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米SASBのCEO、マデリン・アントンシック氏、「日本の大企業等の持続可能性情報は必ずしも投資家ニーズに応えていない」、国ごとのESG基準より「グローバル基準が必要」と強調(各紙)

2019-10-22 16:21:17

1SASB1キャプチャ

 

 米非営利団体のサステナブル会計基準機構(SASB)のマデリン・アントンシック(Madelyn Antoncic)氏は、日本経済新聞に寄稿し、「日本の大手企業を含め、企業が公表する持続可能性情報は、必ずしも投資家のニーズに応えるものではない」と述べるとともに、「国や地域が異なる同業種の企業を横断的に比較するにはグローバルな基準が必要」と指摘した。

 

 同氏は、気候変動、資源制約、人口増加、技術革新、グローバル化などの「非財務要因」が企業の価値創造力を脅かし、長期的には経済全体の繁栄を危うくしかねない状況にあると分析。https://rief-jp.org/ct4/87565

 

 そうした環境変化に対応して市場が効率的に資本を配分するには、これらのリスクと機会が証券価格に適切に織り込まれる必要がある、として、その評価に際に重要な視点として「持続可能性(Sustainability)」を位置付けた。

 

SASBキャプチャ

 

 こうした持続可能性の視点が企業のESG課題への取り組みにどう反応しているかという点では、「日本の大手企業の大半がサステナビリティーリポートを公表している。だが企業が公表する持続可能性情報は、必ずしも投資家のニーズに応えるものではない」と評価。持続可能性の視点が企業の財務状態、業績、株価評価と明確に関連付けられていない、と批判した。ESG評価と財務評価の連動性の不足だ。

 

 また投資家はESGデータの正確性や信頼性に関心を持つが、「これらのデータ開示には伝統的な財務報告に適用される厳格な監査がなされていない」として、企業のESG開示の正当性の不足にも言及した。そのうえで、SASB基準は、こうした課題克服のため、企業の財務状態や業績と最も関連性の高い非財務情報を報告できるよう設計していることをアピールした。

 

 SASBが昨年、11産業77業種の環境・社会の非財務情報開示基準を公表している。アントンシック氏は「すでにグローバルベースで、約100社が投資家への開示にSASB基準を採用している」とした。具体的には、Gap、ケロッグ、Nikeなどの米グローバル企業のほか、NTTや大和証券など日本の大手企業も含まれると例示した。http://rief-jp.org/book/85351?ctid=35

 

 ただ、日本の企業の場合、各社の開示状況をみると、SASB基準の開示項目をそのまま採用しているわけではないようだ。自社のサステナビリティ報告書などでの開示項目の選定に際して、SASBの産業・業種別の基準に基づいた項目を参考にしている例が多い。

 

 同氏は、気候変動関連情報の開示フレームワークとして示されているTCFDとの比較で、「TCFDは業統治・経営戦略・リスク管理などの開示を巡って包括的な指針を示す一方、SASB基準はどの項目をどのように計測すればよいのかという産業・業種別の指標を示す」と関連性を強調した。

 

 欧州を中心に、気候変動を軸としたESG情報開示のルール化、義務化の動きが広がっている点にも言及。非財務情報の開示ルールとしては「ESG情報の開示が既に義務付けられている欧州がグローバル規制の先例になるだろう」とする一方で、多くの企業がグローバルに事業や投資を展開しているだけに、「国や地域が異なる同業種の企業を横断的に比較するにはグローバルな基準が必要」と、述べた。

 

 日本企業のESG対応について、「企業統治の面で改革が進んでいるが、これはパズルの一片にすぎない。企業統治は確かな情報に基づいてこそ初めて効果が上がる。投資家重視のESG情報の開示に関するグローバル基準の確立は、次世代の資本市場インフラを象徴する」と指摘、グローバル基準に準拠したESG情報開示のルール化が、日本市場でも必要、との視点を示した。

 

SASBCEOキャプチャ

 

 同氏は、米主要総合資産運用会社である Principal Financial Groupのグローバル運用部門の責任者から今年3月にSASBのCEOに転身した。ゴールドマンサックス、バークレイズ、リーマンブラザーズなどの主要な米金融機関で、リスク分析の専門家として30年以上もの経験を持つ。https://rief-jp.org/ct4/87565

 

 リーマン在籍中は、最高リスク責任者(CRO)としてリーマンショックに直面、同社の保有リスクの高さを指摘。当時のCEOと対立し、辞任したことで有名になった。

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191022&ng=DGKKZO51226330R21C19A0KE8000