「世界の人口は、国連の推計(82億人)をはるかに超えている」との研究論文が話題を呼んでいる。フィンランドの研究グループが発表したもので「数億人~10億人以上多い」という(RIEF)
2025-06-26 23:29:13

(写真は、国連のサイトから引用。世界の人口は増え続けている(United Nations, Population Division)https://www.un.org/development/desa/pd/content/world-population-prospects-2024-dataset
「世界の人口は国連の推計82億人(2024年)を大きく上回っている」という研究論文がフィンランドの名門大学であるアールト大学の研究チームによって発表された。国連は各国が発表するセンサス(民力調査)の人口データを基に、それを積み上げて世界の人口を推計しているが、研究論文は、「各国のセンサスはしばしば田舎の人口(rural population)を正確に把握していない」と指摘。「世界の人口は国連の推計に比べて数億人、あるいは10億人以上多い」と述べている。
論文を公表したのは同大学の水資源開発調査グループのジョシアス・ラング・リター(Josias Lang-Ritter)氏ら3人の研究者。オンラインの国際学術サイト「Nature Communications」に掲載された。
世界の人口統計は、食糧計画や地球温暖化などをめぐる研究、国際機関や各国の気候変動危機をめぐる政策設計などの基礎に使われるため、研究グループは、「今後、さらに精緻な人口調査が必要になる」と語っている。
国連は2024年の報告書では、①世界の人口は今後、50~60年間増加し続け、2080年代半ばに100億3000万人でピークを迎え、以後、マイナスに転じる、②10年前に実施した人口予測に比べて2024年の予想では、2100年の世界の人口を6%(7億人)少なく見積もった、と発表していた。人口がピークを迎えるまでに都市化がさらに進行し、気候変動に及ぼす負荷が増大することになる。
同大学の研究グループの論文の成果は、この国連の予想を覆すものとなる。①世界の人口が100億人を突破するのは2080年よりかなり早くなる②一般的に都会に比べて田舎の出生率は高いので、世界の人口がピークを迎えるのは国連の予想より遅くなる――などの可能性があるとしている。したがって人口の増加が地球温暖化に及ぼす影響も、国連の予想より大きく、また長くなることになる。
同論文では、「国連の統計は、最悪の場合、田舎の人口の過半を数えてない事例がある」としている。例えばパラグアイでは、2012年の調査では、実際の人口の4分の1に相当する地方住民をセンサスで数えていなかった、ということが起きた。これまでも、途上国のセンサスが田舎暮らしの人口を正確に把握できていない理由について幾つか指摘されてきた。
その理由としては、都市から離れている寒村、特に高地や砂漠、ジャングルなどでは行政組織が脆弱であり、調査員が訪ねるのが難しい地域がある。また、世界各地で戦争や武力紛争が起きている。そうした国では、都会から離れればセンサス調査は危険で困難だし、戦地を逃れる流民も多い。世界各地に散在する難民キャンプでは、人口動態を正確に掴むことはできない。
さらに、広い国土に多民族が混住している場合、言語の違いがコミュニケーションの妨げになってセンサス調査を実施できないことも多い。また世界には、近代化を拒み、伝統的な暮らしを守って少数民族が田舎に多くいるが、そうした人々は、センサス調査を拒否する傾向がある。
センサス調査めぐるこうした欠点を補うために、研究グループは、次のような工夫を行った。まず、国連が発表する「世界の人口調査」に加え、他の研究機関などが発表する人口データを収集し、基礎データとして活用した。次いで、田舎の人口データにさらに正確さを期すために、世界35ヵ国の300カ所以上のダム開発(1975~2010年)で立ち退きを迫られた人口を調べ(立ち退き補償金を払っているので正確に掴める)、その平均人口を基にして世界の田舎暮らしの人口を推計する、という方法をとった。
研究論文では、「さらに丁寧な調査を踏まえる必要がある」との判断から、今回の論文から独自の世界の推計人口を発表することを見送ったが、「国連の推計人で口を基にすれば、現在、世界の人口の40%が田舎に暮らしているのだから、田舎の人口を正確に把握することは極めて重要である」と述べている。
国連の開発プログラムの調べでは、現在、世界の人口の10億人が極貧に喘ぎ、その半分以上は子供たちで、その多くは紛争地域、経済社会の脆弱な国に暮らしている。しかし、こうした数字も、さらに正確に人口動態を調べれば、もっと深刻な影響が増大することになり、人類全体のサスティナビィティの危機的状況が浮き彫りになることになる。
(矢作弘)
https://www.nature.com/articles/s41467-025-56906-7
https://desapublications.un.org/publications/world-population-prospects-2024-summary-results