中学生を含む全国の若者16人。JERAなどのCO2大量排出の火力発電事業大手企業10社の排出削減を求めて名古屋地裁に提訴。全国規模での気候集団訴訟は初めて(RIEF)
2024-08-07 14:05:37
全国の10代から20代の男女16人の若者たちが6日、「気候変動による悪影響は若者世代の人権を侵害している」として、気候変動の原因となっているCO2を大量排出の火力発電事業を続けるJERAやJパワー (電源開発)、関西電力などの火力発電事業者10社を相手取り、排出削減を求める訴えを名古屋地裁に提訴した。米欧では政府やCO2排出企業などを相手とした気候訴訟が相次いでおり、オランダ等では政府敗訴の判決も出ている。わが国で全国規模での集団訴訟が提起されるのは初めて。
弁護士らの呼びかけで、今回の訴訟を提起したのは、北海道から東京、愛知、秋田、神奈川などの15歳から29歳までの若者16人。中学生も含まれる。
訴えられたのは、日本最大のCO2排出企業であるJERA(東京電力グループと中部電力の共同出資)のほか、Jパワー、神戸製鋼所、北海道、東北、北陸、関西、中国、四国、九州の各電力会社で合計10社。原告によると、10社は日本のエネルギー起源のCO2排出量の4割を占める大排出企業という。
若者たちは気候変動による影響で、現状でも、毎年のように熱中症などの命の危機にさらされているほか、学校での部活動などが制限されているなどと主張。このまま火力発電が維持されてCO2排出量が削減されないと、将来の社会や生活に大きな打撃となるとして、温暖化の原因者企業の代表である火力発電事業を展開する10社を訴えたとしている。
訴状によると、産業革命前からの気温上昇を1.5℃以下に抑えるというパリ協定の目標達成のためには、世界のCO2排出量を2030年までに48%減(2019年比)に、35年までには同65%減とする必要があるとされる。しかし日本の10社が掲げる削減目標はこうした国際目標と整合していない。そのため民法の不法行為に基づき、許容される量を上回るCO2排出の差し止めを求めて訴訟を提起したとしている。
原告は、各被告企業について、自らの排出削減の水準に関する注意義務(duty of care)違反を指摘している。民法709条が定める注意義務の内容には、①人権を侵害する行為②ビジネスセクターなど非国家主体の役割(パリ決定 133、134項) ③ビジネス主体の人権擁護義務(国連ビジネスと人権指導原則)④OECD 多国籍企業行動指針 ⑤国連グローバルコンパクト、などと整合すべきと指摘している。
またJERA等が掲げる「2030年半減」等の計画は不十分で実現性も欠くとも指摘している。たとえばJERAの2030年削減目標は原単位のみで、排出絶対量の削減目標はないほか、基準年も「2013 年比」とする低い目標でかつ、水素・アンモニア混焼、CCS、原発再稼働等に依存し、あいまいで、実現性に欠ける、と述べている。
英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の「気候変動と環境に関するグランサム・リサーチ・インスティテュート(GRI)」が7月に報告した024年レポートによると、同様の気候訴訟は世界全体で2023年には230件の新規提訴が起きている。これまでの提訴件数は10倍の約2300件に達する。「未来世代」の若者による提訴も増えている。https://rief-jp.org/ct4/147371
政府の気候政策の不備を訴えた気候訴訟としては、オランダの環境NGOと800人以上の市民が原告となって、同国政府を訴えた訴訟の判決が2019年12月に同国最高裁で示され、同国政府に対してCO2削減目標の引き上げを求める政府敗訴の判決を言い渡したことが知られる。同判決のほか、アイルランド、ドイツ、フランス等で国の気候政策の不備を認める判決が出ている。
若者による気候訴訟も米欧を中心に展開されている。2023年6月に米・モンタナ州地方裁判所は、NGOの「Our Children‘s Trust”(OCT)」が支援する同州の16人の若者たちによる気候訴訟で若者たち勝訴の判決を出している。今年4月にはスイスの高齢女性団体がスイス政府の気候政策の不備を、欧州人権裁判所(ECHR)に訴えていた訴訟で、ECHRは原告勝訴の判決を出している。https://rief-jp.org/ct8/144496?ctid= https://rief-jp.org/ct8/97400?ctid=
CO2を大量に排出する企業を相手取った訴訟は日本でも、今回の訴訟で被告企業の一つとなっている神戸製鋼を相手取った神戸市での住民訴訟のほか、神奈川・横須賀市でのJERAの石炭火力発電所建設の中止を求めて国の環境アセスメントの不備を訴える住民訴訟がそれぞれ提起されている。
今回、若者世代から提訴された企業のうちJERAは、横須賀の訴訟の要因となっている石炭火力発電建設事業を進めている。同社はは、メディアの取材に対して「訴状を受領していないため、コメントは差し控える」と答えているという。
弁護団の共同代表の浅岡美恵弁護士は「全国で初めての本格的な気候訴訟といえる。この訴訟を通じて皆さんと一緒に考える場をつくっていきたい」と話している。
https://youth4cj.jp/blog/2024/08/06/pr/
https://youth4cj.jp/wp-content/uploads/2024/08/20240806-abstract_web.pdf
https://kikonet.org/content/36073