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イタリアの石油・ガス大手「Eni」、同業界初のサステナビリティ・リンク・ファイナンス・フレームワーク(SLFF)公表。KPIsは4項目。「2050年ネットゼロ」達成を目標に(RIEF)

2021-05-24 08:16:30

ENI001キャプチャ

 

 イタリアの半国有石油・ガス大手会社であるEniは、「2050年ネットゼロ」を目標とする初のサステナビリティ・リンク・ファイナンス・フレームワーク(SLFF)を設定した。軸になる主要業績指標(KPI)としては、再エネ導入量、上流部門でのScope1~同2のカーボンフットプリント等4項目とし、2030年までに上流部門でのネットゼロ達成、再エネ15GW導入等を目標に掲げている。現時点では、同SLFFに基づくリンク・ボンド、リンク・ローンの具体的な発行は言及していない。

 

 石油・ガス企業でSLFFの設定を表明するのは、2月に仏メジャーのTotalのCEOのPatrick Pouyanné氏が、今後発行する社債をすべてサステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)とすると宣言したことに次ぐ。ただ、Totalの場合、「ネットゼロ」目標の評価方法に関して、環境NGO等からクレームが示されるなどで、正式なSLFFの公表に至っていない。このため、Eniが実質的に同業界初のSLFF公表企業といえる。

 

 EniのSLFFについては、炭素集約ベースの方法論を避けているとして、市場プレイヤーのCrédit Agricole CIB、Goldman Sachs、UniCreditの各金融機関の支持を得ている。各金融機関はフレームワークづくりにも協力したとみられる。

 

 フレームワークの評価軸となるKPIsは、①再生可能エネルギー事業の導入量②同社の上流事業でのカーボンフットプリント(Scope1、同2)③温室効果ガス(GHG)のライフサイクル排出量(同+Scope3)④ネットのカーボン排出量(Scope1~3)、の4項目を選んだ。

 

 これらのKPIsの達成について、エネルギー業界で最も重要な採掘等の上流部門では2030年までに、Eni全体の事業では2050年までにネットゼロを実現する目標を掲げている。さらに再エネ事業の導入量については30年までに15GW、50年には60GWに引き上げるとしている。Eniは2018年時点で再エネ事業に取り組んでおらず、実質的には、ゼロからの再エネ取り組みとなる。

 

ENIのサステナビリティ・リンク・ファイナンスの達成目標
Eniのサステナビリティ・リンク・ファイナンスの達成目標

 

 Eniは今回設定したフレームワークについて「サステナビリティをわが社の財務戦略にフルに盛り込んだ。さらに、可能な限り、将来の資金調達に、今回明確化した目標の一つあるいは二つを達成するための財務コストをリンクさせていく」と説明している。SLFFに基づいたサステナビリティ・リンク・ボンドや同ローンでの資金調達をいつ行うかについては明言していない。

 

 今回のフレームワークについては、欧州のESG評価会社のV.Eが国際資本市場協会(ICMA)のサステナビリティ・リンク・ボンド原則(SLBP)と、ローン市場協会(LMA)のサステナビリティ・リンク・ローン原則(SLLP)の量自主基準への適合評価を付与している。ただし、ICMAが昨年末に発行したトランジションファイナンスハンドブックについての関連性については言及していない。http://rief-jp.org/ct4/114002?ctid=69

 

 V.Eのサステナブルファイナンス研究部門責任者のAdriana Cruz 氏は「Eniが選定したKPIsは、『高度なマテリアリティ』を示しており、その達成目標(SPTs)は、同社の強い野心の水準を示している」と評価している。

 

   これまで石油・ガス業界の企業も、グリーンボンドの発行を試みたことはある。たとえば、2017年にスペインの石油・ガス企業のRespolが5億ユーロのグリーンボンドを発行し、GHG削減技術投資の増額を目指した。しかし、市場での反応は温暖化を促進してきた企業によるグリーンボンド発行に対して賛否両論となり、同社も第二弾を見送り、他の石油・ガス企業の追随も止まってしまった。http://rief-jp.org/ct4/70033

 

 またEniと同じイタリアのガス大手のスナム(Snam)は、2019年に「Climate Action Bond」を、2020年6月には同社初の「トランジションボンド」を発行している。同社の場合も市場では賛否両論が繰り広げられた。https://rief-jp.org/ct6/103532

 

 今回のEriのフレームワーク公表は、ネットゼロ目標を明示し、そこに向かうためのKPIsの達成目標を投資家に「見える化」した。その意味ではトランジション(移行)ファイナンスでもあるが、ICMAのトランジションファイナンスハンドブックに対する市場の不信感が高いことから、あえて「トランジション(移行)」という言葉は使わず、サステナビリティ・リンク・ファイナンスとしての取り組みを強調した形だ。http://rief-jp.org/ct4/114135?ctid=69

 

 昨年来、市場に登場しているSLBやSLLについても、発行体が恣意的と思われるようなKPIsを選んで、達成し易いSPTsを設定する「緩いSLB、SLT」が問題視され始めている。この点でも、EniのSLFFは、軸になるKPIsとSLTsについて、ともにネットゼロの促進を明確に示した形だ。

 

https://www.eni.com/en-IT/media/press-release/2021/05/eni-publishes-worlds-first-sustainability-linked-financing-framework.html

https://www.eni.com/assets/documents/ita/investor/finanza-sostenibile/Sustainability-Linked-Financing-Framework-May-2021.pdf