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西武ホールディングス、初のグリーンボンド100億円。12日に発行。西武鉄道の新型省エネ車両導入費と太陽光発電事業に充当。西武と小田急のグリーンボンドを比較してみた(RIEF)

2019-12-09 08:43:47

seibu1キャプチャ

 

 西武ホールディングスは、来週12日に同社初のグリーンボンド100億円を発行する。資金使途は、傘下の西武鉄道の新型省エネ車両の導入費と太陽光発電事業としている。鉄道の環境性能向上と再エネ事業により、CO2排出量の削減を進める。民間の鉄道会社によるグリーンボンド発行は今年1月の小田急電鉄の発行に次ぐ。

 

 (写真は、新型特急「Laview」の雄姿)

 

 西武によると、調達資金の使途は7割分を、新型特急車両「Laview(ラビュー)」と新型通勤車両 「40000 系」の導入費用に充て、残りの3割を「西武武山ソーラーパワーステーション」の 建設費用のリファイナンスに充当する。

 

 資金使途による環境効果は、新造車両の導入で、従来車両よりエネルギー消費量が約6割削減される。1 編成当たりのCO2排出削減効果ではLaviewが約1010㌧、40000系で約780㌧となる見込み。また太陽光発電では年間約4000㌧の削減が見込めるとしている。

 

 ボンドは期間10年、クーポンレート0.270%。主幹事は、みずほ証券、三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券、 SMBC日興証券、大和証券、野村證券の各社が担当。Green Bond Structuring Agentは、みずほ証券が務めた。グリーン性は日本格付研究所(JCR)がGBPに適合するとのセカンド・オピニオンを出している。

 

西武鉄道の新型通勤車両 「40000 系」
西武鉄道の新型通勤車両 「40000 系」

 

 西武ホールディングスは5月に「西武グループ中期経営計画(2019~2021 年度)」を発表、サス テナビリティアクションを重点施策として新たに定めた。さらに11 月1日には、「西武グループ環境方針」を策定。今回のグリーンボンド発行は、こうしたグループ方針に沿うものとの位置付けだ。

 

 鉄道会社によるグリーンボンド発行は、独立行政法人の鉄道建設・運輸施設整備支援機構が2017年以降、毎年発行している。民間では、小田急が今年初めに、個人投資家向けに100億円を発行し、先行している。このため、西武は「ホールセール債では陸運業界初」とアピールしている。

 

狭山に設立する太陽光発電設備
太陽光発電設備の「西武武山ソーラーパワーステーション」の全景

 

 西武と小田急のグリーンボンドを比べてみよう。

 

 小田急のグリーンボンドは新型車両の導入だけでなく、複々線化やホームの延伸、ホームドア設置、駅の緑化などの「輸送インフラ」にも資金配分する内容だ。ただ、全体の資金使途によるCO2削減効果については、明確な推計値を開示していない。https://www.odakyu.jp/news/o5oaa1000001f26g-att/o5oaa1000001f26n.pdf

 

 「輸送インフラ」の対象となるホームの延伸や、ホームドアは「グリーン」ではなく、本来、鉄道事業として取り組む事業であるとの認識から、本サイトでは、「グリーン性が明確ではない」と指摘した。小田急には不本意だったかもしれない。https://rief-jp.org/ct4/86103?ctid=74

 

 今回の西武の場合は、資金使途によるCO2削減効果の推計数値は上記のように開示されている。また資金使途先は2分野のCO2削減事業に絞ったため、グリーン性は小田急に比べると、明確といえる。https://ssl4.eir-parts.net/doc/9024/tdnet/1775952/00.pdf

 

小田急のグリーンボンドも一部は新型車両に充当される
小田急のグリーンボンド資金も一部は新型の省エネタイプのロマンスカー等の車両に充当される

 

 付け加えると、両社のグリーンボンドには、いずれもJCRがセカンドオピニオンを付与している。したがって、第三者評価機関としての同社の判断が重要になる。

 

 JCRは、小田急のボンドの資金使途のうち、本サイトが首を傾げた「複々線化等の改良」等について、ICMAのWGのASIアプローチを援用し、「人々をより持続可能でクリーンな輸送手段に移動させることに該当する」と評価している。

 

 ただ、そうした「移動」に伴うCO2削減等の環境効果についての評価の推計値等は示していない。またASIアプローチはWGレベルで提示された手法のひとつで、モーダルシフトの環境評価手法として確立されたものかどうかは意見が分かれる。ASIがJCRの基本クライテリアなのかも、同社のHPを見る限り不明である。https://www.jcr.co.jp/pdf/greenfinance/OdakyuElectricRailway_jp.pdf

 

 小田急と西武のグリーンボンドのグリーン性の違いについては、こうした基本的な相違があると思われるが、JCRは両方とも、同社の5段階のグリーン評価で最上位の「Green1」を付与している。両案件だけでなく、本サイトで調べた限りでは、JCRのこれまでのグリーンボンドへのセカンド・オピニオンでは、最上位の符号しかつけていないようだ。

 

 国内ではもう一社、格付投資情報センター(R&I)もある。同社も同様にグリーン性のセカンド・オピニオンでは最上位のグリーン符号しか付与していないようだ。小田急と西武のグリーンボンドのグリーン性の論点だけでなく、JCRとR&Iのグリーン評価のセカンド・オピニオンの妥当性も大きな論点のように思える。

 

 信用格付業務で実績のある両社がともに、日本のグリーンボンドはすべて「最上位」と評価しているわけだ。そうなのか、「日本のグリーンボンドは世界最高のグリーン性の債券ばかりなんだ」と自信を持ってしまうが、どうか。しかもそうしたボンドに、環境省は国民の税金から補助金を配分しているので、国もお墨付きを与えていることになる。

 

 「グリーンな国・ニッポン」なのか、あるいは「グリーンウォッシュ大国」なのか。少なくとも、国内のグリーンボンドへの外資の投資が急増しているとは、あまり聞いたことはない。

 

 国内グリーンボンドへの投資を検討している個人、機関両方の投資家には、セカンド・オピニオン付きグリーンボンドでも、資金使途の範囲、グリーン性可否の手法、事業性のリスク等を、自らの眼力で見極めることを、お奨めしたい。

                      (藤井良広)

https://ssl4.eir-parts.net/doc/9024/tdnet/1775952/00.pdf

https://ssl4.eir-parts.net/doc/9024/tdnet/1765706/00.pdf