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有機フッ素化合物(PFAS)汚染、東京・多摩地区の市民団体調査で、87%の住民の血中濃度が米国の基準値超過。国内基準は環境省の「問題意識の低さ」から、これから検討へ(各紙)

2023-01-31 13:11:21

PFAS004キャプチャ

 

 各紙の報道によると、東京・多摩地域で、有害性が指摘されている有機フッ素化合物PFOS(ピーフォス)が水道水に利用していた井戸水から検出された問題で、専門家が市民団体と実施した住民対象の血液検査結果が公表された。それによると、血中濃度が米国の指標値を超える住民が約85%にのぼった。わが国ではPFOSの環境基準は定められておらず、米国の基準より緩い環境省の暫定値しかない。同省は事態が表面化したことで、ようやく基準のあり方を協議する専門家会合を開催したが、同省の問題意識の低さが際立つ形だ。

 

 (写真は、市民団体が実施した住民向け健康調査の状況=東京新聞から)

 

 調査は、市民団体「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」と、京都大学の原田浩二准教授(環境衛生学)が昨年11月から実施している。今回は対象者約600人のうち、中間報告として87人(年齢21~91歳)分の分析結果を公表した。PFASは、米軍の泡消火剤等に含まれる。国内ではこれまでも、米軍基地内やその周辺地域で高濃度で検出されている。多摩地域では、米軍横田基地(福生市等)との関連が指摘されている。

 

 調査結果では、人体の血中に含まれる13種類のPFASのうち、PFOS、PFOA、PFHxS、PFNAの4種類の血中濃度を測定した。これら4種類の合計値で、米国の指標値を超過した人は、対象者の85%となる74人。環境省は、国内で製造や輸入が禁止されていないPFHxSの濃度調査を2021年に公表しているが、今回の調査での同種類の検出平均値は血液1㎖当たり14.8gとなり、環境省調査の約15倍も高かったという。PFOSとPFOAについては、ドイツの指標値を超えた人が、約24%の21人、PFOAは約7%の6人だった。

 

公表された市民団体の中間報告データ(NHKより)
公表された市民団体の中間報告データ(NHKより)

 

 調査対象となった住民のうち、国分寺市在住の65人に絞ると、自宅の水道に浄水器を付けていない42人の血中濃度の平均値はPFASの4種類のうち3種類で、浄水器を付けている23人を上回った。このため市民団体は、水道水に含まれていたPFASが体内に蓄積されている可能性があると指摘している。原田准教授によると、世界保健機関(WHO)の研究では、浄水器の活性炭がPFASの約9割を除去する効果があるとしているという。

 

 多摩地域の浄水施設ではPFASがこれまでに高濃度で検出されたことから、水源として使用していた井戸からの取水を34カ所で停止している。しかし、同准教授は「過去の汚染状況が高かった可能性があり、それらが体内に蓄積している」と分析している。健康影響については、急性の影響が出る数値ではないものの、将来的に腎臓がんや、妊娠中の場合、子どもが低体重児になる恐れもあると指摘している。

 

 市民団体は、今回の中間報告に続いて、5月以降に、対象者やう600人をまとめた最終報告をする予定。

 

NHKから
NHKから

 

 PFASは「フォーエバーケミカル=永遠の化学物質」と呼ばれ、自然界では、ほとんど分解されることなく体内や生態系等に蓄積される。このため、欧米を中心に基準の整備と規制強化が進められてきた。主要国では水道水や河川や地下水などでの使用基準値が設定されている。しかし日本では法律で定めた規制値等はなく、国が行政指導で水道水と環境中の暫定の指針値として上限の目標とすべき濃度を示しているだけだ。

 

 昨年5月に神奈川県横須賀基地内で確認されたPFASは、排水処理施設で発見された。米軍の調査では、測定値は1㍑当たり1万2900ng。これは、環境省が示した暫定指針値を最大で258倍上回る高濃度だった。これらのPFASは排水設備を伝って、基地の外の海に流れ込んでいる可能性が濃厚だ。PFASは海洋中でも分解されないことから、魚類等への影響が懸念されている。

 

 PFASは、これまでも同横須賀基地のほか、沖縄の米軍基地内外でも指標値を上回る濃度で相次いで検出されている。米軍はジェット機事故や訓練等で使う泡消火剤にPFASを使ってきたことがわかっている。しかし、これまで環境省は沖縄等でPFAS汚染が発覚しても、PFAS汚染問題に正面から取り組んでこなかった。米国をはじめ主要国が、法的基準・規制を制定しているのに、行政の指導指標しか示していない。

 

 首都東京圏内で深刻な事態が表面化してはじめて、環境省は動き出したことになる。環境問題を担当するのが本務の環境省にもかかわらず、環境汚染に対する問題意識の低さが改めて露呈した形でもある。東京都の環境担当者は、「血中PFAS濃度の国内基準がないことから、血液検査をしてもそれが高いのか低いのかが判断できない」として、国の対応の遅さを指摘している。

 

PFAS003キャプチャ

 

 PFASは、水や油をはじき、熱に強い特性を持つことから、20世紀半ば以降、テフロン加工のフライパンや食品のパッケージ、防水服など家庭や企業仕様の多様な製品に使われてきた。しかし、高濃度のPFASは人体に有害な可能性があるとして、2009年以降、一部のPFASから段階的に国際条約で製造・使用が禁止されるようになっている。



 米環境保護庁(EPA)は、高濃度のPFASが引き起こす健康被害として以下をリストアップしている。

 

▽前立腺がん・精巣がんなど一部のがんのリスク上昇

▽妊娠高血圧症など生殖への影響

▽コレステロール値の上昇 肥満のリスク

▽低出生体重・骨の変異など子どもの発達への影響

▽ワクチン反応など免疫力の低下

 

https://www.tokyo-np.co.jp/article/228317