HOME5. 政策関連 |EUの「PFAS規制強化案」に、非EUの日本から大量のコメント送付。全体の2割を占め、実質的にドイツに次ぐ2番目の多さ。官主導の「組織票」作戦か。EU関係者は「眉ひそめる」(RIEF) |

EUの「PFAS規制強化案」に、非EUの日本から大量のコメント送付。全体の2割を占め、実質的にドイツに次ぐ2番目の多さ。官主導の「組織票」作戦か。EU関係者は「眉ひそめる」(RIEF)

2024-03-26 18:15:39

スクリーンショット 2024-03-26 180619

写真は、化学物質汚染の「共通性」を示す一例。日本だけ「2+2=5」に、なるわけはない、との意味)

 

   世界で健康影響への懸念が高まっている難分解性の有機フッ素化合物「PFAS」の使用を抑制するEUの規制強化案の公開コンサルテーションで、日本の企業、業界団体等からのコメントが集中したことがわかった。6カ月間のコメント期間中に届いた約5600件のうち、2割の938件が日本からで、いずれも「規制案」に強く反対する内容だった。国別では、ドイツに次いで実質的に2番目の多さ。EUの関係者は「水俣病やイタイイタイ病などの化学物質汚染で悲惨な健康被害を経験したはずなのに、日本の産業界は今も化学物質の怖さを無視している」と懸念を深めている。

 

 EUは2021年の飲料水指令の改正で、全PFASに対して0.5μg/L、特定のPFAS20種類の合計値で0.10μg/Lとする基準値を定めている。しかし、EUの化学物質管理法REACH(化学物質の登録、評価、認可および制限に関する規則)に登録されているPFASは13種類でしかなく、限られたPFASしか規制対象になっていない。そこで2020年5月に加盟5ヶ国(オランダ、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、ノルウェー)が、PFAS化学物質を一括して使用を制限する規制案を示し、昨年9月25日まで6か月間の公開コンサルテーションで企業や消費者、NGOらの意見を聞いた。

 

 EUの欧州化学物質庁(ECHA)が協議を進めている規制案は、PFASの使用・製造・販売を主には医薬・農薬を除き全面禁止とし、特定の産業分野の用途にのみ、一定期間(移行期間を含め6.5年もしくは13.5年)の制限での執行猶予を設けるという内容だ。https://rief-jp.org/ct12/141661?ctid=

 

 規制強化案に対しては、EUの化学メーカー等も、禁止案の緩和を求めるロビー活動等を展開しているが、一方で、欧州の環境団体や市民団体も、規制の強化を求めて化学業界の動きと政治家の反応に対して牽制を続けている。公開コンサルに集まったコメントはそうした賛否両面の意見だが、「異質」なのが日本からのコメントだ。

 

突出する「非EU」の日本からのPFAS規制強化案へのコメント数
突出する「非EU」の日本からのPFAS規制強化案へのコメント数

 

 ECHAによると、4400の団体、企業、個人等から寄せられた5600強のコメントを国別にみると、最も多かったのはスウェーデン(1369件)、次いでドイツ(1298件)、3番手が非EUの日本(938件)で、4位のベルギー(303件)が日本の3分の1以下なので、上位3カ国からのコメントが突出して多かったことがわかる。

 

 このうち、最もコメントが多かったスウェーデンは、ドイツとともに規制案の提案国で、コメントの大半は、規制強化を求める自然保護協会が展開したキャンペーン的活動によるものが90 %以上を占めたとされる。ドイツは化学・医学等の産業界にPFAS関連企業が多く、NGO等の規制支持コメントと合わせて、実質的にはもっともコメント数が多かった。

 

 化学物質規制の推進を求める国際的な非営利機関のChemsec(本部・スウェーデン)は、「日本の産業界からのコメントは全体のほぼ20%を占めた。PFAS化学物質の使用を世界的に停止させるための今回の取り組みに、これほど断固として産業界が反対する国は他にほとんどない」と驚きを示す。

 

