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東京電力福島第一原発事故での賠償や廃炉作業費用等の国の実質負担額、12兆1000億円を超す。政府想定額の半分強をすでに支出。追加支出の増大と回収の後ずれ明確に。会計検査院(RIEF)

2022-11-08 00:49:47

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 会計検査院は7日、2021年度決算検査報告を内閣に送付した。この中で、東京電力福島第一原発島第一原発事故対応に対する特定検査状況を公表した。それによると、これまでに被害者への賠償や事故原発の廃炉作業などにかかった費用総額は約12.1兆円に上ることがわかった。政府は想定する事故対応費用の半分強をすでに使ったことになる。国が東電に対して交付国債で貸し付けた資金の返済見通しについては、東電の株式売却益が十分に見込まれない場合、最長で2046年度までずれ込む可能性があるとした。これまでの見通しに比べ、回収期間は1割程度、長期化することになる。

 

 検査院によると、2021年度までに福島原発事故処理等にかかった費用は、被災者らへの賠償が7兆1472億円、放射能除染関係費用が2兆9954億円、中間貯蔵施設関連が2682億円、廃炉・汚染水対策が1兆7019億円等で総額約12兆1000億円。検査院が2018年にまとめた17年末までの費用の約8.6兆円から約4割増えている。

 

 政府が見通す対応費用総額も、2016年に、それまでの11兆円から計21.5兆円へと、ほぼ倍増の上方修正を行っている。当初から懸念されていたように、事故処理費用は着実に増大しているわけだ。さらに廃炉作業は依然、難航しており、処理水の海洋放出による風評被害に対する賠償額等は政府の現在の費用推計には考慮されていない。検査院は「賠償額の増加につながる可能性があり、国民負担に影響を与えることになる」としている。

 

 被害者への賠償や事故原発の廃炉作業などにかかった費用は、国が設立した原子力損害賠償・廃炉等支援機構が、国が交付する「交付国債」を原資として、東電に資金を貸し付けする。交付国債の償還資金は、東電以外の各電力等の原子力事業者が負担する一般負担金や東電が負担する特別負担金、中間貯蔵施設用費用として国の負担(68条資金)等で償還する仕組みだ。

 

 2021年度末での機構による国庫納付額は2兆2881億円で、行使した資金全体の2割強にとどまる。また機構が開示する一般・特別負担金のうち、東電が負担する特別負担金については、どのように負担金額を算定したかが示されておらず、検査院は「法令の基準を満たしているかどうかが必ずしも明らかでない」として、機構の情報開示の不足を指摘している。

 

 賠償費用のうち、廃炉・汚染水対策は東電が全額負担する。その内訳は、使用済み燃料プールからの燃料取り出しに1957億円、汚染水・処理水対策に1821億円、原子炉内に溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出し費用に371億円がかかった。デブリ取り出しは、政府は2031年までに1兆3700億円の費用が必要と見積もっている。

 

 こうした費用を捻出するため、東電は毎年、廃炉費用を積み立てており、残高は昨年度末で5855億円となっている。しかしデブリ取り出しは技術的な課題が多く、開始時期は度々延期されている。検査院は、東電の経営動向やデブリ取り出しの進捗状況次第では、積立金の取り崩しが加速し、不足する恐れもある、としている。

 

 検査院は、賠償・廃炉費用の原資となる交付国債の返済見通しについて、一定の条件で試算を公表した。東電が負担する特別負担金について2ケース、国が保有する東電株式の売却益の将来見通しで3ケースの選択肢を設定して試算した結果、最も回収が早く終わるのは2026年度、もっとも時間がかかる場合は2046年度と、20年の差が生じるとした。同試算全体が2018年時点での試算より、全体で1割程度長期化しており、国の負担額の増大、回収の後ずれという傾向が明確になってきた。

 

 メディアの報道では、今回の検査院の指摘に対して、東電事故前から原子力政策を担ってきた経済産業省資源エネルギー庁は「(検査院の)それぞれの指摘は真摯(しんし)に受け止めるが、あくまで現時点では想定を越えるとは考えておらず、費用を見直す予定はない」と説明しているという。「想定外の未曾有の事故」を起こしながら、対策費用は「想定内」と言い張るこの役所の傲慢さを、あらためて実感する。

 

 検査院は同日、東電の原発事故関連の対応費用の精査を含め、国費の無駄遣いや不適切経理などで改善が必要な国の事業が310件、計455億円あったと指摘する検査報告を岸田文雄首相に提出した。

 

https://www.jbaudit.go.jp/report/new/summary03/pdf/fy03_tokutei_02.pdf