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オーストラリアでの「グリーン水素」事業。アンモニア化してシンガポールや日本に輸出の計画も、環境省が認可せず。ラムサール条約の湿地改変等、自然環境への悪影響重視(RIEF)

2021-06-22 16:34:52

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  オーストラリアで、政府がいったん「主要プロジェクト」と認定した「グリーン水素エネルギー事業」計画が、自然生態系への悪影響を理由として環境省が計画認可を拒否した。豪マッコーリーグループ等が主導する事業で、アンモニアに転換して日本やシンガポール等への輸出も目指していた。しかし、風力発電、太陽光発電のためにラムサール条約で保全が指定されている湿地帯を大規模に開発するため、生態系への影響が大きいとしている。

 

 焦点となっているのは、西オーストラリア州のピルバラ(Pilbara)地区東部の6500㎢(東京都の約3倍の広さ)の海岸に面した広大な原野を開拓し、合計26GWの風力発電や太陽光発電の発電設備を設ける。このうち、3GWを現地の鉱山や精錬事業に充当し、残りの23GW分は電解設備で水素を年175万㌧製造し、国内外でのエネルギーとして活用する計画だ。総事業費500豪㌦(約4兆1500億円)。 2026年着工の予定。

 

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 事業はマッコーリー等が組織するコンソーシアムが事業主体の「Asian Renewable Energy Hub(AREH)」を立ち上げ2014年から進めている。当初は開発した再エネ電力を、直流海底ケーブル線でシンガポールに直接、送電する計画を立てていた。現在はコスト面からアンモニア転換して輸送する計画に変更している。http://rief-jp.org/ct8/91806

 

 地元の経済開発を進めたい西オーストラリア州政府はすでに事業を承認し、2020年10月には、プロジェクトの最初のフェーズの15GW分の環境承認を出している。だが、開発予定地区はオーストラリア原住民アポリジニに属するニャングマルタの居住地の広大な自然原野。

 

 この湿地帯を含む自然の原野を「再エネファーム」に切り替え、途中の沿岸部にはアンモニアを輸出する港湾と町を新規に建設する大掛かりな自然改変事業だ。これにより、ラムサール条約で「重要地域」に認定されている約130kmに及ぶ湿地帯を含む沿岸部分の環境は大きく改変され、渡り鳥や生態系に及ぼす影響は甚大になる。

 

  このため連邦政府の環境相Sussan Ley氏は、事業者に対して、事業計画の見直しを要求していたが、修整された案についても「同事業によって自然環境に受け入れ難い影響を及ぼす可能性がある」として認可を拒否した。湿地の破壊による生態系損失に加え、新規港湾建設によって潮の流れが変更され、原住民らの生活に影響が及ぶとしている。

 

 オーストラリアは石炭等の化石燃料の採掘等が気候変動対策で先細りとなっている、だが、豊富な日射と広大な土地を利用して安価で再エネ発電が可能というメリットがある。今回の事業計画はそうした利点を生かし、かつクリーンエネルギーの水素転換によってクリーンエネルギー事業を新たな輸出財に育てようというものである。

 

 水素エネルギーやそれを転換したアンモニア燃料は、日本も石炭火力からの転換エネルギーとして重視している。ただ、今回のように風力発電や太陽光発電の大規模展開で土地利用の改変が進むことでの自然環境、生物多様性への影響は、これまで軽視されてきた。だが、10月に開かれる国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で議論されるように、自然資本保護、生物多様性損失の回復は、気候変動対応と同時並行で進む「待ったなしのグローバル課題」として重視されている。

 

 「再エネさえ発電できればいい」という旧来型の開発思想では、自然資本とバランスのとれたエネルギー開発にはつながらない。EUでは環境の多様な要素への影響も考慮する「Do No Significant Harm(DNSH:著しい悪影響をもたらさない)」原則をグリーン事業開発の基本としている。だが、国によっては、日本のように、風力発電建設で義務付けている環境アセスメントの基準を、再エネ発電優先のために、従来の発電規模1万kWから5万kWに緩和するような動きもある。

 

 オーストラリアは2030年をめどに「水素大国」になることを目指している。2019年には「国家水素戦略」を発表しており、アジアへの水素輸出を目指すAREHの主要プロジェクト認定もその一つだ。しかし、環境省は今回の認可取り消しを踏まえ、「事業を修正するかどうかは、提案者側の問題」として、事業者が自然環境保全に配慮した計画の再修正をすることを求めている。

 https://asianrehub.com/

https://www.abc.net.au/news/2021-06-21/government-rejects-plans-for-massive-renewable-energy-hub/100228008