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第11回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑩サステナブルボンド賞:横浜市「全国初となる浸水レジリエンス債の発行。東京海上日動と連携。『グリーニアム』も獲得」(RIEF)

2026-03-07 22:25:41

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写真は、横浜市財政局財政部資金課長の古川聡氏)

 

 横浜市は、地域社会の災害レジリエンス(防止、極小化、復旧早期化)の向上に取り組んでいる損害保険会社、東京海上日動火災保険と連携し、浸水対策に必要な資金調達のため、「浸水レジリエンス債」を全国で初めて発行したことで、第11回サステナブルファイナンス大賞のサステナブルボンド賞に選定されました。従来の地方債やESG債の枠を超えた新しい公民連携の資金調達手法が広まれば、気候災害をはじめとする様々な社会課題の解決に民間からの投資金がより回りやすくなることが期待されます。横浜市財政局財政部資金課長の古川聡氏に聞きました。

 

――2025年10月に3件の浸水対策事業を資金使途とする、全国初なる「浸水レジリエンス債」(10年債、総額15億円)を発行しました。発行の動機と経緯を教えてください。

 

 古川氏  : 横浜市はまだまだ浸水被害がいろんなところで起きています。都市機能の中心である横浜駅の周辺でも、2004年、台風により地下街が水浸しになる大規模な浸水被害がありました。市の西部や南部には大雨が降ると浸水被害が起きてしまう地区がたくさん残っています。近年、大雨が増え、浸水被害が発生する確率が上がっているため、横浜市は2025年3月に下水道浸水対策プランを新たに作成し、市の中心部から郊外に至るまで浸水リスクを評価し、被害の未然防止を目指しています。

 

 ただ、財政需要は税収の伸び以上に増えています。少子高齢社会の進展で福祉対策の経費が右肩上がりで増え、都市基盤の課題に割り振る財政リソースには限りがあります。このところの物価や労働単価の上昇に加え、最近はさらに金利も上がってきて資金調達コストも大きくなってきました。そうしたところに東京海上日動火災保険が浸水対策に興味を持っている、との話が主幹事証券のゴールドマン・サックス証券を通してありましたので打ち合わせすることにしました。

 

古川氏
古川氏

 

 今回の起債の一番の特徴は、東京海上日動火災保険と双方向で互いに知恵を出しながら浸水レジリエンス債を組み立てていったところにあります。地方債の起債ではわれわれ発行体が「こういう事業に充当する債券をいくら発行します」と投資家に向けて一方向的に言うだけです。ESG債の場合も「ESGの枠内の事業に充当するために資金調達に応じてください」とオーダーを出して応募を待つだけです。これに対し、今回のレジリエンス債は発行体と投資家である東京海上日動火災保険が様々な点で意見交換や議論をしながら作り上げました。最終的にはお互いウィンウィンな形で債券発行に至ったと考えています。

 

――先行事例はありません。両者間の協議はうまく進みましたか。どういった点が難しかったですか。

 

 古川氏   :   具体的に話を始めたのは2025年5月でした。そこから、発行までは5カ月間。対象事業の選定については話し合いを行い、対象事業が決定した後に東京海上日動火災保険から現場視察の要望があったため、横浜市の浸水対策工事の現場に来てもらい、立坑に入って、実際にどんな事業をしているか見てもらいました。

 

 立坑とは下水道の雨水管を推進工法で掘るシールドマシン(シールド工法の掘削機)のスタート地点になる縦穴です。そこからマシンが横に掘って雨水管を作り上げ、その先のポンプ場が完成すると、どれだけの面積の地域で浸水が食い止められるか、などを現場職員から説明しました。投資家を現場に案内し投資金の充当対象事業を見学してもらうのは初めてです。

 

――現場をしっかり見て投資を決めてもらおうとしたのですか。

 

 古川氏  : 現場を見てもらうことで、より投資対象が具体的にイメージできたのかなというふうに思っています。そうやって理解を得ながら、この事業に対する投資に納得いただけたと考えています。納得感を深めながらやり取りを進めたことで、通常の市債よりも2ベーシスポイント(0.02%)低い水準で発行することができたと思っています。

 

――2ベーシスポイントのグリーニアム(グリーン性のプレミアム)が生じたことになりますが、当初から期待していた水準ですか。

 

 古川氏  :    通常債はほかの自治体と金利水準が基本的に同じです。ESG債の枠を使えばそこから1ベーシスか2ベーシスポイントの低利回りを得ることができますが、今回、われわれは、投資家と一緒に丁寧に作り込むことで、ESG債の枠ではないところで、「アンダー」での発行を実現することができました。当初からそれを目指していたわけではありませんが、新たな取組なので、アンダーの発行ができたことは画期的なことだと思います。ESG債の枠を使うのではなく、あくまでも互いの話し合いの結果、今回の水準に落ち着いたところが非常に意義のあることだと考えています。これまでの地方債市場に存在しない一つのスキームを作ることができましたし、これが地方自治体のファイナンスの可能性を広げていく第一歩になるなら、われわれとしては非常にうれしいです。

 

――新たなスキームを確立したことで、浸水対策事業以外でも同じアプローチで取り組む考えはありますか。

 

 古川氏  : われわれには取り組まなければならない事業が他にもたくさんあります。今回の取り組みをきっかけとして、「公民連携」による社会課題の解決の可能性が大きく広がったのではないかと考えています。浸水対策だけではなく、より幅広い課題に対して、今回は損害保険会社に投資家になっていただきましたが、より幅広い業界、企業の皆様と連携していくことができればと考えています。

 

――損害保険会社だけではなく一般の企業からの投資も期待できますか。

 

 古川氏  : 一般の企業もありだと思っています。例えば高齢者の課題に対応している会社に対して高齢者福祉であったり、医療関係を取り扱っている会社に対してメディカルケア政策であったりなどと、いろいろな組み合わせが可能です。発行体だけでなくて、投資家にとってもメリットになればと考えています。一気にというのはなかなか難しいと思いますが、一つひとつ広げていくことができればと考えています。

 

――初の取り組みということで注目を浴びました。

 

 古川氏  : 新聞をはじめいろいろなメディアからお問い合わせをいただきました。他の自治体もご興味を持っていただいたようで、きっかけはなんだったのか、どういうふうに作り上げていったのかなど問い合わせを受けました。

 

――自治体の資金調達方法は将来、どのように変わっていくとお考えですか。

 

 古川氏  : 資金調達の方法は、例えば環境対策事業をとってみると、これまでもグリーンボンドという先進的な取り組みが出てきましたが、今後は投資対象事業が経済的に換算して、いったいどれだけの価値を生み出すかということも含めて、資金調達での金利のプライシングに反映させようという考え方が広まっていくと思います。今回の取り組みがこうした変化のきっかけになればうれしいですし、今後もそこを目指したいと考えています。

 

                        (聞き手は、宮﨑知己)