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莫大な費用」を理由に東電が原状回復拒否 原発事故訴訟で「低線量被曝のリスクは低い」とも主張(東洋経済)

2014-03-30 17:37:55

中島孝原告団長(左から4人目)は「加害者として甚大な被害を引き起こしたことへの反省も、被災者救済の責任の自覚もないことがわかった」と法廷での意見陳述で憤りをあらわにした
中島孝原告団長(左から4人目)は「加害者として甚大な被害を引き起こしたことへの反省も、被災者救済の責任の自覚もないことがわかった」と法廷での意見陳述で憤りをあらわにした
中島孝原告団長(左から4人目)は「加害者として甚大な被害を引き起こしたことへの反省も、被災者救済の責任の自覚もないことがわかった」と法廷での意見陳述で憤りをあらわにした


福島県などの住民約2600人が、原子力発電所事故による放射能汚染からの原状回復や損害賠償を求めた裁判で、被告の東京電力が「莫大な費用がかかると予想されること」などを理由に拒否する姿勢を示した。

3月25日に福島地方裁判所で開かれた民事訴訟で、東京電力は反論のための準備書面を提出。その中で、住民が求める原発事故前の生活環境に戻すことは「金銭的にも実現は困難」と述べた。


膨れ上がる除染費用は5.13兆円


 

東電の準備書面いわく、「産業総合技術研究所の報告では、年間追加被曝線量1ミリシーベルト以上の地域について面的除染を行っただけでも、除染費用として5.13兆円を要するなどと算定されている」。ましてや、「事故前の毎時0.04マイクロシーベルトの空間線量率を実現するためには、「これを超える莫大な費用を要し、原告らの居住地のみにおいて当該空間線量率を実現させるとしても相当な金額に上ることは明らかである」。

東電は政府の「低線量被曝のリスク管理に関するワーキンググループ」報告書に基づいた内閣官房のパンフレットなどを引用する形で、国が避難指示の基準として定めている年間20ミリシーベルトの放射線を浴びることによってがんになるリスクについて、「喫煙や肥満、野菜不足などと比べて十分に低い水準」と主張。今回の原発事故による原告の被曝線量についても「年間20ミリシーベルトを大きく下回るものと考えられる」としたうえで、「違法に法的権利が侵害されたと評価することは困難というべき」と述べている。

原発事故の後、1年以上にわたって、福島市や郡山市など避難指示区域以外の地域からも子どもを持つ家庭などの「自主避難」が相次いだ。残った住民も放射線被曝の不安を抱きながらの生活を余儀なくされている。

これまで東電は、福島県の中通り地方など避難指示区域以外の住民に対しても、「日常生活の阻害に起因する精神的苦痛と生活費の増加分の一括賠償」として、大人1人当たり8万円、妊婦および18歳以下の子どもに60万円を支払っている。

避難指示区域に住んでいた住民への賠償と比べて著しく低い金額であるものの、すでにこうした支払い実績があることを理由に新たに賠償を支払う必要はないと東電は強調。原状回復のための放射性物質の除染についても、住民が求める事故以前の水準の達成は「直ちに達成することは著しく困難」として、請求の却下を裁判所に求めている。


原告側の怒り爆発


 

これまで、原発事故被害を理由に東電を相手取った訴訟は全国13カ所で6000人強の原告によって起こされているが、このように東電が理由を含めて主張の内容を明らかにしたのは初めてと見られる。だが、原状回復が「技術的に困難」というだけでなく、「莫大な費用」を理由に拒否したことに対し住民の怒りが爆発。中島孝原告団長は「加害者として甚大な被害を引き起こしたことへの反省も、被災者救済の責任の自覚もないことがわかった」と法廷での意見陳述で憤りをあらわにした。

東電は福島での被災者の訴えを退けるよう裁判所に求めている一方、新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働のための新規制基準に関する技術審査を原子力規制委員会に申し立てている。そうしたさなかだけに、「重大事故を起こした際の東電の賠償方針が明らかになった意義は大きい」と原告弁護団の馬奈木厳太郎弁護士は指摘する。

煎じ詰めると、「事故を起こしたとしても、年間20ミリシーベルト以下の住民の被曝については責任を負わない。放射能で汚染させても、元の環境に戻す義務はない」という考えにほかならない。電力会社はこうした姿勢で原発を運営しているのである。原発再稼働の議論の際に、その事実を念頭に置く必要があるだろう。

 

http://toyokeizai.net/articles/-/33962