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コンゴの人気者だったマウンティンゴリラ「ンダカシ」が死亡。生後2か月で母親を人間に殺され、保護した飼育係の愛情で「立ち上がった」(RIEF)

2021-10-11 20:27:34

Ndecka001キャプチャ

 

 生物多様性の損失が拡大する中、アフリカの一頭のメスのマウンティンゴリラ「ンダカシ(Ndakasi)」が息を引き取った。コンゴ民主共和国のヴィルンガ(Virunga)国立公園で、飼育員の自撮りに直立状態で写り込み、ネットでも人気者だった。ンダカシは長期にわたる病気の結果、9月26日の夜に死亡した。

 

 ンダカシが人気になったのは、長年、彼女を世話してきた飼育係であり友人でもあったアンドレ・バウマ(Andre Bauma)さんが自撮りした際、撮影するバウマさんの後ろで2本足で自然な感じで立つンダカシと、一緒に公園に到着したンデゼ(Ndeze)がカメラに視線を向けている姿がSNSで世界に発信されたからだった。

 

 ンダガシは単に「カワイイ」だけではなかった。2007年、ンダカシは生後2カ月で公園に連れてこられた。同国東部にある国立公園内で、武装した民兵に銃殺された母親の体にしがみついていたのを、国立公園レンジャーによって見つけられ、レスキューセンターに搬送されたのだった。

 

「信頼する人間」のバウマさんに寄り添い、息を引き取った
「信頼する人間」のバウマさんに寄り添い、息を引き取った

 

 母親を殺された悲しみの中で、赤ちゃんゴリラは初めてバウマさんと出会った。彼は母親の代わりに、一晩中ゴリラを抱きしめ、ぬくもりと安心感を分け与えた。ただ、母親を殺されたトラウマと、長いリハビリ期間によってンダカシの「野生」の力が脆弱化してしまったことから、公園側は野生に戻すことはできないと判断し、2009年に新たに設立されたヴィルンガ国立公園のセンクウェクウェ・センターへと移された。

 

 同センターは、ンダカシのように人間による密漁や、戦争の絵強で、親を殺され孤児となったゴリラの赤ちゃん、子どもたちをケアし、リハビリをする施設だ。飼育係のバウマさんもヴィルンガに移り、ここでンダカシの世話をし続けた。そして11年。ンダカシは持病が悪化し、信頼する世話人であり友人でもあるバウマさんの腕の中で息を引き取ったという。

 

 バウマさんは「このような愛すべき生き物を支え、世話することができて幸せだった。特にンダカシが幼い頃、どんなトラウマを受けたかを知っていたから」と振り返っている。同公園でのンダカシの11年間の生活は、いくつかのテレビ番組や映画で取り上げられた。人々はンダカシの温かく遊び心のある性格を知ったが、一躍彼女を人気者にしたのは、バウマさんの自撮写真に写り込んだンダカシとンデセの自然な「立ち姿」だった。

 

 人間の優しさに心を許し、自然と大地に立ち上がったゴリラの姿は多くの人に感銘を与えた。コンゴ当局も同地域の治安の維持、密漁取り締まり等の強化を打ち出し、同地域のマウンテンゴリラの生息数は2007年の720頭から47%増え、21年には推定1063頭になったとされている。

 

 生物多様性保全の議論では、自然を「資本」ととらえ、人類に有益に活用する「自然資本」の考えが軸となっている。だが、自然は人間だけにキャピタルを与える存在ではない。生物多様性の保全とは、動物たちの命と生活の場をキャピタルとして守り、動物たちの人権ならぬ尊厳を尊重し続けるということではないか。

 

バウマさんは「ンダカシが亡くなったことは、ヴィルンガの私たち全員にとって寂しいこと。でもセンクウェクウェで過ごした時間のなかで彼女がもたらしてくれた豊かさに、私たちは永遠に感謝している」と締めくくった。

https://virunga.org/wildlife/primates/mountain-gorillas/gorilla-orphans/ndakasi/