岸田政権。GX政策を早くも「修正」へ。米欧の「30年代前半」での脱石炭路線に付いていけず。2040年に向けた新たな産業戦略目標を設定。カーボンプライシングの義務化必至(RIEF)
2024-05-14 01:48:25

岸田首相は13日、開いたグリーントランスフォーメーション(GX)実行会議で、2040年を見据え、脱炭素の産業・社会構造への転換に向けた新たな国家産業戦略を策定すると説明した。同戦略は年内にもまとめる。成長志向型カーボン・プライシング、150兆円の官民GX投資等を掲げた昨年のGX戦略を「GX1.0」とし、新産業戦略の策定を「GX2.0」と位置付ける。実態はGX政策の「修正」となる。この中では、カーボン・プライシング政策について、企業の自主的な削減目標に基づく排出量取引制度の導入をGXリーグとする現行方式を、電力や鉄鋼業等の高炭素排出産業を対象とした義務的排出削減制度へ切り替える案が有力だ。
首相は「激しいエネルギー価格の変動が常態化する中で、過度な化石燃料依存から脱却するためのカーボンプライシングの活用、あるいは、長期の脱炭素電源への投資促進、そしてトランジション期における戦略的な予備電源の確保などの検討が必要」と指摘した。これまでGX戦略では、企業が自主的な削減目標を立て、その過不足をJ-クレジット等の国内クレジットの売買で調整するGXリーグ方式を提案している。
しかし、こうした自主的方式では電力、鉄鋼等の高炭素排出型産業の排出削減の加速は見込めない。米欧ではEUが2026年からカーボン国境調整制度(CBAM)の本格稼働を予定しており、米国もCBAMが対象とする鉄鋼・アルミニウム等を念頭に、温室効果ガス(GHG)排出量の多い国内企業が、規制の緩い海外に生産拠点を移したり、米国製品が規制の緩い国からの輸入品に取って代わられる「カーボンリーケージ」等に対応するための大統領直属の「タスクフォース」の立ち上げを打ち出している。https://rief-jp.org/ct4/144850?ctid=71

さらに米国は、EUの欧州委員会が今年2月に2040 年GHG削減目標を「1990年比90%減」案を公表したことを受ける形で、バイデン政権が大気清浄化法(CAA)等に基づく新たな基準導入を発表。米国内で操業中の石炭・ガスを対象とする火力発電所からのGHG排出量を2032年までに現行より90%削減の義務化を発表している。https://rief-jp.org/ct5/144981?ctid=71
米欧の気候対策加速化での協調の動きが加速する中で、先にイタリアで開いた主要7カ国(G7)エネルギー相(気候・エネルギー・環境相)会議では、排出削減対策をとっていない石炭火力発電の廃止時期を2030年代前半(2030~35年)とすることで合意。同目標を満たせないドイツと日本の2カ国向けに別建ての選択肢を設定した。このうちドイツは石炭火力の廃止時期を法律で2038年と定めており、35年の3年後には廃止を公約している。https://rief-jp.org/ct5/145062?ctid=71
これに対して日本は、GX戦略で石炭火力へのアンモニア混焼率50%の目標を30年代前半にとどめ、それ以降の廃止時期は示していない。このため、GX政策に依存する日本政府は、明らかにG7の「35年廃止目標」の基本路線からの出遅れが鮮明で、海外の市場等では「GXはG7からの落ちこぼれ政策」と揶揄されている。
こうしたことから、政府は昨年設定したGX戦略を一年で見直す形で「GX2.0」への衣替えを打ち出すことになる。岸田首相は「(これまで)政府は3年おきに一定の前提を置いて、エネルギー基本計画と地球温暖化対策計画を策定し、脱炭素への道筋としてきた。来春には、この二つの計画を改定する。しかし、政治、経済、社会、技術等のあらゆる面で、世界が安定期から激動期へと入りつつある中で、単一の前提ありきでエネルギーミックスの数字を示す手法には限界がある」と説明している。
首相はそうした「計画変更」の背景として、「新たな動き」を指摘した。一か所で数千億円の投資と、原発数基分の脱炭素電力を必要とするAIデータセンター構想が相次いで発表されたことで、短期間で、高品質の脱炭素電源を供給するミクロの電力供給能力の充実がマクロの経済の成長力に影響を与える状況になっていることや、石油や石炭の新規開発からのダイベストメントの加速、中東情勢などのエネルギー価格の激しい変動等も要因として指摘した。
首相はGX政策の軸になるカーボンプライシング政策について、改めて「過度な化石燃料依存から脱却するための政策」と位置付けた。さらに長期の脱炭素電源への投資促進、トランジション期における戦略的な予備電源の確保などの検討が必要、とした。
政府が2040年を見据えた産業戦略目標を定めるのは今回が初めてになる。同戦略の正式名称は「GX2040ビジョン」とする。①エネルギー②GX産業立地③GX産業構造④GX市場創造――の4分野を中心に論点を整理して、今年度内に計画を策定する予定としている。ただ、国内の政治情勢が不透明なことから、想定通りの着地を得られるかどうかは不明だ。
(藤井良広)
https://www.gov-online.go.jp/press_conferences/prime_minister/202405/video-284176.html
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202405/13gx.html