、周辺の河川の色は、真っ赤に染まったという。河川はコロナ対策の「東京アラート」ならぬ、温暖化対策不備を警告する「ロシアアラート」かもしれない。
工場が立地するKrasnoyarsk州の地元当局は事故発生の2日後にSNSの情報を受けて全容を把握し、州の非常事態宣言を発した。同地域のAlexander Uss知事は、3日にプーチン大統領へのオンライン報告で、「地元の人々が事故による流出の模様をSNSで流したことでわかった」と説明。これに対して、大統領は、「非常事態をSNSで知れというのか」と怒りを露わにしたとされる。
Krasnoyrsk州の副知事 のAnatoly Tsykalov氏は「事故が直ちに報告されていれば、処理設備を派遣して環境被害を小規模で食い止めることができたはずだ」と指摘している。すでにロシアの検察当局は事故責任者の刑事責任を問うための調査を開始したという。ノリリスク・ニッケル社の責任が焦点になるが、仮に同社が示唆しているように、温暖化の影響が反映したとすれば、政府の温暖化対策の妥当性も問われることになる。
ロシアのWWFの北極担当のAleksey Knizhnikov氏は「今回の事故の影響は長期にわたるだろう。汚染物質は水面を覆うだけでなく、水中に溶融しているので、魚は死に、鳥の羽は汚染され、動物に有害な毒となる」と警告している。
Research Institute for Environmental Finance