妊婦が食べる白米、コーヒー等の食品と、母乳等のPFAS(有機フッ素化合物)濃度に正の相関性あり。米大学の研究論文で明らかに。食生活でPFAS汚染度が変わることを示す(RIEF)
2024-07-06 13:00:33
(写真は、米ダートマス大学ガイゼル医学部疫学科の建物)
世界的に健康影響への関心が高まっている難分解性の化学物質PFAS(有機フッ素化合物)が、妊娠中の母親に及ぼす汚染の影響を調べた米国の研究論文によると、白米、コーヒー、卵、魚介類等を多く食べる場合、妊婦の血漿や母乳等のPFAS濃度との間に、正の相関性が確認されたとしている。調査は米国ニューハンプシャー州での妊婦3000人のデータ分析による。国によって食生活や食品中のPFAS汚染の程度も異なると思われるが、研究論文からは、摂取する食品により、PFAS汚染が妊婦に及ぼす影響に違いがあることが示されており、妊婦と胎児の両者に対するPFAS曝露を低減する方法に資する可能性がある。
調査は、米ニューハンプシャー州レバノンにあるダートマス大学ガイゼル医学部疫学科の研究員、ミーガン・ロマノ(Megan Romano)氏らの研究グループがまとめた。論文は、米科学サイトScienceDirectの「Science of The Total Environment」に7月10日付として掲載された。
研究者たちは、同州で妊婦健診時に登録される「ニューハンプシャー出生コホート研究(New Hampshire Birth Cohort Study:NHBCS)」の2009年以降のデータを元に、3000人以上の妊娠中の女性が摂取した魚/魚介類、卵、コーヒー、白米と、当該女性の血漿中のPFAS、母乳中のPFOS及びPFOAの濃度の相関性を調べた。人の血漿および母乳中のPFAS濃度と関連する重要な食事変数の相関性を調べた研究は初めてとしている。
対象としたデータのうち、血漿中のPFAS濃度が確認できた参加者は827人。このうち、ほとんどの参加者は非ヒスパニック系白人(94.6%)で、大卒以上(72.9%)。登録時の平均年齢は32歳。血漿中PFAS濃度を入手できた参加者はいずれも、PFAS濃度の分布が類似していたとしている。米国では大半の国民が濃度の差はあるが、何らかのPFASを体内に取り入れているとされている。
PFAS汚染については、各国規制当局は水道水等による汚染の把握と抑制に重点を置いている。だが、研究者たちは、最も一般的な人体への暴露経路は食品と考えられるとしている。米国の場合、食料品を生産する農場等の土壌の汚染や、農業用水等からのPFAS汚染の広がりが推測されている。また調理に使われる水や、調理器具に含まれている可能性もあるとしている。
ダートマス大の研究グループは、妊娠中の食事因子と母体血漿および母乳中のPFAS濃度との関連を調べた。ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、ペルフルオロノナン酸(PFNA)、ペルフルオロデカン酸(PFDA)を含むPFAS濃度を、妊娠週数約28週で採取した母体血漿と産後週数約6週で採取したヒト母乳で測定した。
その結果、妊娠中の魚介類、卵、コーヒー、白米の摂取量が多い妊婦ほど、血漿中または母乳中のPFAS濃度が高かった。例えば、妊娠中の卵の摂取量が1標準偏差(SD : サービング/日)増えるごとに、血漿中のPFOS、PFOA、PFDA濃度が、それぞれ4.4%、3.3%、10.3%ずつ高くなった。同様に、妊娠中の白米摂取量が1SD増加するごとに、母乳中のPFOSおよびPFOA濃度がそれぞれ7.5%、12.4%増えた。
論文ではこれらの結果は、妊娠中の特定の食事要因が母体血漿およびヒト母乳中のPFAS濃度の上昇に寄与している可能性を示唆していると指摘。このことは、出産する人と子供の両方に対するPFAS曝露を低減するために、摂取する食品の選択を変えることで一定の効果をあげられる可能性がある、としている。
妊婦が摂取する食品と、血漿中またはヒト母乳中のPFASが有意な関係にあることが判明したのは、次の通り。
▼魚介類および卵の摂取は血漿中のPFASと正の相関あり。
▼赤肉の摂取は、母乳中のPFOSと正の相関あり。
▼白米の摂取は、母乳乳中のPFOAと正の相関あり。
研究対象となった妊婦は、農家の人が多く、農家の裏庭で飼育されている鶏の卵からPFASが多く検出されたことも指摘している。PFASに汚染された下水汚泥は、安価な肥料の代用品として使用されたり、鶏の餌となる土壌を汚染している可能性もあるとしている。
コーヒーの場合、コーヒー豆のほか、栽培する土壌、商品化したコーヒーを淹れる際に使用する水等にPFASが含まれている可能性があるとしている。コーヒーフィルターがPFASで処理されていることも判明しており、紙コップやその他の食品包装にも一般的に化学物質が含まれている。魚介類の場合、各国、各地域で水質汚染が、広範囲に起きているため、ほとんどの魚介類はPFASに汚染されている。
研究チームの代表、ロマノ氏は、「果物の多い食事、全粒穀物の多い食事、食物繊維の多い食事は、一部のPFAS濃度が低いこと、また、一つの蛋白源が摂取量に占める割合が大きすぎないように、バラエティに富んだ食事をすることが、PFAS濃度を高めないうえで有益で、PFASだけでなく、食品に含まれると予想される他の汚染物質への暴露を減らすのに役立つ」と指摘している。
(藤井良広)
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0048969724033047?dgcid=coauthor#s0040
https://geiselmed.dartmouth.edu/epidemiology/
https://www.theguardian.com/environment/article/2024/jul/04/pfas-toxic-forever-chemicals-food