GX政策の「カーボンプライシング策」として始めたGXリーグの「超過削減枠クレジット」取引。結局、開設以来、40営業日連続取引ゼロのまま年越しへ。制度設計の「甘さ」露呈(RIEF)
2024-12-30 22:17:27

(写真は、先のCOP29でGXリーグをアピールするためのセミナーを開き、スピーチする経済産業省の役人=GXリーグのサイトから引用)
政府がGX政策で設定したGXリーグのカーボンプライシング政策の第一フェーズとして11月に始めた東京証券取引所での「超過削減枠クレジット」の取引が、一件も成立しないまま、年を越すことになった。政府が2030年NDC(国が定める削減貢献)とする水準と整合する「NDC目標」を上回る超過削減量については、同取引所で売却して利益を得ることができるとして、クレジット取引制度に追加されたが、自主的な目標設定を基本とするGXリーグの制度設計の「甘さ」から、結果的に超過達成クレジットが取引されない状況となっている。
「超過削減枠クレジット」の取引は、11月1日から東証で開始された。2024年最後の取引日となった12月27日まで、40営業日すべてで、取引ゼロが続き、年を越す。https://rief-jp.org/ct4/150390?ctid=69
経済産業省が整備した「GX-ETS(GX排出量取引制度)における第一フェーズのルール」では、GXリーグに参加した企業は温暖化対策法に基づく「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)」により自社の排出量を算定する。その際、当該年度の排出量がNDC相当排出量(および基準年度排出量)を下回る場合、原則は3カ年度の平均で判断するが、単年度でも一定の条件を満たす場合は「特別創出」として、売却可能な超過削減枠を確保できるとしている。
そこで、経産省と東証はそうした企業が創出した「超過削減枠」を、実際の排出量がNDC相当排出量よりも多い企業に対して、クレジット取引を通じて売却することで、多排出企業の目標達成に資するとともに、「超過削減枠」を売却した企業は削減努力に見合う収益を得られる制度として、東証のカーボンクレジット取引所に、同削減枠を取引銘柄として新たに加えた。
ところが、制度発足以来の取引状況をみても、GXリーグに参加した企業からの「超過削減枠」の売却は一件もない。したがって削減不足企業からの買い需要も表面化しないという状況が続いている。GXリーグの第一フェーズは企業による自主的目標設定であり、目標を満たせなかった場合でも罰則等はないことから、参加企業の多くは、実際には自ら立てた目標が未達の場合でも、そのままにしている可能性もある。
一方で、実際に排出努力を実現して、超過削減枠を創出できた企業の場合も、その枠を他の企業に売却するよりも、2年度以降の自社の削減余裕枠として確保できるバンキング制度を活用して自社保有としている可能性もある。また政府のGXリーグのスケジュールが変更されて、次のフェーズ2には義務的な排出量取引に移行する方向が示されたため、リーグ参加企業は自らの超過削減枠は、市場で売却するよりも、バンキングで保有することを優先するインセンティブが働いている可能性もある。
排出量の取引制度は、EUが2005年に開始し、中国も2021年に電力部門に限定して開始する等、諸外国で複数の先例がある。それらにおいては、いずれも政府が対象企業に対して義務的な排出枠を設定している。制度への参加を義務付けられる企業は、政府が定める削減目標枠を超過達成した場合は、超過削減分を市場で売却し、達成できない場合は超過達成企業からの削減枠を、市場を通じて購入するか、自ら追加削減政策をとるかの選択を迫られることになる。
つまり、同制度のポイントは排出削減目標の設定を義務的にすることにある。GXリーグのように、企業が自主的に目標を設定するならば、当該企業は自らが達成できないような削減目標を設定することはまずあり得ない。一般的な企業の場合、達成し易い目標を設定し、それを超過削減することが経営的に合理的な選択となる。その場合、削減目標が低い水準となるので、実際の排出削減量も低くなり、政策的効果はほとんどない。
こうしたことは、先駆的に制度を実施している国の先例をみれば、誰もがわかることだが、日本ではなぜか「自主的目標」という取引制度とはなじまない仕組みを第一フェーズとして設定した。その結果、一時は参加企業が途中で大量脱退する事態も起きた。現在は、その後の政府の懸命の「勧誘策」等により、GXリーグの第一フェーズの参加企業は900社超に増えている。
第一フェーズのGXリーグ参加企業の中には、排出量はそれほど多くはないが、同制度を通じた新たなビジネス展開を目指す企業等も加わっているようだ。しかし、政府が進める2026年度からの第二フェースの修正設計では、排出量の多い産業に属する企業に対して義務的な削減目標を設定するほか、第一フェーズから同リーグに参加した企業に対しても、「義務的」削減を求めるとしている。ただ、いずれの場合でも、現行のGX推進法の改正作業が必要になる。少数与党の石破政権が同改正案を優先的に推進できるかどうかは不明だ。
https://www.jpx.co.jp/equities/carbon-credit/daily/index.html