英スターマー政権。2030年の自動車新車販売規制からハイブリッド車を除外、35年まで販売可能に。高級スーパーカーも規制適用除外。トランプ米政権の関税政策の影響を緩和へ(RIEF)
2025-04-08 02:12:38

(写真は自動車メーカーの工場を訪れ、労働者と対話するスターマー英首相=同氏のFacebookから)
スターマー英政権は、自動車の新車販売を2030年から電気自動車(EV)等の電動車に限定する現行の規制を緩和し、トヨタや日産等が販売するハイブリッド車(HV)については、35年まで販売を認める等の緩和策を発表した。EUはすでに35年規制では電動車に加えて、合成燃料(e燃料)を使用するガソリン車等の販売も認めており、英国も欧州市場での英自動車メーカーの競争力維持に配慮した形だ。「スーパーカー」と呼ばれる超高級車を手掛ける小規模生産メーカーは規制の適用除外とする。ガソリン車やディーゼル車については、現行通りに30年に新車販売を禁止する方針だ。
英国では5年前の2000年に、当時の保守党のボリス・ジョンソン首相が、EUの2035年新車販売禁止措置を上回る格好で、2030年のゼロエミッション車化を宣言した。ハイブリッド車なども30年には新車販売ができなくなるとしていた。スターマー首相率いる労働党も、選挙公約では現行の30年ゼロエミッション車化を掲げたが、EUのゼロエミ車政策の変更に加え、トランプ政権の関税政策等の影響もあり、自動車規制の緩和策を打ち出した。
現行の規制の主な対象である、ガソリン車とディーゼル車の30年新車販売停止については維持することで、選挙公約を守る形をとる。一方で、実用性の高いHVについては、5年延長して35年までの新車販売を認める。同車に強い日本勢にとっては朗報だ。アストンマーティンやマクラーレンなどの富裕層向けの高級スーパーカーのメーカーに対しては、メーカーの年間生産台数が少ないことから、CO2排出量も限定的との判断等から、2030年以降もガソリン車での生産継続を認める。
ガソリン車およびディーゼル車のバンについても、HVと同様に35年まで販売できるとする。英自動車業界では、これらの措置について、トランプ政権による関税政策とその後の各国の報復関税等の影響によって、今後、輸出入される自動車の価格が上昇し、各メーカーは業績に影響が出ることが見込まれることから、現状のままでは各メーカーのEV化投資のコスト負担が重くなる懸念があることを懸念する指摘が出ている。そこで、HV等の販売禁止措置を先送りすることで、各メーカーが負うEV投資負担を緩和することが狙いとしている。
したがって、EV化政策を「タナ上げ」するわけではないとして、英政府がすでに消費者のEV化需要のために投じているEV化のための自動車メーカーへの振興策と、充電インフラの改善策の合計23億ポンド(約4300億円)により、現行ペースで30分ごとに新しい充電ポイントが設置されていることを強調。EV切り替えを税制面から支援する減税措置(数億ポンド規模)も推進するとしている。
また今回の自動車規制の修正に加えて、今後、各国間で、新たな関税の影響が明らかになることを受けて、自動車産業への支援策等については、常に見直ししていくとしている。
スターマー首相は、「世界的な不安定な情勢が続く新時代においては、政府はさらに迅速に、『変革計画(Plan for Change)』を通じて経済の再構築を進める必要がある」と述べた。さらに、「今回の自動車規制の修正で、自動車業界はEV化へのアップグレードをしやすくなる一方で、2030年までにガソリン車およびディーゼル車の新車販売を停止するというわれわれの選挙公約を実現し、より多くの英国の消費者が、EVの低コスト化のメリットを享受できるようになる」と自賛している。
運輸相のハイディ・アレクサンダー(Heidi Alexander)氏も、「今回の変更は、同政策に織り込まれているCO2排出削減量に大きな影響を与えないよう、非常に慎重に調整されており、政策変更によるCO2排出量への影響は無視できる程度」と述べている。ただ、政策変更による削減量変更の推計値等は示していない。