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米ハワイ州での若者による州当局への気候訴訟。原告の主張を受け入れた和解で合意。自動車優先の道路行政からの転換。EV充電網や歩行者・自転車ネットワークの整備等推進(RIEF)

2024-06-24 02:56:22

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  米ハワイ州の若者13人が、州政府に対して、同州の交通システムが高速道路促進等で自動車優先で、CO2排出増等の脱炭素化改革が大きく遅れているとして運輸行政の改革を求めた訴訟で、若者たちの主張を州当局が受け入れる形での和解が成立した。和解条項では、州当局は合意後1年以内に温室効果ガス(GHG)削減計画を策定し、5年以内に歩行者と自転車ネットワークを完成、2030年までにで公共の電気自動車(EV)充電ネットワークを拡大するなどの対策を公約した。

 

 訴訟は2022年6月、同州が自動車からのCO2排出量を加速させる高速道路建設に力を入れ、交通部門全体の脱炭素化が遅れていると指摘し、そうした事態は州憲法に違反しているとして10代を含む若者13人が提訴した。

 

 ハワイ州憲法は「環境権」の保護を認めており、州最高裁は2023年の判決で、州民には「生命を維持する気候システム」を享受する権利があると明言している。若者たちはこの州憲法を踏まえて、気候訴訟を提起した。訴訟には若者の気候訴訟を応援する非営利法律機関の「Our Children’s Trust : OCT」(オレゴン州)が支援してきた。

 

和解受け入れを発表するグリーン知事
和解受け入れを発表するグリーン知事

 

 原告の若者たちと州政府は20日に和解で合意。同日、ハワイ州環境裁判所のジョン・トナキ(John Tonaki)判事は両者からの和解案を正式に受理した。裁判所での和解を受けて、ハワイ州知事のジョシュ・グリーン(Josh Green)氏は、州議会議事堂で交通局長らのほか、原告の若者たちとともに記者会見を開いた。

 

 同知事は、和解案の内容を報告するとともに、同席した原告の若者たちに向けて「君たちが(和解の獲得で)成功したのはこの国で初めてであり、他の人たちも君たちに続くことを願っている」と、若者たちの活動を称賛した。

 

 和解案では、ハワイ州は1年以内にGHG削減計画を策定するほか、5年以内に、歩行者、自転車のネットワークを完成させ、2030年までに公共の電気自動車充電網を拡大するために少なくとも4000万㌦(約63億㌦)を拠出するなど、州内の交通網のグリーン化を推進するとしている。裁判所は、同州がゼロエミッション目標として掲げる2045年まで、この和解内容の実施状況を監督し続ける。また州当局が実施する交通システムのグリーン化策に対して、ボランティアの若者たちの「若者評議会」が助言をすることも盛り込んだ。

 

効果的な気候対策を求める原告の若者たち
効果的な気候対策を求める原告の若者たち

 

 原告の多くはハワイ先住民の若者。彼らは気候変動による海面上昇の影響等を日常的に受けていると訴えたほか、2023年にマウイ島での山火事で少なくとも115人が死亡し、数千人が避難を余儀なくされた事件も、気候変動が一因だと指摘してきた。若者たちは提訴の以前から、気候対策を促進することを求める抗議活動を行ない、州政府の指導者に手紙等で訴えるなどの活動も展開してきた。

 

 ハワイ州は2021年に気候緊急事態を宣言した米国で最初の州でもあり、2045年までに自然エネルギーによる完全な電力供給を目指すという全米でも最も野心的な「ゼロエミッション目標」を掲げている。しかし、そうした目標にもかかわらず、ハワイ州エネルギー局は「目標に向けた進捗は期待に達していない」ことを明らかにしている。

 

 若者たちからの訴訟に対しても、これまで州当局は訴訟継続の姿勢をとってきた。今回の和解は、翌週に法廷での審議が予定される中で、急遽、州当局側が軟化し和解に至ったという。州知事を含め州当局は、ネットゼロ目標を掲げながら、政策が伴わない状況を打開するうえで、若者たちの要求に応える形をとる選択をしたともいえる。


 昨年8月には、モンタナ州で5歳から22歳までの若者たち16人が、州政府の化石燃料擁護政策は、憲法上のクリーンで健全な環境を享受する権利の侵害とする訴えを起こした訴訟でも、若者たちの訴えを認める判決が出ている。

 

 国や自治体の気候政策の不十分さを司法の場で問う訴訟で、原告が勝訴するケースは米国以外でも増えつつある。ハワイ州裁判所の判決と同日、英国最高裁が石油掘削事業の拡大計画に対する地方自治体の認可に際し、増産される石油の使用で生じる温室効果ガス(GHG)排出量(スコープ3)の環境影響を評価しなかったのは違法、との判決を出した。https://rief-jp.org/ct4/146477

 

 また4月には、欧州人権裁判所(ECHR:仏ストラスブール)がスイスの高齢女性団体が、同国政府の気候対策が十分ではなく人権侵害に当たるとして提訴した訴訟で、原告勝訴となった。米欧の裁判所では、気候関連政策の不備は、国民、住民の権利を侵害するとの司法判断が主流になりつつあるようだ。日本の司法はどうか。https://rief-jp.org/ct8/144496?ctid=

 

https://www.reuters.com/legal/hawaii-agrees-settle-youth-climate-change-lawsuit-2024-06-21/

https://www.eenews.net/articles/hawaii-reaches-first-settlement-in-youth-climate-case/

https://navahinevhawaiidot.ourchildrenstrust.org/