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フランス中央銀行高官、ICMA基準によるグリーンボンドに「グリーンウォッシュ懸念」指摘。EU基準(GBS)の「ゴールド基準」化と、国際共通タクソノミー基準(CGT)確立を強調(RIEF)

2021-11-21 09:01:42

BOFEmmnuallaキャプチャ

 

   フランス中央銀行の金融安定部門担当の高官が、グリーンボンド市場の課題として現行基準の不透明性を指摘、「グリーンウォッシングの懸念がある」と警鐘を鳴らした。今年のグローバル市場でのグリーンボンド発行は4000億㌦超に増える見通しだ。だが、市場基準とされる国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則(GBP)は、資金使途先のグリーン事業を分類するタクソノミーを備えておらず、国際的な共通基準「Common Ground Taxonomy(CGT)」に準拠する必要性を強調した。

 

 グリーンボンドの「グリーンウォッシュ懸念」を指摘したのは、フランス銀行の金融安定・オペレーション担当の局長代理のEmmanuelle Assouan氏。英メディアが主催したオンラインセミナーの場で、「グリーンウォッシングが、グリーンボンドに投資を目指す投資家の『次なる悪夢』になりそうだ」と述べた。

 

 グローバル市場でのグリーンボンドの発行額は、今年は過去最高額の4000億㌦(約45兆円)台に達するとみられている。ただ、同氏は、「グリーンボンド市場の拡大は、ボンドの資金使途の透明性を強化することによって、ボンドへの信頼性の改善を伴って、進められねばならない」と指摘した。

 

 現在、グローバル市場でのグリーンボンド発行基準としては、ICMAのGBPのほか、英非営利団体のClimate Bonds Initiative(CBI)のClimate Bonds Standards(CBS)が知られる。ただ、市場では、基準が厳格なCBSよりも、使い勝手のいいGBPへの準拠が多い。日本市場でも同基準と、それをコピーして「日本版」と称する環境省のガイドラインへの準拠したものが大半だ。

 

 しかし、ICMAのGBPは資金使途先として、再生可能エネルギー等の大まかな10分野を示すものの、対象事業の区分やクライテリア、他の環境分野への影響等の評価は盛り込んでいない。このため、日本のグリーンボンドの中には、グリーン性が不十分なものでも、評価機関が独自の判断で「最上位のグリーン性あり」との評価を付けているものも少なくない。

 

 ICMAは基本的に、債券発行の引き受け金融機関の業界団体である点で、グリーンボンドの「グリーン性」の中身よりも、ボンドの発行数を増やすことをビジネス上の優先課題とする立場にある。この点も、GBPの「緩い評価」が横行する要因との指摘もある。もう一方のCBSは、分野ごとのクライテリアを定め、独自のタクソノミーも設定している。ただ、市場での利便性という点では、GBP優位の状況にある。

 

 こうした市場の構図は、中央銀行や金融監督当局の立場からは、あまり望ましくないとなる。資金使途先のグリーン性があいまいだと、投資家の資金が流れ込むグリーンボンド市場が拡大しても、グリーン投資の効果が想定ほど上がらないほか、場合によるとグリーン投資自体が「座礁化」する懸念も出てきかねない。そうなると金融システムにも影響を与える恐れもある。

 

 Assouan氏はこうした現在のグリーンボンド基準が抱える課題を指摘したうえで、ボンドの資金使途先をタクソノミーに準拠させることが、ボンドの「グリーン性」への信頼性を高める、とした。その点で、EUが現在、最終作業を行っている気候関連のタクソノミーのクライテリア整備の重要性を改めて指摘した。

 

 またグリーンタクソノミーの国際共通化作業を進めている「サステナブルファイナンス国際プラットフォーム(The International Platform on Sustainable Finance:IPSF)」は、COP26の期間中に国際共通のタクソノミーとしてCGTを提案した。IPSFの提案は、G20のSFWGがCOP26前にまとめて発表した内容を受けたもので、CGTはEUと中国のタクソノミーを共通化する考えだ。https://rief-jp.org/ct4/119755?ctid=71

 

 同氏は「(CGTには)多くのチャレンジがまだ残っている。特にグローバルタクソノミーとしてのフレームワークの共通化(の視点)が欠けている」とした。そのうえで、「グリーンボンドの透明性を改善する作業をもっと進めねばならない」「EUがここ数年進めてきたタクソノミー整備の取り組みは、そうした前進のために重要」等と述べ、EU主導でのCGT改善・強化の必要性を強調した。

 

 EUのタクソノミーは、単にグリーンな事業分類にとどまらない。企業のサステナビリティ情報開示指令(CSRD)案の情報開示の基準に、また欧州グリーンボンド基準(GBS)の資金使途先にも、使われる。同氏は「GBSはグリーンボンド発行体が準拠する『ゴールドスタンダード』化を目指している。同基準に基づくことで、企業や公的機関がグリーンボンドを発行する際に、投資家をグリーンウォッシュから守りながら、大規模な環境投資のための資金調達をし易くする」としてGBSの優位性を強調した。

 

 フランス中央銀行としては、GBS等のより高い透明性を持った基準の改善・推進を支援していくとの姿勢を示した。同中央銀行は、監督対象の金融機関の情報開示やリスクマネジメント、企業資産購入オペや適格担保の扱い等において、気候リスクを盛り込んでいくと明言している。金融政策でのグリーン性の評価の透明性を高めるためにも、明瞭なタクソノミーへの準拠が必要と判断している模様だ。https://rief-jp.org/ct4/110837

https://www.banque-france.fr/en

https://www.environmental-finance.com/content/events/esg-in-fixed-income-mega-trends/agenda.html