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石油メジャーの再エネ投資増大。今年は70件。再エネ上位7社のうち5社は欧州系。欧州系が米国系の7倍の投資件数。個別ではシェルの積極姿勢が目立つ。BloombergNEFが分析(RIEF)

2019-09-09 08:41:44

Shell3キャプチャ

 

  石油メジャーの再生可能エネルギー投資が着実に増えている。今年は過去最高の投資件数になるとともに、Royal Dutch ShellやBPなどの欧州勢が米国勢の7倍も再エネ・エネルギー貯留事業への投資を増やしている。脱炭素を重視するEUの政策スタンスとトランプ政権の対応の違いを反映しているようだ。

 

  (写真は、Shellが開発した洋上風力発電事業)

 

 Bloomberg NEFの最新データによると、石油メジャーが手掛ける太陽光発電、風力発電、バイオマス発電等の再エネ事業件数は、今年すでに合計70件に達した。昨年全体の取り組み事業件数を上回っている。

 

 2010年以来の取り組み件数では、7つの石油企業に再エネ事業の取り組みの4分の3が集中している。7企業のうち5社が欧州系メジャーで、他は米Chevron CorpとサウジアラビアのSaudi Arabian Oil Co.(アラムコ)だ。米メジャーのExxonMobil、ConocoPhillipsなどの取り組みは限られている。

 

石油メジャーの投資対象は再エネとに年々多様化している
石油メジャーの投資対象は再エネとに年々多様化している

 

 BloombergNEFのアナリスト、David Doherty氏は「企業に対するシェアホルダーの圧力、新たな技術発展、急速に変わる消費者選好等が、石油・ガス会社の長期戦略をを再検討させ、新たなビジネス領域の開拓を後押ししている」と指摘している。

 

 特に、昨年以来、デジタル技術と効率化技術の発展を受けて、相対的に小規模な事業への投資が、他の分野の投資に比して増えている。Doherty氏によると「デジタルと効率化技術の進展で太陽光発電がさらに投資対象として、石油メジャー各社の人気を高めている」という。

 

  2010年以来のクリーンエネルギー事業の案件総数では、仏Totalがトップ。だが、今年はShellが一位となっている。Shellは、単に量的に再エネ関連投資を増やしているだけではない。

 

シェルの投資の多様性が進む
シェルの投資の多様性が進む

 

 ライバルのChevronやBP、Respolなどが投資対象を、電気自動車(EV)のチャージングステーション等のように、本業関連のガソリンスタンドの延長線上に位置するビジネスを中心に展開しているのに対し、Shellは全く新しい再エネ技術開発分野に積極的に参入している。

 

 たとえば、グーグルの持ち株会社Alphabet Inc.の子会社で新電力ベンチャーのMakani社が開発中の、洋上ブイに係留された「風力発電カイト」事業にも参画している。http://rief-jp.org/ct4/93146?ctid=72

 

 早くからクリーンエネルギー事業投資を重視してきたTotalのCEO、Patrick Pouyanne氏は「わが社を発展させ続けるには、発電部門に投資し続ける必要がある。こうした部門への実物投資の継続を進めていく。今後、現在の投資規模年間15億㌦~20億㌦をさらに増額するだろう」と展望している。

 

太陽光発電投資もポピュラーに
太陽光発電投資もポピュラーに

 

 ただ、Pouyanne氏は再エネ・クリーンエネ投資拡大姿勢の一方で、「エネルギー供給の安定性はこのビジネスの『Fundamental(基本)』だ」として、火力発電ビジネスへの投資も引き続き継続する方針を明確にしている。

 

 Totalの再エネ投資ポートフォリオでは太陽光発電事業が中心だ。太陽光関連の技術投資も、他の再エネ部門全体を合わせたよりも大きなシェアを占める。同社がこれまでに導入した太陽光発電規模は1.7GW分に達している。

 

 一方、米メジャーでもっとも再エネ投資に熱心なChevronの特徴は、カーボン回収貯留技術(CCS)への投資への積極的な関与だ。再エネ技術の進展に比べてCCS関連の技術進展のスピードは遅い。だが、再エネだけで気温上昇を抑えきれない局面が来ると、CCSの活用が待ったなしになる可能性がある。CCSには化石燃料発電維持と、再エネ発電拡大のバランスを取る役割も期待されている。

 

 Doherty氏によると、サウジのアラムコは基本的にBPとChevron両社の再エネ・アプローチをコピーした戦略が中心。過去2年間は、両社の戦略を反映した再エネ関連企業を選択し、出資を増やしている。

 

 石油メジャー各社の今後の展開として、水素関連ビジネスへの投資増大が予想される。Doherty氏は「水素部門が成長し、水素生産コストが低下すれば、石油・ガス業界の利益も増大する」と指摘する。水素は天然ガスに含まれるメタン (CH4)や原油に含まれるナフサ(粗製ガソリン)などを水蒸気と化学反応させて製造できるためだ。

 

 ただ、市場がそうした「化石燃料水素」よりも「再エネ水素」を志向する可能性もある。再エネ分野の技術進歩の早さが、そうした「再エネ水素」を、将来のエネルギーの主役の座に導くと、先行して再エネ路線を推進しているメジャーが優位性を持つことになる。

https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-09-04/shell-leads-big-oil-in-the-race-to-invest-in-clean-energy-tech

https://www.shell.com/energy-and-innovation/new-energies.html