第11回(2025年)サステナブルファイナンス大賞インタビュー①大賞。札幌証券取引所の長野実理事長。「市場原理による『見えざる手』での均衡に対し、社会の『外部不経済』の修正には、われわれ自身の『見える手(取り組み)』が必要」(RIEF)
2026-02-03 17:28:53
(写真は、前列㊧から、事業推進部長兼上場推進部長の大畑周司氏、理事長の長野実氏、専務理事の上田悦弘氏の順)
一般社団法人環境金融研究機構(RIEF)が毎年実施している第11回目(2025年)のサステナブルファイナンス大賞授賞機関に対して、受賞内容をお聞きする個別インタビューを掲載します。第一回は大賞(最優秀賞)に選ばれたグリーンボンド等のESG債上場市場を日本で初めて設立した札幌証券取引所理事長の長野実(ながの・みのる)氏です。
ーー : 札幌証券取引所が、日本で初めて、ESG債専門のプロボンド市場を創設されたことを評価して、今回、第11回サステナブルファイナンス大賞の最優秀賞(大賞)に選考されました。まず、同市場の創設に至った経緯を教えてください。
長野氏 : 直接的なきっかけは、GX政策によって、再生可能エネルギーから始まり、サステナブルな社会を実現しようという動きが大きいです。エネルギーのグリーン化、脱カーボンの動き、それらを使って北海道の産業構造も変えていこうという動きが起きています。そうした中で、ESG経営に取り組む会社もたくさんあり、そういうESG企業を応援し、サステナ社会の実現に貢献していこうという活動を、取引所としてどう支援ができるかということを考えてきました。
大きくいうと、いわば市場原理の競争による「見えざる手」で均衡するはずのものが、外部不経済をもたらしているという現状の社会を修正するためには、「見える手」というか、われわれ自身の手で社会を修正する必要がある。そのためには、やや行き過ぎた競争原理を是正して、意図的に持続可能な社会を作っていく動きが求められる。そうした必要性に対して、GX政策は国自身が官民の150兆円の資金を集めて、今後10年かけて応援していくというものだと考えています。
北海道では、このうち40兆円を道内に呼び込もうという目標もあります。40兆円の官民投資を呼び込むのであれば、資金調達手段の多様化が必要であり、ESG債による資金調達はその有力な選択肢になると考えています。新しい社会構造改革のためには多額の設備資金等が必要になるし、大手企業でなければ、やりにくい面もある。そこで、そうした資金需要に特化した調達市場を作ることが、地域のためにもなるし、わが国の大きな方向のためにもなるであろうという考えに基づき、チャレンジして、ESG債の上場市場を作ったというのが背景です。

――北海道においてESGに特化した債券市場を作ること自体も大変なことですが、ESGの取り組みはグローバルであり、国内でも今回の札幌証取の取り組みが初めてです。東証にもESG債上場市場はありません。市場の設立に際して、ESG債の発行体、投資家等の反応・評価等はどうでしたか。
長野氏:発行体からは、「日本初のESG債特化市場」という話題性もあり、上場することを通じて、自社のESGの取り組みについて、より強く情報発信できるのではないか等と期待する意見をいただいています。投資家の声は今後、伺っていく予定ですが、証券会社からはESG投資を促進する取り組みとして歓迎されており、「広く周知に協力したい」との声をもらっています。
われわれがなぜ同市場の創設をしたかというと、グローバルに活動する企業は、高い成長、短期的にグローバル市場で収益を上げることが、どうしても優先的になる。そうした企業の場合、中長期的なサステナ社会への貢献ということとの両立を市場でやることは、なかなか難しいのではないか。一方で北海道ではサステナ社会やESG経営等に中長期的に取り組むような企業の土壌がかなりあります。
政府のGX政策も、わが国の産業構造をも大きく変えようという視点だと思います。そうした中長期的な目線で、取り組もうという風潮が社会に出てきています。企業経営も短期に対して中長期で、急成長に対して長い目でみようと、収益の向上を急ぐことに対して、多少時間がかかってでも環境あるいは地域とも共生していくという特性を持った産業構造や事業活動が求められています。そうした場合、地域社会課題の解決という点も含めた事業活動になるので、われわれは、それは他市場と比べて、北海道の市場の方がマッチしているのではないかと考えており、ESG債市場も、北海道のわれわれが先鞭を付けてやるべきと考えたわけです。
――まず発行体の事業戦略とそれに伴う資金調達計画等がない限り、取引所だけが急ぐわけにはいきません。昨年9月の市場開設以降の上場債券の動向や、上場銘柄に対する投資家の動き等を教えてください。
長野氏 ; 現状の上場動向は、北海道電力が2銘柄(トランジションボンド)、札幌市がグリーンボンド1銘柄をそれぞれ上場しました。現在のところ、上場債券の売買取引は生じていませんが、上場した2発行体からは、上場を通じて幅広い層に対して自らのESG債をPRできたとの評価を得ています。今後は、取引所での上場銘柄の売買や相対取引の活性化など、上場債券にポジティブな影響が出ることを期待しています。

