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日本空港ビルデング。羽田空港ターミナルの排出削減でユーグレナから「持続可能な航空燃料(SAF)」導入。SAFは航空分野の「削減策の切り札」扱いだが原料逼迫で先行き混沌(RIEF)

2024-05-14 02:31:35

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写真は、東京・羽田空港=日本空港ビルデングのHPより)

 

 東京・羽田空港を管理・運営する日本空港ビルデングは、ミドリムシ培養のユーグレナ社と、羽田空港での持続可能な航空燃料SAF(Sustainable Aviation Fuel)の供給・販売の事業化に向けたSAFサプライチェーンを構築することで合意した。ユーグレナが発行する10億円分のグリーンボンドを私募で引き受ける。政府のGX(グリーントランスフォーメーション)戦略上の「国内における2030年のSAF供給目標量を航空燃料消費量の10%」との目標を2022年の航空燃料供給実績に当てはめると、羽田空港では2030年に22万KLのSAFが必要となる。両社はその必要量の約23%に相当する最大年5万KLのSAFの供給体制の構築を目指す。

 

 日本空港ビルデングは、羽田空港の旅客ターミナルから排出するCO2排出量の削減に向け、省エネや水素の活用の検討を進める一方、同空港全体を脱炭素化すべく、航空燃料の供給先である航空会社との連携も推進していた。

日本空港ビルディングのHPより
羽田空港の様子=日本空港ビルディングのHPより

 

 一方、ユーグレナは、バイオ燃料事業の商業化実現を目指して、マレーシアの国営石油ガス会社PETRONASやイタリアの3セク石油ガス会社Eniと共に、マレーシアで廃食油を主原料にしたバイオ燃料製造の商業プラント建設を進めている。同プラント完成後に大規模供給できる国内ユーザーを探していた。

 

 私募グリーンボンドは払込日が5月10日で償還期限が2030年5月10日、利率は年1.24%で、格付投資情報センター(R&I)からICMAの「グリーンボンド原則2021」等への適合評価のセカンドオピニオンを得ている
。

 

 日本空港ビルデングの鷹城勲会長兼CEOは「羽田空港における脱炭素化の実現、羽田空港を含む我が国空港の国際競争力の向上にいささかなりとも貢献できるよう努める」とコメントしている。

 

 航空関係の脱炭素化手法は、航空燃料にSAFを混焼する方式が広がっているほか、航空機の電動化への取り組みも進んでいる。しかし、電動化の場合、単位重量あたりのエネルギー密度が小さい現状の電池では、電池が重くなり過ぎて、大型電動航空機の開発は困難とされる。このため、ジェット燃料へのSAFの混焼率のアップが当面の策とみなされている。

ユーグレナのサイトから
ユーグレナのサイトから

 

 SAFについても、複数の製造方法がある。現在、主流となっているのは、廃食油や獣脂などの脂肪酸エステルを水素化処理してジェット燃料と同じケロシン系の燃料に変える「HEFA法」と呼ばれる方法での取り組みが先頭を走っている。

 

 だが、世界の航空・石油関連産業の目が一斉に廃食油に向いたため原料価格が高騰。ジェット燃料の価格が1L当たり100円前後で推移しているところ、「HEFA法」によるSAFの価格はその3~5倍にもなっている。SAFの価格が通常のジェット燃料より5倍も高いと、10%混ぜるだけで燃料代は40%も上昇してしまう。

 

 そこで廃食油に代わる原料探しが本格化しているが、見つけてもいざ使ってSAFを製造してみたらさらにコストが高くつくものが多く、事業化は一筋縄では進んでいない。現に、今回、日本空港ビルデングにSAF提供で合意したユーグレナ自体も、ミドリムシなど藻類に含まれる油からバイオジェット燃料を作るために進めていた佐賀市と連携したプロジェクトの一環で同市内で同社が運営していた研究施設を昨年10月に閉鎖、同地での事業化は断念している。

 

 米国では、「HEFA法」とは全く別の方法で、食用のトウモロコシや大豆で作ったバイオエタノールからエチレンを経てジェット燃料を作る「Alcohol to Jet」の試みが本格化している。しかしこの方法の場合、食糧危機との絡みで課題がある。欧州では食用の農産物からジェット燃料を作ると食糧価格の高騰や食糧危機につながる恐れがあるからと制限している。また代わりにポンガミアという油収量の高い非可食性の植物に注目が集まるなど、手探り状態が続いている。

 

 将来の航空燃料の本命技術はCO2とH2を合成して作る究極の合成燃料「e-fuel」と目されている。だが、合成燃料の実用化までには、現状は相当な時間がかかるとみられており、航空機及び航空関連施設からのGHG排出削減を巡る技術開発と、経済的に妥当な手法の開発は暗中模索の状況が続いている。

 

 日本政府のGX戦略は経済産業省が中心となってまとめたため、航空分野の脱炭素化については特に、通商産業政策上と経済安全保障上の視点で組み立てられており、肝心のGHG排出削減の方策の説明は後回しになっている感が否めない。

 

 GX戦略の参考資料での説明も、「将来的なSAFの需要増加や海外企業による積極的な域外への展開を踏まえ、諸外国に遅れをとることがないよう海外でのSAF原料開発に進出していくことが重要」「国内に必要十分なSAFの供給能力が構築されない場合、国際競争力のある海外産SAFが流通し、国富の流出に加え、国内での航空機燃料製造能力の喪失のリスク、輸入依存度のさらなる上昇による安全保障上の懸念等が増大する」と指摘している。

 

 海外では、たとえば欧州の場合、機体の技術革新(液体水素ガスタービンエンジンと水素燃料電池のハイブリッド機など)、航空機の運行方法の改善、SAFの開発という三本柱で、GHG削減に取り組んでいる。これに対し、日本のGX戦略は、機体の技術革新についてはボーイングやエアバス等の海外での取り組みを紹介する程度。運行方法の改善策についてはGX戦略ではほとんど記述がない。SAFについても、どの種類のバイオマスが、どの程度のCO2を固定するのかなど科学的な説明が乏しい。こうした説明では、2050年カーボンニュートラルを達成できるのかという一番重要な部分において、国民を納得させる形となっていないように思える。

                                    (宮崎知己)

https://www.tokyo-airport-bldg.co.jp/files/news_release/000014749.pdf

https://www.euglena.jp/news/20240508-2/

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/pdf/sankou7.pdf

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/pdf/sankou8.pdf

https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1150102