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「次期エネルギ―基本計画」での経産省の再エネ比率試算に「疑念」。「2050年の再エネ比率50~60%」と欧米と大きな開き。原発・化石燃料温存狙いか。自然エネルギー財団が指摘(RIEF)

2021-06-10 18:23:38

RITEキャプチャ

 

 経済産業省が次期エネルギー基本計画の算定に際して、2050年の電力供給に占める再生可能エネルギー電力の割合を50~60%とする案を示したことに対して、公益財団法人自然エネルギー財団(NEF)が「疑念」を示す見解を公表した。根拠とされるのは経済産業省所管の地球環境産業技術研究機構(RITE) の試算。同試算による再エネ100%電力のコストは同じ経産省所管研究所の試算の倍以上。しかも算定の根拠は明確でないとして、NEFは「化石燃料による発電の利用を継続しようとする立場からの政策が(経産省において)支配的になっていると言わざるを得ない」と批判している。

 

 (写真は、論争を呼ぶ試算を提供した地球環境産業技術研究機構(RITE)の本部(京都府木津川市))

 

 2050年の再エネ比率の推計については、国際エネルギー機関(IEA)の報告では、世界全体で9割近く、EUや英国でも80%~90%近くと大層を占める。これに対して経産省は、日本では「2050年でも再エネ比率は50~60%」と低い水準を前提に基本計画の立案を図っている。その根拠とされるのは、RITEによる「2050年の再エネ電力コストはシステム統合費用の増加で53.4円/kWh」との試算だ。

 

 経産省が5月13日の基本政策分科会で示した。RITEの説明資料では、電力系統の統合費用分析に際して、同じ経産省所管の日本エネルギー経済研究所(IEEJ)の協力で試算したとしている。再エネコストは、太陽光発電や風力発電自体の導入に関わる発電コス トと、これを電力系統に接続し安定的な電力供給を保つために必要とされる「統合費用」で構成される。IEEJは、昨年12月に、統合費用を含めた再エネコストとして「25円kWh」との結果を示している。RITEの半分以下だ。

 

 NEF自体は、「曇天・無風期間への対応を考慮しても25円kWhには達しない」との判断だが、RITEの試算もIEEJの試算も、ともに「曇天・無風期間」を考慮しており、どうしてそれだけの違いが生じるのか、と疑問を隠さない。

 

 RITEのデータは、太陽光発電や風力発電導入の発電コストについても高く設定されている。RITEが基本とする「参考値ケース」では2050年の太陽光発電は10~17円/kWh、風 力発電11~20円/kWh。これに対し、 経済産業省自体の価格目標は、太陽光発電が2025年で7円/kWh、風力発電は2030年で8~9円/kWhと低い。NEFは、実際の市場では昨年後半時点で日本でも6~7円/kWhレベルの太陽光発電プロジェクトが実現していると指摘している。

 

 経産省は6月3日に公表した「グリーン成長戦略」改定案で、RITEの試算を根拠として「最大限導入する再エネの他、原子力、水素・アンモニア、 CCUS/カーボンリサイクルなど脱炭素化のあらゆる選択肢を追求する重要性が示唆された」と記載し、原発やCCS付火力発電の利用継続に道を拓いている。つまり、再エネ比率を50~60%に抑えることで、残りの40~50%を原発や火力でまかなうというわけだ。

 

 しかし、再エネ比率が欧米レベルだと、日本でも残りは10~20%にとどまり、原発も火力も出番は限られる。NEFは、原発+CCS付火力で、対応が可能かについても検証している。RITEのシナリオは原発で10%~20%の利用を想定する。①すべての既存原発が再稼働②すべての原発が例外の60年運転を行う③建設中断、ほぼ未着工の新設原発3基がすべて完成する、という3つの「希望的」シナリオだ。だがNEFの検証によると、仮にこれらのシナリオがすべて実現しても、2060年には電力需要の5%程度しか原発電力は供給できないとしている。

 

 RITEは、発電量の20~35%をCCS付き火力発電でまかなうとも想定してい る。産業部門での化石燃料の持続的利用を前提とするためで、CCSで回収した年間2億3000万~2億8000万㌧のCO2を海外に輸出するという。しかし、いったいどこでこの膨大なCO2の貯留を行うのか。NEFは、東南アジア各国を含め世界全体での脱炭素化に向かう中で、先進国の日本が国内で処理できないから、他国に委ねる、という「CO2海外輸出戦略」に、国際的な理解が得られるのか、と疑問を示している。

 

 欧米ではサイエンスベースの分析と評価を基盤とした政策提案でないと、受け入れられない。「役所の権威」や、「恣意的な数字合わせ」で、意図的な計画を立案することは、サイエンスベースとは相容れない。「日本国内だけうまくやればいい」という時代ではない。日本企業の行動も、内外の投資家が注視しており、企業が立脚する政策に合理性がない場合は、国自体のリスクとして評価される。経産省は、政策の透明性と、科学性を市場と国民に示す必要があるだろう。

 

https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_JP_Comment_20210610.pdf