今回は、われわれの札幌証取で上場市場を作ったので、(北海道が地元の)北電と札幌市が上場してくれましたが、北海道の企業に限った市場ではありませんので、全国のESG債発行企業の上場を期待しています。
今後の上場期待の産業・企業としては、建設業のスーパーゼネコン、マリコン、水産商社等のブルーカーボンや陸上養殖を検討している企業などが全国にあり、中にはESG債を出している企業もあります。そういう企業と親密にコミュニケーションをとり、ESGの取り組みへの共感を持ってもらいながら、大型の設備投資等が必要になる場合等の資金調達手段としてESG債を活用し、あわせて投資家等に向けたPRの手段として、上場も検討してもらいたいと考えています。
ただ、大企業の場合は財務ラインとサステナブル推進ラインという二系統があり、両方と連携しながら進めていかねばなりません。企業一社一社の方針なり、計画なりに、われわれも入り込んでいかないとなかなかアピールできないという課題もあります。
――確かに、発行体に事業戦略とESG戦略がない限り、しかも、それらと合致しない限り、取引所だけが急ぐわけにはいきませんね。北海道の企業の間では、すでに北電等が上場したことで、投資家も含めて「後に続こう」といった動きはでていますか。
長野氏 : GX関連を含めた新しい事業、たとえば、送電線とか蓄電池等。そういう事業を北海道で計画している企業が出てきています。そうした開発を伴う設備投資をする時に、地域との共感というか、同意というか、理解というか。開発には地域の同意が必要で、取り組む事業は、地域貢献をしていく投資なのだということを、投資しようとする企業が地域に理解を求めなければいけない。そのときに、ESGを意識したものといえるかどうか。このことは今後、開発を伴う設備投資をするときに重要になってくると思います。
北海道各地の地域コミュニティに対して、企業がきちっと地域貢献なり、環境対応なりを理解して、地域と共生していくことを目的にしていると言えるかどうか。北海道でやろうとしている人々は、それを意識して地域に対してPRできる認証をとっているとか、ESGを意識したものに作っていくとか、そうした視点が事業戦略上、今後、開発を伴う場合は不可欠になっていくと思います。それは北海道だけでなく日本の中で、あちこちで、いろんなものがトランスフォーメーションしながらやっていくことになると思いますが、(今回のESG債上場市場は)そこには役に立つと思うし、不可欠になるのではないかと思います。
単に、グリニアム(グリーン性のプレミアム)がある債券かどうかではなくて、地域コミュニティとの共感と、開発のための地域との一体化、その先行きの協力関係の展望など。こういうのが無ければ、その開発はうまくいかないと思うし、今後は、北海道だけでなく、日本全国で、それが求められていくものだと思っています。
――今回はプロボンド市場の開設ですが、日本のESG債発行体の中でも個人向けの債券を販売しているところもあります。株式市場も個人が参加することで、裾野が広がり、取引が活発化しています。札幌証取のESG債市場も、市場の活性化のために、将来はそうした個人投資家向け債券の上場も考えられますか。
長野氏 : まだ市場が立ち上がったばかりで、上場銘柄も3銘柄ですので、今後は、上質な上場銘柄を増やしていくことを最優先に考えています。ただ、この市場を活性化していくとなると、発行体の資金調達の問題と、資金運用の投資家側の拡張ということが不可欠になってくると考えられるので、先行きではそういうこともしていかないと、市場の活性化はなかなか難しいと思われます。ただその前に、プロ投資家同士の取引や上場銘柄をどれくらい増やせるか、そのための啓蒙活動の展開等の課題もあります。上場市場の充実と、発行側と運用側の充実をそれぞれ考えていかないといけない、と思っています。
――昨年のグローバル市場でのESG債発行額は前年比約2割減と低迷しました。一時のESGブームも、米トランプ政権の「反ESG政策」もあり、ESG債市場が、毎年、どんどん拡大するという時代ではなくなっています。その反面、今回、われわれの大賞の選定でも、多様なESG債発行企業が選ばれました。この日本のESG債市場の「活況」ぶりは、世界のESG債市場関係者の間でも注目を集めています。新たな資金調達先が「見える化」されたESG債が投資家にも人気となっています。
長野氏:サステナブルファイナンスに関する取り組みが、世界的に減速傾向にある中で、日本の発行体が資金使途を明確にした多様なESG債を積極的に発行していることは、非常にポジティブな動きと受け止めています。こうした取り組みは、透明性と信頼性の確保や、資金使途対象となる事業の持続可能性を重視する投資家のニーズにも応えるものであり、今後のさらなる市場活性化に向けた重要な要素だと考えています。われわれの市場が、こうした動きに少しでも貢献できるよう、引き続き適切な市場運営に努めていきます。
(聞き手は 藤井良広)

































Research Institute for Environmental Finance