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ドイツ、オーストリア等5カ国、原発をグリーンタクソノミーに盛り込む動きに反対の共同書簡を欧州委員会に送付。「DNSH原則に反する」と(RIEF)

2021-07-06 00:16:03

Nuclear001キャプチャ

 

  ドイツ、オーストリア等の5カ国は、欧州委員会の「サステナブルファイナンスプラットフォーム(PSF)」が進める新たなトランジションファイナンスのタクソノミーに、原子力発電を含めないことを求める共同書簡をまとめ、欧州委員会に送付した。書簡では、原発は操業中のCO2排出量が出ないとしても、使用済み核燃料の処分場がなく、タクソノミーの「他の環境に重要な影響を与えない(Do No Significant Harm: DNSH)原則」に反する、と指摘している。

 

 (写真は、ドイツ・Biblisにあるエネルギー会社RWEの原発)

 

 EUのタクソノミーは、4月に主要な事業分類を欧州委員会のDelegated Act(DA)として決定している。しかし、天然ガスや農業、原発等については、産業界や環境NGO等の意見の隔たりが大きく、改めてPSFがトランジションタクソノミーとしての分類作業を実施中だ。

 

 共同書簡を提出したのは、ドイツ、オーストリア、デンマーク、スペイン、ルクセンブルクの5カ国。各国の環境相、気候変動担当相等が署名した。書簡では、原発を「クリーンエネルギー」としてEUのグリーン&サステナビリティタクソノミーに盛り込むことを目指す動きは、EUの組織である「Joint Research Centre(JCR)」が4月に公表した報告書を理由としている、と指摘。

 

 同報告書は、原発が風力発電や太陽光発電等よりも、人の健康や環境に高いリスクを及ぼす技術であることを示す証拠はない、と結論づけている。これに対して5カ国の共同書簡は「JCRの結論は明らかな間違い」と批判。その理由として①JCRは原発が通常の操業時だけを評価し、原発が持つそれ以外のリスク(事故リスクの大きさと深刻さ)をみていない②ライフサイクルアプローチを無視している。原発は稼働以来60年が経過するが、たった一つの使用済み燃料も永久的な貯蔵が出来ていない、と指摘した。

 

 そのうえで書簡は、「EU加盟国が自国のエネルギーシステムの中で原発の取り扱いを決める国家的権利を有することを理解する。だが、(EU共通の)タクソノミーの対象に原発を入れることは、タクソノミーシステムの厳格性、信頼性、そして有用性に完全なダメージとなる」と強調した。

 

 EUのタクソノミーは、グリーン&サステナビリティ事業を市場にわかり易く分類して示すだけではなく、サステナビリティ情報開示や、金融商品のベンチマーク規制、グリーンボンド基準等の土台として活用される。そうしたタクソノミーの中に「異質な」原発を含めと「サステナブルな金融活動」に対して投資家は懸念を深め、サステナブル金融商品への信頼を損ねかねない、との危惧を示した形だ。

 

 より基本的には、原発は、EUのタクソノミー規則が基盤に置く「DNSH原則」と相容れないとしている。そうした課題があるのに、原発をタクソノミーに盛り込む判断をすると、EUが目指すサステナブルファイナンスのグローバルな主導市場の構築と反する道に向かってしまうとしている。

 

 原発は当初はEUのタクソノミーから除外されていた。その最大の理由は、5カ国の共同書簡が指摘するDNSH原則に抵触する点だ。ただ、天然ガスの扱いが環境NGOとエネルギー業界との間の綱引きで「政治化」する動きが表面化する中で、仮に天然ガスが実質的に除外されると、東欧諸国等では脱炭素エネルギー政策を実現しにくくなるため、原発利用に道が開かれるとの期待が、関連業界や一部の国で高まった。欧州委への働きかけも強まっているとみられる。

 

 EU自体、原子力利用を推進する原子力共同体(ユーラトム)を共同体の共通政策として運営しており、欧州委員会自体もどちらかと言えば「原発推進派」に分類できる。原子力業界以外で、国レベルで原発をタクソノミーに含める推進派は、明確な名乗りはないが、フランス、スウェーデン、フィンランド等とみられる。

 

https://www.euractiv.com/wp-content/uploads/sites/2/2021/07/Joint-ministerial-letter_AT_DE_DK_LU_ES.pdf