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EUのPFAS(有機フッ素化合物)規制策に対する日本からの「規制阻止」を求めるパブコメに、経済産業省役人も意見提出。日本の官民連携によるPFAS規制阻止行動にEU側も驚き(RIEF)

2025-04-08 00:03:00

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写真は、日本の化学産業界を中心にして設立されたPFAS規制対策専門の業界団体の「日本フルオロケミカルプロダクト協議会(FCJ)」のサイトから)

 

 環境省が東京電力福島第一原発事故に伴う除染で出た土(除染土)の再生利用を進める省令改正案でのパブリックコメントに、同じ内容のコメントが大量に届いたとして、環境相が「苦言」を発したと報道された。一方で、EUが実施した有機フッ素化合物(PFAS)の禁止提案に対するパブコメでは、非EUの日本からのコメントが大量に届き、EUの関係者を驚かせたケースもある。EUへの日本からのコメントの場合、日本の化学品業界関係者が大半だが、経済産業省の役人もコメントを送っていたことがわかった。EU側は日本の官民の連携ぶりに改めて「関心」を示しているという。

 

 EUのPFAS規制案に、日本から大量のパブコメが送られた件は、すでにRIEFで紹介している。https://rief-jp.org/ct12/144027?ctid= それらのコメントの中に経産省の素材産業課長のコメントも入っていた。

 

 2月28日の衆院予算委員会で辰巳孝太郎議員(共産)の質問に対して、野原諭・同省商務情報政策局長は「(2023年)当時の西村康稔経産相の了解を得て、素材産業課長名でパブリックコメントを出したという風に聞いている」と認めた。

 

 同局長によると、「欧州のPFAS規制案は、一万種以上あるPFAS全てを対象として欧州域内での製造、使用、上市を禁止するもので、必需品の貿易制限にもつながり、日本を含む世界中のサプライチェーンが混乱する恐れがあるということで、いまだに議論が続いている案件。そういう関係が広いので、関係する所管のいろいろなところに周知していた(ことの一環)」と説明した。

 

 EUや米国などでは、域内規制や法律案等を成立する過程で、内外からのパブコメを受け入れるのが通例だ。英語でのコメントならば、今回のように日本の役人のコメントも受け入れる。ただ、パブコメ自体は、規制や法案の作成途上で調整した関係機関以外の中小企業、市民やNGO、研究者などから意見を取り入れることが本来の趣旨である。

 

 なので、日本国内でPFAS規制に関連する役所が、PFAS政策の国際協調が必要との認識であるならば、政策ルート、外交ルートなどを通じ、EU当局と調整するのが正統なやり方になる。経産省がパブコメ以外に、EUの担当部局との調整をどうやったのか、あるいはやったけれども、相手にされないのでパブコメを出したのか、といった、本来、業務としてとるべき政策調整の行動と、一般的なパブコメ提出との関連性は不明のままだ。

 

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 焦点となったEUのPFAS規制案は、欧州化学物質庁(ECHA)が2023年に公表したもので、PFASの使用・製造・販売について、主には医薬・農薬を除き全面禁止とし、特定の産業分野の用途にのみ、一定期間(移行期間を含め6.5年もしくは13.5年)の制限で執行猶予を設けるという内容だ。同規制案に対するパブリックコメントを募集したところ、日本の業界団体等から大量のコメントが届き、EUの関係者を驚かせた。https://rief-jp.org/?p=155819&preview=true

 

 同規制案に対するパブコメには、約4400の団体、企業、個人等から5600強のコメントが寄せられた。コメント提出者を国別にみると、最も多かったのはスウェーデン(1369件)、2番目がドイツ(1298件)、3番手が何と非EUの日本(938件)だった。4位のベルギー(303件)が日本の3分の1以下なので、上位3カ国からのコメントが突出して多かったことがわかる。

 

 このうち、最もコメントが多かったスウェーデンは、ドイツとともに規制案の提案国で、コメントの大半は、さらなる規制強化を求める自然保護協会が展開したキャンペーン的活動によるものが90 %以上を占めたとされる。パブコメ案に不満な意見が多かったとされる。今回の日本の環境省の除染土再利用案への多くの同一と思われコメントと似たような反応といえる。しかし、EU関係者が驚いたのはEU加盟国でもない日本からの大量のコメントだったようだ。

