HOME4.市場・運用 |TCFDコンソーシアム、「グリーン投資ガイダンス2.0」公表。TCFD提言の解説はほぼ従来通り。独自設定の「補論」でトランジションファイナンス等を推奨。経産主導色強く(RIEF) |

TCFDコンソーシアム、「グリーン投資ガイダンス2.0」公表。TCFD提言の解説はほぼ従来通り。独自設定の「補論」でトランジションファイナンス等を推奨。経産主導色強く(RIEF)

2021-10-07 08:23:48

GIG001キャプチャ

 

 経済産業省の主導で産業・金融業界の関係機関が構成する「TCFDコンソーシアム」は5日、TCFD提言を踏まえて2年前に定めた「グリーン投資ガイダンス2.0」の改定版を公表した。前回のガイダンスはTCFD提言が示す戦略とビジネスモデル等の4分野の解説(読み方)が中心だったが、今回は「補論」として、提言ではほとんど触れていないトランジションファイナンス等の分野について、同団体が独自の解釈を示したのが特徴だ。

 

 「補論」は当初のガイダンスとほぼ同量を追加する形で記載された。したがってガイダンスの分量は倍増。補論を作成する意味として「投資家等が開示情報を理解するに当たり重要であると思われる一方で、現時点では解釈や視点が定まっていない論点について解説する」と説明、TCFD提言の枠を超えて同団体の考えを示したとしている。https://rief-jp.org/ct4/94792

 

 補論の軸は、トランジション(移行)企業へのファイナンスを投資家、金融機関に求める点だ。本論においても、この点を導き出すために、「現時点で脱炭素を実現する代替技術がない産業が『カーボンニュートラル』を目指す場合には、自社がどのように移行していくかが気候変動対策での重要な要素。このような『トランジション』に関する情報開示を促し、理解を深めることも今後重要性が増す」との記述を追加している。

 

 トランジション・ファイナンスについては、「カーボンニュートラルへ向けた重要な手段であり、トランジションに関して適切な計画を示す企業を積極的に評価することが、将来的な投融資ポートフォリオの脱炭素化にもつながる」と指摘する。同ファイナンスについてはEUでも検討が進んでいるが、EUの場合、ファイナンスの対象は個別事業の脱炭素化を想定している。炭素集約型企業の同事業の低炭素化だ。

 

 EUが「トランジション計画を出す企業」を対象とせず、それらの企業による事業を移行対象とするのは、企業自体を対象とすると、計画や戦略提案だけでは、投資家や金融機関は、移行の実現性の確証を得ることが難しいためとみられる。代わりに、EUはそうした企業が抱える個別事業で移行の成果が把握できるものをトランジションの対象とする考えだ。対象企業は、自らが抱える高排出事業を一つずつ移行ファイナンスの対象とすることで、結果的に企業全体の転換につなげることになる。

 

 これに対して、「ガイダンス」は、トランジションファイナンスを、「将来に対してより野心的な取組を担保する主体へのファイナンス」とし、個別事業へのファイナンス手段であるグリーンボンド/ローン等と同列に置いて、「カーボンニュートラ ルの実現に極めて重要な手段」とする。一方で、トランジション企業の達成目標(ネットゼロ)や達成期間等については触れていない。

 

 最近、経産省のお墨付き(補助金付き)で実現した川崎汽船のトランジション・リンク・ローン」の場合が、この議論の典型だ。同社は「移行の目標」として「2030年までのCO2排出量50%削減(2008年比)」を盛り込んだ。だが、融資期間5年の借り入れ期限時点では、総排出量比で21.4%削減の達成見込みでしかない。30年に延長しても26.2%減で、国の30年目標(46%減)の6割止まり。https://rief-jp.org/ct4/118630?ctid=69

 

 2026年の融資契約終了後に、計画通りに50年のネットゼロに到達できる削減ができるかどうかは、融資した金融機関にはわからない。仮に計画倒れに終わって目標達成ができなかった場合でも、すでに契約は終わっているので融資金融機関ないし投資家は、経営責任は問われないだろう。だが、「甘い融資だった」との評判リスクを負う可能性はある。

 

 ガイダンスは「投資家等はこのような企業(炭素集約型の意味か)に対して、 エンゲージメントを行い、投融資を実行することで、投融資による利益を得ながら、パリ協定の実現に寄与できる。トランジション戦略を有する企業への投融資は、(現時点では多排出な産業分野でも)投資家等の将来的な投融資ポートフォリオの脱炭素化の方針とも整合する」と強調する。

 

 そうなるためには、ネットゼロを達成するトランジションの成果が投資家に見える個別事業の移行計画と、それを遵守させる担保措置、目標達成の移行期間を明示し、投融資契約にそれらを盛り込む等のガイダンスを示すべきではないか。「先送りの移行」と投資家に疑われないためには、目標とファイナンス期間の一致が必要と思われる。

 

 ガイダンスはこのほか、「カーボンプライシング」にも触れている。ただ、EUや中国、韓国、英国、米国の東西州等がすでに導入している排出権取引制度や海外の炭素税等には、ほとんど触れていない。言及するのは、経産省等のエネルギー課税、 インターナル・カーボンプライシング(ICP)、ボランタリーなクレジット取引等だ。クレジットの活用も、経産省の非化石価値取引制度、経産・環境両省共管のJ-クレジット制度、同、二国間ク レジット制度(JCM)等の「改善」を求める形だ。

 

 金融庁が金融機関に対して気候リスク管理態勢の構築を促すことの重要性や、日銀による気候ファイナンス取り組みには言及している。投資家・金融機関のトランジションファイナンスの取り組みを後押しするため、政府・日銀による「アメとムチ」の政策もちらつかせる格好だ。

https://tcfd-consortium.jp/pdf/news/21100501/green_investment_guidance20-j.pdf

https://tcfd-consortium.jp/pdf/news/21100501/overview_green_investment_guidance20-j.pdf

https://tcfd-consortium.jp/pdf/news/19100801/green_investment_guidance-j.pdf