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欧州議会有志議員ら、ガスパイプライン事業等を盛り込んだ欧州委の「EU域内横断エネルギー・インフラ投資事業リスト(PCI)」案に反対。「脱炭素」「脱ロシア」での見直し要求(RIEF)

2022-03-08 08:56:11

PCIキャプチャ

 

  EU内ではロシアのウクライナ侵攻で、ロシアへのエネルギー依存の見直し機運が高まる中で、欧州議会の有力議員らが、域内共通エネルギープロジェクトの「5th Projects of Common Interest (5PCI)」案のガス事業について、「ロシア・チェック」を加味して厳格に見直すことを求める共同声明を発表した。議員らは今週採決する欧州委員会提案の法案に反対する。5PCIにはガス事業が20件入っており、これらの事業が「ロシア産ガス」に関わっていないかどうかをチェックするとともに、ガス事業に代えて、再エネ事業投資の倍増を求めるとしている。

 

 EUのPCIは、EU域内の広域インフラネットワークの整備制度。環境性、経済性、安定性等の社会的便益を欧州規模で貢献する事業を認定し、ファイナンス面での支援を確保することを目的としている。欧州委が委任法(DA)として、2カ国以上に便益を及ぼすプロジェクトをリスト化する。事業は「全欧州エネルギーネットワーク(TEN-E)規則」に基づく。

 

 欧州委が作成した第5次PCIのDA案では、98のプロジェクトを網羅している。そのうち67件は電力送電網事業、20件がガス事業。新規のガス事業は含んでいない。しかし、EUはこれまでガス輸入量の40%を、石油輸入量の27%をロシアに依存していることから、欧州議員らは、今回のリストの対象となる既存ガス事業がロシアからの輸入ガスを前提としていないかどうかを厳密に調べる「ロシア・チェック」の必要があると指摘。欧州委の現行DA案は不十分として、反対票を投じると宣言した。

 

 

パスカル・カンファン欧州議員
欧州議会の環境委員会議長のパスカル・カンファン欧州議員

 

 宣言したのは欧州議会の親EUでリベラル派の「Renew Europe」の議員たち。欧州議会の環境委員会議長を務めるフランスのパスカル・カンファン氏のほか、フランスのクリストファ・グルドラー、オーストリアのクラウディア・ガモン、スロバキアのマーティン・ホジェック、同ミカエル・ヴィージック、オランダのソフィー・インベルド、デンマークのモルテン・ヘルヴェグ・ピーターソンの7議員。

 

 7人の共同声明によると、欧州委のDA案のリストは、ロシアのウクライナ侵攻前にまとめた「過去のもの」。同案については、気候対応への適合性と、ロシアチェックの2つの視点で全面的に見直す必要がある、としている。特に対象となるガス事業については総投資額130億ユーロと見込まれており、ロシアへの経済制裁をしながら、ロシア関連のガス事業を継続すると、結果的にロシアを支援することになってしまうと警告している。

 

 PCIリストの20のガス事業は、EU域内の各国間を結ぶパイプライン事業が中心。議員らが欧州委に求める「ロシア・チェック」では、燃料となるガスの供給元の確認等を改めて問い直し、ロシア産ガスからのトランジション(移行)を求めることになる。PCIとして認められた事業は、EUのファンディング「Connecting Europe Facility(CEF)」の支援対象の適格性を得られる。

 

 気候チェックについても、すべての事業がパリ協定の目標とともに、2050年のネットゼロ目標にも整合することが求められる、としている。その整合性を見極める気候ストレステストについては、事業者による自主的な実施ではなく、法律に基づく必須事項としての実施を求めている。すでに欧州の環境NGOらは、PCIリストの対象事業に複数の問題事業が含まれていると指摘している。

 

 たとえば、キプロスとギリシャをつなぐ「東地中海パイプライン」。同事業は2050年まで操業を予定する。その結果、50年までの全期間を通じ、フランス、イタリア、スペインの合計量以上の温室効果ガス排出量が見込まれるという。またイタリアとマルタを結ぶ「Melita パイプライン」では、マルタの政治汚職事件を取材していた女性ジャーナリスト暗殺事件と絡む利権問題が指摘されている。共同声明は「こうした事業にEUの資金を投じていいのだろうか」と疑問を示している。

 

 加えて議員らは「欧州は今、一種の臨界点に立っている」とEUの決意の必要性を強調している。「脱炭素」を本当に実現し、ロシアへの依存からも脱却するという二つのハードルを越えるため、グリーン・トランジションを今まで以上に加速し、EUのレジリエンスを高めるという目標の実現のために、これまでの努力をさらに倍化させる必要がある、とした。

 

 この「脱炭素」と「脱ロシア」のハードルを越えるためには、大規模な追加的投資が必要になるとし、EUの再エネ関連技術への投資を倍増させようと、他の欧州議員やEU各国に呼び掛けた。「ロシアチェック」では、PCIのガス事業がロシアのガスに依存していないかを確認し、(依存している場合は)ロシアのガスがEU域内を通過しないような措置を講じるよう、欧州委によるアセスメントの実施を求めている。

https://www.euractiv.com/section/energy/opinion/the-road-to-european-energy-independence-could-start-this-week/

https://twitter.com/pcanfin/status/1500852787466457092