羽の無い「動かない風力発電」開発。米スタートアップ製で、英オックスフォードに独自動車メーカーの工場に設置。屋上の太陽光発電設備と連携し、夕方・冬季でも発電量を確保(RIEF)
2024-09-08 14:24:49
(写真は、自動車工場の屋上に設置された「羽のない風力発電設備」)
英国オックスフォードに、羽(ブレード)のない風力発電設備が設置され、話題を集めている。通常、風力発電は大きなブレードが風によって回転して発電する。だが、同発電設備は、円柱状の構造物とその両脇に固定翼によるシンプルな構造から生じる大気の流れが、円柱内のタービンを駆動させて発電する仕組みという。もう一つの話題は、同設備を開発したのは米国の再エネ技術スタートアップ企業、同設備を採用したのはドイツの自動車メーカーの製造工場、設置された場所は英国と、国際的な連携の中で実用化が進んでいるという点だ。
同設備を開発したのは米エアロマイン・テクノロジーズ(Aeromine Technologies : カリフォルニア)。創業者でもある、カーステン・H・ヴェスターガード( Dr. Carsten H. Westergaard)博士は風力技術と空気力学の専門家。2015年に物理原則の大気力学に基づいて同システムを開発、特許を取得している。同氏らは、2021年に同社を設立、2022年に最初のパイロット事業をミシガン州の独化学メーカーBASFの工場に導入している。
設備は、工場等の高い建物の屋上で、風が吹く場所に設置することで、設備の構造と建物の高さの影響で、風の加速を組み合わせて、設備に設置したプロペラの背後に低圧状態を作り出すことで、発電に必要な「風力」を確保するという。加速された空気はプロペラを通過して円柱内に吸い込まれ、円柱内部の発電機のタービンを駆動させる。設備を設置する建物は、高さの効果で、吹いてくる風を端から押し上げて加速させる機能を果たす。
今回の英オックスフォードへの導入は、独自動車メーカー、BMWグループがオックスフォードに設けているMINI製造工場の屋上に設置された。同工場の屋根の上には、すでに1万1000枚のパネルで発電する屋上太陽光発電システムが設置されており、今回設置した風力発電設備と連動させる。夕方や冬季に太陽光発電の発電力が低下する際に稼働する。同工場の太陽光発電は、サッカー場5面分の面積をカバーし、850世帯分の1年分の電力を発電している。
BMWはグループの「BMWスタートアップ・ガレージ」から資金を拠出して設置した。同企業は、サプライヤーの新興企業が持つ最先端技術をファイナンス面から支援すると同時に、対象設備・技術等を利用する顧客としての役割も担うという。
一般的な風力発電が備えるブレードがないことから、風力発電事業で時折、問題となるバードストライクが起きないほか、ブレードの回転によって生じる低周波や騒音等も生じない。このため、周辺住民や自然環境に対しても「フレンドリーな風力発電」ということになる。
開発したエアロマイン社によると、同設備は、発電量50kW以上のもので、倉庫、データセンター、オフィス、マンションなどのように、屋上が平らで大きな建物への設置が最適としている。 設備を設置する建物自体が発生させる風力の活用もポイントのようだ。日本でなら、都市部の高層マンションなどに設置可能かもしれない。
同社のマネージング・ディレクター、クラウス・レンボーグ(Claus Lønborg)氏は「動かない(Motionless)タービン」の風力発電、として「太陽光発電システムと連動するように設計されており、屋上からの再エネ出力を最大化すると同時に、騒音、振動、野生生物への影響などの課題の対処にも役立つ」と説明している。