国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会。東京・神宮外苑再開発問題も「人権に悪影響の懸念」と指摘。これに対し、政府(どの役所か)は、同指摘の削除を要求(REF)
2024-05-30 18:14:52
国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会は、日本についての人権調査の最終報告書を公表した。旧ジャニーズ事務所問題や、女性・外国人労働者が職種や賃金面で不平等に扱われている問題、LGBTQI+への差別等、多岐にわたる課題を抽出、「人権後進国日本」の実態を指摘し、改善を要望している。その中で、日本各地で展開される大規模開発による環境影響評価の手続きが不十分との指摘にも触れ、その代表例として、東京・明治神宮外苑の再開発問題に言及。同事業は「人権に悪影響を及ぼす可能性がある」とした。メディアの報道によると、これに対して、日本政府は報告書からの削除を求めているという。
報告書は6月下旬に国連人権理事会に提出される予定。国連の作業部会は昨年7月24日から8月4日まで日本で調査を行った後、日本の産業界、政策、社会等が抱えるビジネスと人権に関連する諸課題を検証する作業を続けてきた。今回まとめた報告書はそうした作業の総括だ。
報告書の指摘は広範囲におよぶ。それらの諸課題は、長年にわたって指摘されてきたものも多い。しかし、日本政府、企業等は、こうした課題の抜本的な解決にほとんど力をかけず、被害者の救済のメカニズムも十分に機能してこなかった。こうした実態を踏まえ報告書は、「日本には、国連指導原則を効果的に推進するための独立した『国家人権機関(NHRIs)』が設置されていないため、被害者が効果的な救済を受けられない」と指摘。同機関の設置や人権デューデリジェンスの義務化などを求めた。
日本の労働市場での、女性、高齢者、子ども、障がい者、先住民、マイノリティ、外国人労働者、LGBTQI+などへの差別が継続するのは、政府が十分な救済システムを用意していないことや、裁判所を含めて人権問題への理解が不足している等の社会構造があるとも指摘している。「人権後進国」が改善しないのは、社会システムを改善する権限を担う政府(自治体を含め)等の公的なガバナンス機関全体に「後進性」があると見抜かれた形だ。
作業部会報告に、神宮外苑再開発問題が盛り込まれたことも象徴的だ。首都東京で進行する大規模再開発がビジネス主導で、東京で生活する住民の意向を無視する形で展開されていることをを、日本政府も東京都も、事業主体の三井不動産、さらには「地主」の明治神宮も「理解できていない」点が、この国の人権問題の解決を遅らせ、新たな人権課題を生じさせている根本原因を象徴的な事例として取り上げている。
この点で、報告書は「利害関係者(市民ら)が提起する環境問題に対処するための既存の政府メカニズムの有効性について懸念が残る」と述べている。都市等の大規模再開発に際して、国や自治体が「正当化」の根拠として制度化している環境影響評価メカニズムによる評価のプロセスが、現在の日本社会では「十分に機能していない」、あるいは「免罪符」に転じていると言っているわけだ。
「特に大規模な開発計画について、市民協議が不十分という報告を受け取り、深刻な懸念を表明する」と都市の再開発事業全体を評価。その具体的事例に外苑再開発問題に言及した。多様な人々が住み、行き来する街角、コミュニティ、オフィス環境等において、外苑再開発問題は、人権に悪影響を及ぼす可能性がある『象徴』と位置付けた形だ。
報告書は「(外苑再開発問題で)作業部会は、特に気候変動から不釣り合いな影響を受ける可能性のある危険なグループやマイノリティグ ループ等の人々との有意義な協議が、指導原則の下で求められていることを強調する」と言及した。都市やコミュニティは、多様な人々が、行き来し、生活し、勤務し、憩うなどの場であり、ビジネスだけの場ではないという「当たり前のこと」が、制度的な環境評価の手続きの中で無視されているところが、この国の行政・政策の「後進性」であることを指摘した形だ。
NHKの報道では、報告書のこの点についての記述を、政府が削除を求めているという。それによると「作業部会による同問題への評価に対して、再開発事業の認可を行った東京都の意見をとりまとめた政府は、事業者が住民説明会を行ったことを踏まえ『事業者から意見を得ずに報告書をまとめるのは手続き的に間違っている。大きな問題がある』として報告書から文言を削除するよう求めている」とした。
この「政府」が、国土交通省なのか、経済産業省なのか、外務省なのかは不明。だが、本来、政府が同問題で指摘すべきことは、「事業者の意見を聞け」とビジネスの立場を代弁することではない。同事業計画が、国民、都民、住民、マイノリティの人々等の「生身の人間」の人権にかかわる懸念を引き起こさないように対応するよう、都に指導し、事業者にはそうした手続きと配慮を求めることが、本来の「政府・行政の仕事」だろう。こうした政府・行政の自らの役割への理解不足、後進性こそが、この国の人権侵害を長年温存してきた主要な要因だ。
(藤井良広)
https://documents.un.org/doc/undoc/gen/g24/068/47/pdf/g2406847.pdf?token=qwFbhMrMbzXPvdlnmP&fe=true