 そのうえで「日本は化学物質汚染と無縁ではない。1950年代に工業廃水が水俣湾に流され、深刻な中毒を経験した水俣病などの産業公害の歴史がある。このような歴史があるにもかかわらず、日本にある世界有数の化学産業は、多くのPFAS化学物質を製造または使用しており、これらの化学物質に対する世間一般の注目度は、米国やEUに比べてはるかに低い」と指摘している。https://rief-jp.org/blog/143587?ctid=33

 

 PFAS規制強化は、EUの規制だが、PFASの製造業者や使用企業等の多くはEUだけでなく、EU以外の国々にも拠点を置いている。PFAS化学物質を活用した製品等はグローバルなサプライチェーンの流れで拡散しており、非EU企業が規制案にコメントすること自体は批判されることではない。だが、PFAS関連企業が多いとみられる非EU国のうち、中国、米国はともに300件に満たないコメント数に留まっている。

 

 日本の産業界がEUのPFAS規制案にこれほど「過敏」なのは、関連する産業・企業が多いということよりも、「組織的な動き」によるとの見方がEU内では強まっている。実際、PFAS対応を取り扱うために「日本フルオロケミカルプロダクト協議会(FCJ)」が2021年3月に立ち上がっている。現在のメンバーは、AGC、ダイキン工業、関東電化工業、クレハ、セントラル硝子、ダイキン工業、DICなど。化学メーカーで構成する日本化学工業協会の「別動隊」との位置づけのようだ。

 

 主な活動は、ずばりEUをはじめとする欧米での規制対応だ。同団体主催で「PFASの規制動向の説明会」をこれまで3回展開している。ECHAの公開コメントに際しても、FCJとして「難分解であることを根拠とし、1万種類を超えるPFASを一括りに規制するのは過剰な措置だ」と反対声明を出したほか、PFAS物質を使用する産業・企業に向けて、「公開コメント用の訴求ポイント」の紹介、代替物の評価、メリット・デメリット、適用免除の要望等のコメント・モデル案を詳細に示すなど、コメントの「組織票」活動を担う役割を果たしている。

 

 企業向けの説明会においては、「数の力が呼びかけの緊急性を高めるため、企業は統一した声を使うのではなく、単独で禁止に反対すべきだ」との策を提案したほか、「(提出するコメントでは、規制案には)代替物質の提案が欠如していると指摘し、PFASを禁止する科学的根拠を疑問視することで、禁止に反対すべき」といった具体的な反対コメントの記載例も示されたとしている。こうした活動が関連業界の「自主的な取り組み」なのか。日本からのコメント団体の中には、経済産業省の名前もある。

 

 日本の社会でもPFAS問題への危惧が広がっている。米軍基地周辺での高濃度のPFASの検出等が広がりをみせているためだ。しかし、PFAS汚染は基地に限定したものではなく、欧米で懸念されているのは飲料水汚染の深刻度だ。特定の場所だけではなく、日常的な飲料水がすでにPFASで汚染されており、さらにこのままだとこれからも汚染度が高まり、人体の健康への影響がより深刻になる可能性が高い点を何とか抑制すべきという点が、EUの規制強化案のポイントだ。https://rief-jp.org/ct12/142562?ctid=

 

 Chemsecは、「人々が日本におけるPFAS汚染のレベルを理解しようと懸命に努力している一方で、日本の産業界がPFASを止めようとする努力を妨害していることを知っているかどうかは定かではない」とも指摘している。産業界の「集団的妨害行動」の一方で、国内メディアの「感度の低さ」も、米欧の専門家たちが「眉をひそめる要因」の一つになっているのかもしれない。

                           (藤井良広)

https://chemsec.org/japanese-industry-confronts-eus-pfas-ban-amid-domestic-contamination-discovery/

https://echa.europa.eu/-/echa-receives-5-600-comments-on-pfas-restriction-proposal

https://cfcpj.jp/pdf/fcj_pbcm_guidance.pdf

https://echa.europa.eu/-/next-steps-for-pfas-restriction-proposal