 

 EU関係者は当初、日本からのコメントが多い点について、日本の企業等は過去の経験から化学物質汚染に過敏になっていると判断したようだ。1950年代に判明した新日本窒素肥料(現チッソ)が排出したメチル水銀汚染による水俣病事件や、同時期の三井金属鉱業の廃棄カドミウム汚染によるイタイイタイ病、1965年判明の昭和電工による第二水俣病事件など、日本の産業界が、多くの死者を伴う悲惨な重金属公害事件を複数回、引き起こしていることは世界中に知れ渡っている。

 

 それだけに、PFASについても断固とした強い規制を求めるために、EUの規制に大量のコメントを送ってきたと思ったとされる。ところが、 化学物質規制の推進を求める国際的な非営利機関のChemsec(スウェーデン)によると、日本からのコメントはほとんどが日本の化学会社の意見で、PFAS規制に「断固として反対する」とのコメントが大半を占めたという。

 

 経産省の役人のコメントも同等の内容だったとみられる。衆院予算委でこの問題を取り上げた辰巳議員は「経産省全体が乗り込んで規制強化反対の旗を振ってきたということじゃないか」と批判した。パブコメとして提出された経産省役人のコメントは、個人的なコメントではなく、役所として内容を調整し、当時の経産相がパブコメ提出を承認するとのプロセスを経ているということなので、「PFAS規制強化反対」の方針を、同省が日本政府を代表する形で展開していたことになる。石破政権として、その判断を踏襲するのかどうかも、問われるポイントだ。

 

 EU関係者は当初、日本からのコメントが多い点について、日本の企業等は過去の経験から化学物質汚染に過敏になっていると判断したようだ。1950年代に判明した新日本窒素肥料(現チッソ)が排出したメチル水銀汚染による水俣病事件や、同時期の三井金属鉱業の廃棄カドミウム汚染によるイタイイタイ病、1965年半名の昭和電工による第二水俣病事件など、複数の重金属公害事件を引き起こしていることは世界的にも知れ渡っている。

 

 それだけに、PFASについても、より強い規制を求める大量のパブコメが日本から届いたと思った可能性がある。ところが、 化学物質規制の推進を求める国際的な非営利機関のChemsec(本部・スウェーデン)によると、日本からのコメントを精査してみると、ほとんどが日本の化学会社のもので、PFAS規制には「断固として反対する」との主張が大半だったという。

 

 日本の産業界からのコメントは全体のほぼ20%を占めたことから、Chemsecは、「PFAS化学物質の使用を世界的に停止させるための今回の取り組みに、これほど断固として産業界が反対する国は他にほとんどない」と驚きの感想をサイト上で表現している。そのうえで「日本は(水俣病等を引き起こした)歴史があるにもかかわらず、日本にある世界有数の化学会社は、多くのPFAS化学物質を製造または使用しているのに、これらの化学物質に対する世間一般の注目度は、米国やEUに比べてはるかに低い」等と指摘している。https://rief-jp.org/blog/143587?ctid=33

 

 EU関係者が日本からの大量パブコメに対して訝るのは、関連する産業・企業が多いということよりも、パブコメ送付が「組織的な動き」である点のようだ。日本の化学品関連企業は、PFAS問題が各国で取り上げられるようになった段階で、「日本化学品工業協会」とは別に、2021年3月に、PFAS問題を専門に取り扱う「日本フルオロケミカルプロダクト協議会(FCJ)」を立ち上げている。同団体の設立も、経産省の主導によるとされる。EUをはじめとする欧米での規制関連情報の収集だけではなく、規制を事前に阻止するロビー活動等を集団で展開するために、日本の関係業界が力を結集する専門団体とされる。

 

 同団体による企業向けの説明会では、「数の力が呼びかけの緊急性を高めるため、企業は統一した声を使うのではなく、単独で禁止に反対すべき」との方針を示している。業界団体でまとめた意見を一つ提出するのでははく、会社ごとに規制反対意見のコメントを作って、たくさん提出することの意義を強調している。

https://chemsec.org/japanese-industry-confronts-eus-pfas-ban-amid-domestic-contamination-discovery/

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/003721720250228002.htm#p_honbun

https://digital.asahi.com/articles/AST3X2V1FT3XULBH001M.html