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南極で、東京都の約2倍の広さを持つ氷塊が海洋に流出。専門家は、「現時点では、海面上昇の懸念より、海洋の『熱塩循環』に影響を与える可能性」の懸念を指摘(RIEF)

2021-05-23 23:27:56

antartic003キャプチャ

 

 南極の海域を覆う巨大な棚氷から、東京都のほぼ2倍の大きさの氷塊が切り離され、海洋に流出した。欧州の欧州宇宙局(ESA)が衛星で確認、「 A-76」と名付けた。現時点では、自然現象で、気候変動による直接の影響ではないとされる。ただ、南極では2017年7月にも今回の氷塊より3割ほど大きい観測史上最大の氷塊が流出、3年以上かかって海洋に吸収されている。今回の氷塊は、海洋に浮かぶ棚氷からの流出のため、溶けても、直接、海面上昇を引き起こさないとみられるが、温暖化の進展で南極大陸を覆う氷床の溶融につながると、海面上昇を加速する。

 

 (写真は、氷塊が棚氷から切り離された状況を衛星がとらえた)

 

 氷塊が流出したのは、南極の大西洋側のウッデル海に面した南極半島とクィーンモードランドの間に位置するロンネ棚氷( Ronne Ice Shelf)。 英南極調査局(BAS)によると、棚氷から流出した氷塊は長さ170km、幅25kmの大きさで、表面面積は4320㎢に及ぶ。

 

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 ESAの海洋・氷首席科学者であるCraig Donlon氏は「ロンネ棚氷は南極の氷床の約10%を、地球規模の海洋循環である『海洋熱塩循環』に影響を及ぼす南極海域に排出している。仮に暖かな海水が棚氷の底の空洞に流入すると、棚氷の基盤部分の溶解を誘発し膨大なインパクトを引き起こす可能性はある。しかし、そうなるかどうかは現在研究対象の段階であり、衛星および現地でのモニタリング等でのさらなる調査が重ねられている」と説明する。

 

 BASの氷河研究者のAlex Brisbourne氏は「南極周辺の海域は気候変動の影響で海洋の温度が上昇しているのは間違いない。ただ、ロンネ棚氷があるウエッデル海では現時点ではそうした影響は観測されていない。しかし、他の地域では温暖化の影響で陸地の氷床の溶解が起きていることが観測されており、こうした現象が進むと海面上昇を高めていく。南極の氷の溶解による海面上昇は南極大陸だけに起きるのではなく、世界全体の海面上昇に影響を与える」と警告している。

 

 観測データによると、地球の海面上昇は、1880年以来、平均で29cmとされている。北極や南極の気温上昇は、その他の地球上の各地よりも2倍以上のスピードで進行しているとされ、各国の気候対策が現状のペースでしか進まないと、氷塊の流出や溶融のスピード加速は免れない。また、海面上昇のリスクだけでなく、海洋熱塩循環が異変を起こすと、台風の発生や激化を招来するリスクも高まる。

 

 2017年に南極半島にあるラーセン棚氷(Larsen Ice Shelf)から流出した氷塊(A 68)は今回の氷塊より一回り大きい5800㎢の広さで、その重量は数十億㌧と推定された。海洋に漂ってから3年有余の年月をかけて、海中に吸収、消えた。

 

https://www.bas.ac.uk/media-post/the-worlds-largest-iceberg/