コマツ、日本企業初のドル建てサステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)発行。6億㌦(約870億円)。SPTにScope3削減も盛り込む。未達の場合、金利引き上げ分を投資家に配分(RIEF)
2022-10-02 01:06:57
コマツは、9月29日、同社初となるドル建てのサステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)を6億㌦発行すると発表した。日本企業がドル建てでSLBを発行するのは公表ベースでは初めて。期間は5年で、サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPT)は生産時のCO2排出量(Scope1、同2)と製品使用時の排出量(Scope3)を2024年度において、それぞれ45%削減(2010年比)、同24%削減(同)と設定した。SPTが未達の場合は、それぞれのクーポン利率を引き上げる条項を盛り込む。
これまで日本国内で発行されるSLBはKPI(主要業績指標)の選定や、SPTの設定等で「日本独自」の条件付けとなるケースが多く、「サステナビリティウォッシュ」の疑念も指摘されてきた。今回のSLBはドル建てで国際的な機関投資家向けの販売となるため、SLBの基本枠組みに沿った形となっている。
SLBの発行はコマツの100%子会社のKomatsu Finance America Inc.が発行する。同社は2025年3月期をゴールとする3カ年の中期経営計画「DANTOTSU Value - Together, to “The Next” for sustainable growth」で、2030年度のCO2排出量50%削減(2010年比)を経営目標として設定しており、SLBのKPI、SPTも同目標の達成を目指して設定した。
同社は今年3月、「1.5℃目標」達成のためのサイエンスベースドターゲット(SBTi)によるCO2削減目標として、Scope1+2 排出量30%削減(2019年比)、 Scope3排出量同15%(同)を設定、認定を受けている。今回のSLBでの目標はこの水準を上回り、SPT1-1としてScope1+2を2024年度(2025年3月末)までに45%削減(2010年比)、SPT1-2として2030年度で50%削減としたうえで、SPT2-1として、Scope3を同24年度に24%削減、SPT-2として30年度に50%削減と、2つのSPTを期限に応じて各2種類、設定した。
金利は発行日(10月6日)から3年後の2025年10月5日までは年5.499%と一定だが、25年3月末でSPT1-1が未達の場合、「ペナルティ」として、10月6日以降の金利は0.01%、SPT2-2が未達の場合は0.015%のクーポン金利を上乗せして投資家に支払う。コマツでは「自社の拠点、自社製品使用時にとどまらず、顧客の現場全体にも拡げ、施工の最適化により社会のCO2削減に貢献することを目指す」としている。
発行するSLBはMoody’sからA2、S&PからAの信用格付を取得。セカンドオピニオンはDNV ビジネス・アシュアランス・ジャパンからICMAのSLB原則(SLBP)への適合を付与された。東京証券取引所はグリーンボンドやSLBの上場区分を設定していないため、シンガポール証券取引所に上場する。
これまでの国内発行のSLBには、設定するKPIについて、当該企業のサステナブル経営上、重要となる経営指標よりも、外部ESG機関の格付向上等を対象とするなど、投資家にとって実際のサステナビリティ経営の改善度が見えにくいものが少なくなかった。またSPTの目標を達成できなかった場合の「ペナルティ」についても、自社が関連するNGO等への寄付金を設定する等、社会貢献活動と混在する事例もまかり通ってきた。
コマツは、KPIについて、主要企業に求められる温室効果ガス排出削減と定め、Scope1+2に加えて、Scope3も別枠で削減目標を設定した点で、国際的に通用するSLBを目指したといえる。SPT未達の場合の「ペナルティ」も金利上乗せを実施するとして、投資家に向き合う形を示している。ただ、この点でDNVのセカンドオピニオンでは、「利率の変動に加えて、ボンドの目的と関連する寄付や、その他の適切な方法の等の何れか、または複数を選択する場合がある」と記載しており、コマツのプレスリリースと微妙に異なる。