東京・外苑再開発計画を主導する三井不動産と伊藤忠商事。都知事選の争点である同計画の「妥当性」で声明。小池氏への「応援」か(?)。ともに都による風致地区変更の理由には言及せず(RIEF)
2024-07-06 19:59:24
(写真は、6月29日に開かれた外苑再開発に反対する市民らの集会の様子=HuffPost り)
東京都知事選挙の争点でもある東京・外苑再開発問題で、事業者の三井不動産と伊藤忠商事の2社が、相次いで、同事業の「妥当性」についての声明を出した。7日の都知事選投票日を意識する形での声明表明だが、両社とも、東京都の対応や責任についての言及は一切なし。再開発予定地の所有者の明治神宮等だけでは、老朽化する球場施設等の立替等に限界があること等から、民間主導の再開発で施設の建て替えと、周辺環境の維持を進めると強調。反対意見は「誤解」によるとし、再開発は環境破壊につながるものではなく、外苑の「みどりを守るプロジェクト」だと主張している。
5日付で公表された三井不動産の声明では、外苑の所有者である明治神宮について「宗教法人であるため、公的資金の受け入れには厳しい制約があり、明治神宮単独の財源で神宮球場の建て替え等を行っていくことには限界があることから、補助金等の公的資金に頼ることなく民間資本で推進していけるよう、所有地の一部を当社が借地し、オフィスビル等の高層建物を含む複合的な開発を行い、これを原資に神宮に借地料を支払う」と説明、民間主導の計画である点を強調している。
そのうえで、①「4列のいちょう並木」は本まちづくりの最重要事項のひとつとして確実に保全する②各施設の整備にあたって支障となり、その場では保存できない樹木は原則移植③樹木や樹勢が弱い樹木など移植が難しい生育状況と判断された樹木は伐採を予定ーー等と、ほぼこれまでと同じ内容を説明したうえで、「新たに樹木を植え、開発後の『みどり』の割合は約25%から約30%に、地区内における樹高3m以上の高木本数は既存の1904本から1998本に増加する見込み」と主張している。
しかし、当初、都の風致地区だった外苑地区が、なぜ再開発対象地区となったのかの説明はない。最大の疑念は東京都による第2種風致地区(容積率40%高さ15m以下等)から、再開発が可能なS地域への切り替えであり、その理由や妥当性は明確に示されていない。
同事業に懸念や疑念を示す都民や住民団体等は、明治神宮等が地域内の球場等諸施設の「容積率」を、伊藤忠等の所有ビルに移し替えて、高さ190m前後の高層ビル建設を可能にできる「開発の錬金術」を都が主導し、都民のためではなく、デベロッパーや大手企業、そして都庁幹部らのための再開発計画にすり替えているのではないかという点だ。だが同社の声明には、そうした疑念を晴らす説明は一切ない。
都の指定変更をめぐっては、直近、一部週刊誌や政党メディアの報道で、小池百合子氏が2016年に都知事に就任後、三井不動産に、都市整備局(旧都市計画局)の元局長ら12人が、また三井不動産レジデンシャルには2人が、それぞれ「天下り」していたことが明らかにされた。報道では、こうした都と三井不動産の人的つながりを踏まえて、同社が都が関連する再開発事業を大きく展開していることが描かれている。
同社は声明の中で、この点に一部、触れてはいる。最近の週刊誌報道で「新ラグビー場の整備事業を破格の安値で落札」とした指摘した点だ。同社はこの点について「著しい事実誤認」としたが、同記事の中心テーマとして紹介された「天下り問題」には全く言及していない。「天下り」を否定しないことは、そうした事実があることを認めたといえる。
都庁職員の大手デベロッパー企業への天下りは三井不動産だけなのか、他のデベロッパーはどうなのか。天下りのメリットと、外苑地区の風致地区解除はつながりがあるのかどうか。これらの点についても、同社にぜひ、説明してもらいたいところだ。
再開発事業者の一社でもある伊藤忠商事は3日に声明を出した。同社の声明では、外苑再開発は外苑に隣接する同社の本社ビルをはじめとする地域内施設の老朽化対策だ、としたうえで、東京都の風致地区指定の変更で「当社が単独で建替をするよりも、一体開発に参画することでより大きなビルを建設することが可能となり、東京本社ビル敷地の資産価値が増加する」と、再開発のメリットを強調している。
実際に、同社の本社所在地での価値を左右する容積率は、従来の区分だと492%だが、神宮外苑等の容積率を「移転」する形で、倍近い700%を追加し、合計1192%の容積率を確保できる計算になる。確かに同社は、再開発事業に加わっただけで、資産価値が倍増することになる。
しかし、東京都がなぜ、本来の風致地区の指定を変更して、再開発を認めたのかについては、三井不動産と同様に、伊藤忠も一切言及していない。自宅や施設が老朽化しても、費用がネックとなって建て替えが進まないケースは東京だけでなく、各地で起きている。なぜ、三井不動産と伊藤忠が主導する再開発事業だけが用途規制が緩和されて大規模再開発が可能となり、参加企業は開発利益を手にできたり、資産価値を倍増したりできるのか。
都の地区指定変更の経緯に、恣意的な要素はなかったのか。あるいは、都による地区変更は、宗教法人の明治神宮への優遇措置なのか、それとも都庁職員の天下りをたくさん抱えてもらっている企業への見返りなのか。これらの疑念への説明が一切ない両社の声明では、都民は十分には納得しないのではないだろうか。
小池都知事がこれまで運営してきた都政は、都民のためのものであったはずだ。都庁職員やデベロッパー、特定の宗教団体、大企業等を資するものではないはずだ。両者の声明は、都庁、都知事、都職員について一切言及していないことで、逆に、この問題に対する都知事以下、都の組織の不透明な対応ぶりを暗示するメッセージを送った形でもある。
(藤井良広)
https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2024/0705/
https://news.yahoo.co.jp/articles/7061e08d6ab0a5648525976bb7d3977a267ca306