市民団体が、日本弁護士連合会に対して、政府の気候政策の不備による人権救済を申し立て。現行の法制度(GX)等とは別に、気候対策強化の法整備の勧告も求める(RIEF)
2024-06-15 17:40:54
市民団体「気候訴訟ジャパン」が、気候変動による災害増で国民・市民が被害を受けるのは人権侵害だとして、日本弁護士連合会に人権救済を申し立てた。日弁連が、政府や裁判所に対して、気候対策の強化や法整備を勧告することを求める、としている。我が国の気候政策の是非、十分性が、司法の場で論議され、法的な方向性が示されることを求める市民の声、として各方面に影響を及ぼしそうだ。
欧州では4月、スイスの高齢女性団体が欧州人権裁判所(ECHR)に対し、同国政府の気候対策が十分でなく人権侵害に当たると提訴した訴訟で、原告勝訴の判決が出ている。今回の日弁連への人権救済勧告の申し立てのような動きが強まることで、日本でも「政府の気候無策」の責任を法廷で問う動きが強まる可能性が高まってきた。https://rief-jp.org/ct8/144496?ctid=
申し立てには、気候訴訟ジャパンの呼びかけに呼応した気候専門家や識者、普通の市民らが367人参加している。日弁連は、人権侵害の被害を受けている人から被害救済の訴えを受け付ける窓口を用意している。申立てを受け付けると、弁護士会はその被害実態を調査し、法的根拠を持って加害者に対してやめるよう勧告することを定めている。

申立書では、日弁連への勧告として、政府の首相、法相、経済産業相、環境相を相手に、気候変動に対するより強固で具体的な政策の実施と、命と人権の問題として気候変動対策に取り組むことを要請することを求めている。特に法相に対しては、気候変動による災害や熱中症等を気候変動による人権侵害と定義するような法律の整備を勧告するよう求めている。各地の裁判所に対しては、気候変動を根拠とする人権侵害訴訟に際して、災害や熱中症等による被害を気候変動による人権侵害と認め、原告の適格を認めるよう勧告する、としている。
申し立ての理由については、現在の日本政府の気候変動への緩和・適応の政策のほか、多くの災害や高温化が起こり、人命や生計や暮らしが多数奪われているにも関わらず、訴訟において原告の資格が認められず、議論をすることさえできない状態が続いていることは、人権侵害にあたる、と指摘。こうした判断に立って、日弁連に勧告を求めるとしている。
申立人については、不作・水没により売り物にならない農作物や漁業の不漁に見舞われて生計が立たなくなる、高温により人命が奪われたり体調を崩す、子供を外で遊ばせられない、体育やプールの授業が危険になり失われる、子供を持ちたいと思っていても安全に育っていける状況がないために子供を持てない、災害で身近な人の命や家を失う、生きたくても生きることが非常に困難な未来がやってくる可能性が高いなど、実際に気候変動による深刻な人権侵害を受けている人々などのお思いを代弁する格好をとっている。将来的に気候変動の影響を被る人々、または身近な親族がいる人々も含める。未来世代の思いも代弁する形だ。
また、近年、気温の上昇や、気候や季節が不安定になり、極端な乾燥や豪雨が増え、土砂崩れが起き、災害が増えるなどの現象が起きていることについて、「仕方ない偶然の災難」ではなく「人間の活動によるもので、食い止められるものである」との科学者の発言を紹介。気候変動は「地球の問題」ではなく、「わたしたちの生存の問題」だと強調している。
そのうえで、海外では急速に気候変動を要因とした人権侵害訴訟が増えている点に言及。その理由は、命や暮らしに関わる甚大な災害が次々と起こっているためであり、すでにオランダなどでは、司法側が市民の主張を全面的に認め、国や大企業に対して画期的な判決を下す事例が少なくない、と海外では「司法の理解」が進んでいる点を指摘した。オランダの裁判官は「未来のリスクではなく現在の危機であり、差し迫った命と人権の問題」と述べたと紹介している。
その一方で、日本国内での気候変動に対する理解が遅れている点に憂慮を示している。「日本ではまだまだ気候変動は自然の問題として扱われることも多く、人権意識も育まれていない。たくさんの被害が出ていても『耐え忍ぶしかない』かのような空気感がある。さらに日本の司法は、気候変動を要因としては原告になる資格さえ認めていない」と、国内の気候意識の低さに懸念を示している。
日本国内で気候変動への理解が進まないのは、司法の理解が「被害と原因の因果関係が限定的でない」「気候変動が深刻なのは理解したが、まだ未来の不安にすぎないことと、民意が高まっていない」などの裁判官らの評価も要因になっていると指摘。そのうえで、気候変動によって家族や暮らしを失ったり、安心して暮らし子育てをすることができないのは、「紛れもなく人権侵害であり、ただちに改善すべく議論したり、根本的な対策に、より野心的に取り組む必要がある」としている。
申立書はこうした指摘を踏まえて、日弁連に対し、「貴連合会は、気候変動は生存と人権の問題である旨の素晴らしい宣言を何度か出している。(われわれは)日本が、もっと命と人権を守る国になってほしい。弁護士の皆さんだけでなく、われわれ国民も同じ思いだということをここに提出し、気候変動は人権の問題であるということを、ともにもう一歩前に進めるべく、申立ての趣旨記載の通り救済を求める」としている。
国民、市民が政府の気候対策の不十分さを司法に問うケースは、2019年12月にオランダの環境NGOが同国政府の気候対策の不備の是正を求めた訴訟で、同国最高裁は国の気候政策の不備を認める判決を出して確定している。翌2020年7月にはアイルランド最高裁も同様のNGOからの訴えに対して政府敗訴の判決を出し、ドイツ、フランス等でも同様の趣旨の判決が示されている。https://rief-jp.org/ct8/97400?ctid=
さらに今年4月に、スイスの高齢女性(73歳以上)2500人が団体として、スイス政府の気候対策が十分ではなく人権侵害に当たるとして欧州人権裁判所(ECHR)に提訴していた訴訟で、ECHRは原告勝訴の判決を言い渡している。グローバルには、国や企業の気候政策、対策等を問う訴訟は少なくとも約2300件に達しているという。訴訟の3分の2は「パリ協定」が採択された2015年以降に提訴されたものという。https://rief-jp.org/ct8/144496?ctid=
今回の日弁連への人権救済申し立ては、政府の気候政策の不備を直接、裁判に訴えて司法の救済を求める形ではなく、法律の専門家集団である日弁連を巻き込んで、政府・裁判所に対して気候政策・人権救済等の取り組みの議論を国全体で進めようという形をとっている。気候変動に対する、わが国の法曹界全体の意識改革と、国際水準に適合した取り組みの向上を求める形でもある。
日本では企業の気候対策の不備を問う株主提案が環境NGOらから、今総会でも提案されているが、国の政策を司法の場で問う活動はこれまで起きていなかった。
(藤井良広)
(注)本原稿は、2024年6月16日午後10時。当該団体からの最新の申立書の開示に伴い、原稿を修正しました。
https://docs.google.com/document/d/19wC40lAKUe8K7oq5tJnb14LDG3p-BH1gGZhI4n_bfjg/edit
https://docs.google.com/document/d/1baiCqSRgyZmZbAnqQMwyX04Z0dG58Tb0E2TNNf2fF9g/edit
https://drive.google.com/file/d/1LsJ-mOYC8VBGh_lTGB3DieJ34FDy7z3n/view

































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