HOME |官民共同の地震保険。支払い評価で保険会社が「過小判定」全国で広がる。本来の支払額の10分の1、20分の1も。訴訟で判定覆り相次ぐ。「未払い数百億~数千億円」の見積もりも(各紙) |

官民共同の地震保険。支払い評価で保険会社が「過小判定」全国で広がる。本来の支払額の10分の1、20分の1も。訴訟で判定覆り相次ぐ。「未払い数百億~数千億円」の見積もりも(各紙)

2023-03-16 00:57:30

jishinhokenキャプチャ

 

 各紙の報道によると、国と民間保険各社が共同で運営する地震保険に加入した個人の契約で、実際に地震が起きた時に発生した家屋の損傷評価の「過小判定」が全国各地で相次いでいるという。保険金の支払い額が地震保険で定める本来の規定より、10分の1や20分の1に圧縮されており、裁判を起こした被災者側の勝訴判決が続いているとしている。こうした問題の背景には、保険業界の判定基準が公表されていないためという。そうだとすれば、保険会社側が恣意的に支払いを抑制しているとの疑念も生じる。地震保険の本来のあり方が問われる状況だ。

 

 河北新報が報じた。それによると、東京地裁は1月26日、東京海上日動火災保険に地震保険の保険金1000万円を支払うよう命じる判決を出した。訴訟は、2021年2月の福島県沖地震で、被害を受けた仙台市泉区の会社員男性(47)が保険会社の支払額の少なさを不満として提訴していた。同社の判定は「一部損」(保険金50万円)としていた。

 

 古庄研裁判長は、証拠採用された日本損害保険協会(損保協会)の基準を挙げて「査定指針基準表に従って計算すると『全損』と認められる」と過小判定を指摘した。保険金は20倍に拡大したことになる。東京海上は控訴せず、判決は確定した。

 

「一部損」から「全損」に判定が覆った住宅の被害場所をライトで照らす1級建築士の男性=仙台市泉区=河北新報から
「一部損」から「全損」に判定が覆った住宅の被害場所をライトで照らす1級建築士の男性=仙台市泉区=河北新報から

 2016年4月の熊本地震で被災した大分県別府市のマンションのケースでは、東京地裁が20年11月、損保ジャパンが「一部損」(保険金1050万円)とした判定を覆して「半損」と認定、1億5000万円を支払うよう命じた。

 民間の全国建物損害調査協会によると、同協会が18年から22年5月の間に、地震での被災者から再調査の依頼を受けた一般住宅やマンション計311件のうち、3分の強の118件で保険会社の過小判定が判明し、保険金額の支払い増額は合計で4億5690万円に膨らんだとしている。

 同協会は熊本地震のほか、2018年の北海道胆振東部地震、大阪北部地震、21年の「首都圏地震」など全国の被災地で再調査をしている。その結果、「ほぼ全都道府県で保険会社の過小判定が覆っている。全ての物件に正確な判定をすれば、保険金額は膨大になる」と語る。未払い額は数百億~数千億円単位になるとの専門家の意見も紹介している。

 地震保険は、被災者の請求に応じて保険会社の鑑定人が現地調査し、保険額を支払う仕組み。保険会社が契約者に交付する「契約のしおり」などの重要事項説明書には、認定基準や査定指針が全文明記されていないため、被災時の保険金の支払額については、被災者にとって保険会社の「言い値」に反論する材料がないのが実態だ。

 大手保険会社でつくる損保協会は、判定が覆った件数、金額を把握していないとしている。同協会の広報担当は取材に対して、「過小判定が頻発しているとは認識していない。基準通りに適切に判断している。悪質な業者に利用される恐れがあるため、基準や指針は公にできない」と話しているという。しかし、数百億~数千億円の未払い金があるとすると、誰が「悪質業者か」という疑問がわいてくる。

 地震保険は、地震保険法に基づいて、民間保険会社の保険責任を政府が再保険する形で運営している。一般の加入は任意。保険金限度額は住宅5000万円、家財1000万円。被害の程度により、全損(保険金額の全額)、大半損(同60%)、小半損(同30%)、一部損(同5%)の保険金が支払われる。1回の地震の総支払限度額は12兆円。東日本大震災の支払総額は約1兆3000億円だったので、「過小判定」は支払限度を上回ったためではない。

 消費者契約に詳しい吉岡和弘弁護士(仙台弁護士会)は「保険会社による過小判定は、再調査や代行申請で暴利を得る悪質業者を増やす温床になってしまう。保険金支払いの基準や指針を公にしないことは、消費者と保険会社の間に情報量、交渉力の両面で不均衡を生じさせ、消費者契約上好ましくない。消費者に情報がなければ、保険会社の判断に従わざるを得なくなってしまう」と現行の地震保険の仕組みの改善を呼びかけている。

https://kahoku.news/articles/20230309khn000062.html