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世界最大の植物園、英国キュー王立植物園。園内の約1万1000本の樹木の半数が、気候変動の影響で枯死のリスクに直面。植物園は気候適応力の高い樹種への「後継林計画」に着手(各紙)

2024-07-27 22:33:03

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  気候変動の影響で、世界最大の植物コレクションを持つ英国のキュー(Kew)王立植物園内にある1万1000本の樹木の半数以上が、枯れ死する危険性があることが、調査で明らかになった。同植物園は2022年の干ばつ時には、400本の樹木が枯れ死した。今回は、植物園全体の樹木の半数が危機に瀕していることがわかったことから、樹木の一部を補うため、後継林計画を作成するとしている。

 

 英ガーディアン紙が報じた。ロンドンの南西部のキュー(Kew)の街にある王立植物園の名称だ。「キュー植物園」などとも呼ばれる。1759年に宮殿併設の庭園として始まった。世界で最も有名な植物園として知られ、熱帯アジア・オーストラシアなどのものを中心として、世界中で採取された種子植物の標本だけで700万点、菌類および地衣類の標本は125万点を所蔵する。2003年にユネスコ世界遺産に登録された。

 

 同植物園の樹木の多くは、まだ気候変動の影響が十分に知られていない100年以上前に植樹されているめ、植物の植生の選択や配置等の設計には、気候シナリオは考慮されていない。当時、キューが植物園の場所に選ばれたのも、湿った土壌を好む樹木を支える特殊で安定した気候の適地だと考えられていたという。

 

温室の中は冬でも熱帯が維持されている
温室の中は冬でも熱帯が維持されている

 

 1884年以降、英国で最も暖かかった10年は、21世紀に入ってから発生しており、2050年のロンドンの気候は、現在のスペインのバルセロナ市に匹敵するくらい暖かくなると予想されている。都市の樹木は地域を涼しくし、熱波時に生息地に木陰を提供する。ところが、2022年に英国を襲った干ばつの影響で、植物園は400本の木を失った。

 

 キューガーデンの科学者たちは、今後数十年の天候の変化により、どれだけの樹木が失われる可能性があるのかなどの、樹木に及ぶ気候変動リスクを地図に記録することにした。そのうえで、キューにある1万1000本の樹木の半数が枯死の危機に瀕していることを踏まえて、枯死の可能性のある樹木の一部を補うための後継者計画を作成する。



 計画では、ロンドン西部の具体的な予測や植物園にある気象観測所のこれまでの記録をもとにして、キュー地域全体の気候モデリングを設定する。そのうえで、それに、世界の樹木データや既存の植物コレクションの詳細を組み合わせて後継者づくりの実証実験を行う予定としている。

 

 これまでの研究によって、現在、植物園にある樹種の50%以上が2090年までに、脆弱になる可能性があることがわかっている。また45%が既知の範囲の端に、9%が年平均気温に基づく既知の範囲外になると予測されている。気候変動の影響によって自生型の生態系も変容を求められるということだ。

 

迷子にならないように
迷子にならないように

 

 英国に自生するシルバー・バーチ(Betula pendula)などの在来樹木は、キューと同じような気候の変化を受けて、英国の地域で危機に瀕している可能性もある。同様に、イングリッシュ・オーク(ミズナラ)、ブナ(Fagus sylvatica)、ヒイラギ(Ilex aquifolium)などの英国の原生樹木も気候の影響を受けて、キューと気候が似ている英国の地域で危機に瀕していく可能性がある。

 

 キューが植え替え用に選んだ気候変動に脆弱な樹木の中には、乾燥に強いものも含まれる: ポルトガルとスペイン原産のイベリアハンノキ(Alnus lusitanica)、中国中央部固有のトドマツ(Abies fargesii)、中国、ミャンマー、チベット原産のサクラハゼ(Celtis cerasifera)、中央アメリカ原産のモンテスマツ(Pinus montezumae)、メキシコ原産のスプーンオーク(Quercus urbani)などである。

 

 研究所の報告書によると、オークの木のようなヨーロッパの暑い気候から生まれた既存の樹種は、より暑く乾燥した環境のストレス要因に適応しているため、イングリッシュオークよりも回復力が高い可能性があるという。

 

 キュー王立植物園の園長、リチャード・バーレイ(Richard Barley)氏は「(樹木の後継者計画は)予測される気候がわれわれの生活景観に与える影響を理解し、それらをより回復力のあるものにするための変化を実現できるようにするうえでの、極めて重要かつタイムリーな一歩だ。これはキューガーデンだけの問題ではなく、私たちが景観のために選択する植物を多様化させようという幅広い呼びかけでもある。樹木の気候影響からの回復力と適応力に焦点を当てることで、都市空間とキューガーデンのような庭園の両方において、気候変動の深刻な影響に適応することが可能であることを示したいと考えている」としている。

 

 シェフィールド大学のロス・キャメロン(Ross Cameron)教授(環境園芸学)は、今回の調査結果について「キュー研究所の報告書の示唆は妥当だ。例えば、湿気の多い湿った環境を好む樹種は、将来、イングランド南東部では苦戦を強いられるかもしれないと考えるのは論理的だ」と指摘している。

 

 とりわけ密集化が進む都市部での植生の維持においては、生物多様性の保全の観点と、気候適応の観点(レジリエンス)の両方を最適化できる樹種の選択や、組み合わせ、植生のデザインなどでの新たな取り組みが求められる。日本では東京をはじめとして、都市部の再開発が各地で進んでいるが、「都市の緑」の扱いにおいて、気候適応の視点がほぼ欠落しているといえる。

https://www.kew.org/kew-gardens

https://www.theguardian.com/science/article/2024/jul/22/half-of-kew-tree-species-risk-death-climate-crisis-study-botanical-gardens

https://www.expedia.co.jp/stories/%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%B3%E3%81%AB%E3%81%82%E3%82%8B%E4%B8%96%E7%95%8C%E9%81%BA%E7%94%A3%EF%BC%81%E7%8E%8B%E7%AB%8B%E6%A4%8D%E7%89%A9%E5%9C%92%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%BC/