HOME12.その他 |大気汚染物質の微細粒子状物質(PM2.5)、妊娠中の母体に取り込まれ、胎内の胎児の器官形成に影響。胎児の脳や肺等から検出。欧州の研究チームが初検証。大気汚染規制の見直し急務(RIEF) |

大気汚染物質の微細粒子状物質(PM2.5)、妊娠中の母体に取り込まれ、胎内の胎児の器官形成に影響。胎児の脳や肺等から検出。欧州の研究チームが初検証。大気汚染規制の見直し急務(RIEF)

2022-10-07 14:29:23

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 大気汚染物質の微細粒子状物質(PM2.5)が、妊婦の子宮や胎児の肺等の器官から検出されたとの研究結果が欧州で公表された。大気汚染が、胎児の体の形成にまで影響を及ぼしていることがデータで検証されたのは初めて。これまでの研究では胎盤からPMが検出された報告はあるが、胎児の胎内からの検出の確認は今回が初めて。大気汚染の広がりは、生まれる前の胎児にも健康上の影響を及ぼしている可能性が明確になってきた。

 

 (写真は、Pexels(photographer : Lisa Fotios)

 

  研究報告をしたのは、英アバディーン(Aberdeen)大学とベルギーのハッセルト(hasselt)大学の研究チーム。「Maternal exposure to ambient black carbon particles and their presence in maternal and fetal circulation and organs : an analysis of two independent population-based obsercationalstudies」と題する論文が、科学研究サイトの「Lancet Planetary Health」に掲載された。

 

 研究チームは、英国・スコットランドのアバディーン市と同市が属するグランピア地方でランダムに選出した60人の妊婦(16歳以上)とその赤ん坊を対象として調査した。調査対象からは、喫煙習慣のある妊婦は除外した。同時に、妊娠7週から20週の間に中絶された36件(喫煙者除外)の胎児の組織も対象とした。

 

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 その結果、妊婦の子宮内の臍帯血からPM2.5の一種である「ブラックカーボン(BC)」を検出した。このことは、大気中のBCが妊婦の体内に取り入れられて胎盤を通じて、母体と胎児をつなぐ臍帯にまで到達していることを示すと考えられる。さらに妊娠第一期の初期の段階で中絶された胎児の肺やその他の器官(脳や肝臓等)からもBCを検出したという。

 

 調査対象とした妊婦の居住地でのBCの汚染状況と、妊婦の妊娠中の周産期粒子荷重、臍帯血、胎盤の間には強い相関性があった。胎児の各器官から検出されたBCは、対象60件のうち、肺と肝臓からは過半数を上回る36件、脳からは14件だった。

 胎児や子宮から検出されたBCは、石炭等の化石燃料の燃焼、ディーゼルエンジン車等の内燃機関からの排気ガス、森林火災、薪等のバイオマス燃料の燃焼等の炭素を主成分とする燃料の燃焼に伴って排出される。大気汚染物質であると同時に、太陽光を吸収する性質があるため、大気を加熱したり、積雪や海氷面に沈着して太陽光の反射率を下げて氷の融解を促進して温室効果を高める影響も及ぼすことが知られている。

 ハッセルト大学のこれまでの調査では、BCが子宮内の胎盤から検出されていた。しかし、胎盤に到達したBCが胎内のどう胎児に影響を及ぼしているのかまではわかっていなかった。

 大気汚染の影響が母体だけでなく、胎児の体内にまで及んでいることが初めて実証されたことで、研究チームのPaul Fowler教授は「非常に懸念している。BCは妊娠の第一期、第二期に胎盤に影響を与えているだけでなく、胎児の体内にも取り込まれている。胎児の肺や脳、肝臓等の形成に影響を与えていると考えられるほか、特に心配なのは胎児の脳の発育に及ぼす影響だ」と指摘している 。

 

 同チームのTim Nawrot教授も「従来から、大気汚染が妊婦や幼児に影響を及ぼし、それが死産や早産、低体重出産、脳の発育不良等とリンクしていることは知られてきた。そうした現象の結果は、幼児の成長後の人生にも影響を与え続ける」と指摘。

 

 そのうえで「今回の研究結果で判明したように、妊婦に取り入れられた大気汚染物質は、その取り入れられた量に応じて、胎盤を経由し胎児の体内に入っていく。このことは、大気汚染規制に際して、妊婦の妊娠期間のほか、胎児の発育上もっとも外部からの影響を受け易い期間を考慮する必要があることを意味している」と強調している。

 

 現在の欧州のPM2.5規制にも、日本の同規制にも、胎児の生育に及ぼす配慮は十分には盛り込まれていない。今回の研究成果を踏まえて、厚生労働省、環境省は早急に現行規制の見直しと、適正な対応をとることが急がれる。

https://www.abdn.ac.uk/news/16424/

https://www.thelancet.com/journals/lanplh/article/PIIS2542-5196(22)00200-5/fulltext

https://www.thelancet.com/action/showPdf?pii=S2542-5196%2822%2900200-5