人類の活動による気候変動や、マイクロプラスチック汚染などが地球システムを変え始めたのは、「1952年(±3年)」。京大などの内外研究チームが世界中の地層分析で特定(RIEF)
2024-09-25 11:48:49

(上図は、地質記録媒体の例(別府湾海底堆積物)と世界各地の人為痕跡の同時急増。灰色の陰影が全球で人為痕跡が急増し始める時期(西暦 1952±3 年) 肌色の陰影が各地域で痕跡数が最も増加する時期(西暦 1953~1958 年))
気候変動をはじめ、PCBやマイクロプラスチック汚染、核実験によるプルトニウムなどの放射性核種の急増など、人間の活動の影響が地球システムを根本的に変え始めた時期は、1952年(±3年)である可能性が強い、との研究成果が公表された。京都大学を中心とする内外の研究者による共同研究グループが、過去7700年間の世界137地点での地層記録から、人為的影響の痕跡を調べた。調査対象地域のいずれにおいても、同時期に「人為的影響の急増」が見出されたとしており、これらから研究者たちは「完新世でない時代の到来、いわゆる『非公式の人新世』が始まった時点と捉えることができる」としている。
研究チームは、京都大学情報学研究科、愛媛大学沿岸環境科学研究センター、東京大学大気海洋研究所、オーストラリア国立大学、松山大学、島根大学、産業技術総合研究所の各研究者で構成した共同研究グループ。研究成果は、国際学術誌「PNAS(米国科学アカデミー紀要)」に23日付で掲載された。
調査は、世界 137カ所で、年縞のある湖沼や海洋の堆積物、サンゴ、アイスコア、樹木年輪等から得られた338個の環境・生物記録から748個の地層中の人為痕跡を検出した。 こうした人為痕跡数の累積値の記録を分析したところ、多様な人為痕跡の前例のない急増は、西暦で1952±3 年に始まる、との結論を得たとしている。特に1953年から1958年の間にかけて、南極、北極、東アジア、ヨーロッパ、北アメリカ、オセアニア、その他の地域を含む全ての地域において、ほぼ同時期に人為痕跡の急増が認められたとしている。

こうした分析結果から、世界中での人為的痕跡の同時期的な急増は、人間の影響が様々な自然プロセスやサイクルに急速な変化をもたらし、人類が世界中の地層に、豊富で多様な人為的痕跡を刻み込むことのできる地質学的・惑星的力となった時点を反映していると考えられる、と判断している。
見出された主な人為的痕跡は、PCBなどの有機汚染物質やマイクロプラスチックの初検出、プルトニウムなどの大気圏核爆発による放射性核種の急増など、高度な技術革命を反映する多数のシグナルが地球規模で見られたという。

地球の地質時代は、最終氷期が終わる約1万1700年前から現在までを「完新世」としている。特に20世紀以降、人間の経済・政治活動による環境変動が顕著になっており、新しい時代に移ったとして「人新世」の概念が提案されている。今回の研究は、こうした人為痕跡に基づく開始年代を特定しようとするもの。「人間活動の圧力は、いつから地球システムに根本的な変化をもたらし始めたか」という問いへの回答の確認を目指して取り組んだ。
人類は、完新世が始まるころには、すでに陸上を広範囲に改変し、その後、8000年前頃の農耕社会の発展に続いて、1492年のコロンブスのアメリカ大陸到達などから1800年頃にかけてのヨーロッパ人の「新大陸」到達に伴う森林の回復、18世紀以降の産業革命などにより、人類の活動は気候システムを変えるほどの影響を及ぼしてきた。ただ、いずれ の時代も、人の影響の開始年代に時間差があり、全球で同時に起こるものではなかったとしている。
今回の研究では、人類の影響が地球システムに及ぼす転換点となりうる時点を認識する「層序学的指標」として、地層中に残る人類の痕跡数の急激な増加を評価した。これらの痕跡は、①これ まで地球上で存在しなかったPCBや人工放射性核種など新しい人為起源物質や生物種の最初の出現②生物学的・地球化学的指標にみられる産業革命より前の自然変動の範囲を初めて超えた時点③生物群集が大きく変わる点などの基準によって検出した。
分析で判明した同期的な急増について、研究チームでは、人間の影響が様々な自然プロセスやサイクルに急速 な変化をもたらし、人類が世界中の地層に豊富で多様な人為的痕跡を刻み込むことのできる地 質学的・惑星的力となった時点を反映していると考えられる、としている。