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EUの「森林伐採規則(EUDR)」の施行一年延期、本決まりへ。EU理事会はすでに承認、欧州議会は11月14日に承認了承の採決。規則内容等は変えず(RIEF)

2024-10-28 17:43:08

EU00122キャプチャ

 

 EUが年明けに予定していたパーム油や大豆、コーヒー等の農林産業製品等の輸入先国で森林破壊等の問題がある場合は輸入を禁止する法律(EU森林伐採規則 : EUDR)の施行を、1年延期することがほぼ決まった。欧州委員会が9月に延期案を公表後、EU各国で構成するEU理事会が承認、もう一つの意思決定機関の欧州議会も11月14日の本会議で採決するスケジュールが決まった。同議会も延期を承認する立場で、同法の施行は、大企業について1年後の25年末に、小企業・零細企業は26年6月末まで延期することが確実になった。

 

 EUDRの法規制は2023年6月に成立。2025年年明けから施行する予定としていた。しかし、同規制の影響を受けるEUの産業界のほか、輸出先となる途上国のコーヒーやカカオなどの生産業者等の双方から反対の声が高まり、さらには対象品目となるチョコレートなどの消費財の品不足、値上がり等の影響が広がる事態となった。

 

 このため、欧州委員会は10月2日、「関係者に準備のための追加時間を与える」として、法規制の施行の1年の延期案を公表した。すでに成立している法規制の延期を決定するには、EUの意思決定機関のEU理事会と欧州議会の承認が必要となる。そのEU理事会は今月16日に欧州委の延期案を承認。欧州議会も同案の審議を11月14日に行う日程を決め、EU理事会と同様に欧州委の延期案を了承する方針を確認した。https://rief-jp.org/ct12/149220

 

 同規則は、途上国でのパーム油やコーヒー、ゴムなどの農林産業製品の生産拡大によって、大規模な森林伐採等が進行している状況に歯止めをかけるため、消費国サイドで輸入農林産品の妥当性をチェックする仕組みとして設定された。EUの輸入業者は輸入製品のサプライチェーンをチェックし、森林破壊等と関連していないかを確認する「デューデリジェンス声明」の公表を義務化される。

 

 対象となる農林産品は、パーム油、牛肉、木材、コーヒー、カカオ、ゴム、大豆およびその派生製品(チョコレート、家具、タイヤ、家畜からの皮革製品、木材からの木工品等)となっている。他の地域等の製品との混合材料の場合は、そのすべての材料が森林破壊していないことが証明されない限り輸入はできない。

 

 同規則は地球全体の生態系の保全に取り組むには、EU域内だけを対象にした規制では不十分との判断から、EU市場への諸外国からの輸入品を対象にした規制を導入したものだ。原産地での開発状況に一定の歯止めをかけることを消費国が目指す形で、国境を越えた環境保全策として注目を集めた。ただ、すでに消費・生産の多くがグローバルにつながっている経済構造であるため、一国(地域)の規制による影響が、当該国での消費製品の値上がり、輸出国側の開発政策との不整合の拡大等といった反応が増大するという課題が噴出した。

 

 EUDRの1年の施行猶予で、これらの問題を整理・解決できるかどうかは、現時点では定かではない。明らかなことは、気候問題に加えて、生物多様性・自然資本保全対策等で、実際的な効果を上げるには、消費国、生産国双方の連携と協力が欠かせないことを、今回の騒動で、双方が確認する形となった点だ。持続可能な開発と同消費活動を、いかに需要と供給、あるいは開発と保全とをバランスさせるかが喫緊の課題であることがクローズアップされた。

 

 問題の解決と、次世代につながる生態系の保全と経済活動の持続可能性を高めるためには、関係する双方、及び各機関等の協力強化が必要で、そのコストを誰がどう負担するのかでの合意形成に帰着すると思われる。日本の関連業界の関係者も、この問題を「EUだけの話」としてではなく、自らのビジネスと、生産地での自然保全の在り方への企業コミットメントの問題として、改めて捉え直す必要がある。

                           (藤井良広)

https://www.europarl.europa.eu/sedcms/documents/PRIORITY_INFO/1398/SYN_PDOJ_November%20I_BRU_EN.pdf

https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2024/10/16/eu-deforestation-law-council-agrees-to-extend-application-timeline/