日本主導の「AZEC構想」のエネルギー事業。化石燃料関連は3割を維持。直近は再エネ関連は3割から2割に縮小。日本のCO2をアジアに輸出・廃棄するAZECの「裏の顔」が浮き上がる(RIEF)
2025-10-29 23:58:06
(写真は、高市首相の初外遊となったAZEC首脳会議=10月26日)
日本政府がGX戦略をアジアに展開させるために推進する「アジアゼロエミッションコミュニティ(AZEC)」構想に基づく日本主導のAZECエネルギー事業は、全体では3分の1(31%)が、アンモニア混焼やCCS等の化石燃料技術と再生可能エネルギー関連が同等だが、直近の覚書(MoU)締結では、化石燃料関連が31% を維持しているのに対して、再エネ関連は22%へと、ほぼ10ポイント縮小していることがわかった。日本国内の「化石燃料延命戦略」を、アジアに「輸出」し、日本で発生したCO2等をCCS技術によってアジア各国に廃棄する構図が浮き上がる格好だ。
国際的な気候・エネルギー研究機関であるゼロカーボンアナリティクス(Zero Carbon Analytics : ZCA)が調査・分析した。日本政府が主導して2023年に発足したAZECイニシアティブにおいて、各国間で締結された300件以上のAZEC協定(2025年10月に発表された49件の新規協定を含む)を分析対象とした。
調査結果によると、ASEAN諸国における日本の低炭素エネルギー関連取引の31%は、天然ガス・LNG関連取引からの炭素回収・貯留(CCS)プロジェクトや水素・アンモニア混焼などの技術を含んでいる。
ASEAN諸国では、各地で豊富に得られる太陽光や、風力、バイオマスなどの再エネ関連事業の開発の将来性が期待されるが、日本政府によるAZEC事業の焦点は依然として「日本主導の化石燃料関連事業」にウエイトがあるようだ。https://rief-jp.org/ct7/161876
日本がAZECイニシアティブの元で支援する事業を国別でみると、インドネシア、タイ、ベトナム、マレーシアの4カ国が、日本との化石燃料関連の事業展開の覚書(MoU)が集中している。今回、クアラルンプールで開いたAZEC首脳会議では、日本はこれらのASEANパートナー国との間で、49件の新規MoUを結んだが、このうち15件(31%)が化石燃料関連で、再エネ関連は11件(22%)と、これまでの傾向と同様だった。
エネルギー技術全体では、再エネ技術のバイオマス/バイオ燃料がASEAN各国に共通して最も多く言及された一方、全AZEC契約で取り組みが示された上位10技術のうち、上位の4つが化石燃料関連で占められた。CCUSがバイオマスに次ぐ第2位だったほか、ガス/LNG(第5位)、アンモニア/石炭火力発電所でのアンモニア混焼(第6位)、水素(第7位)と続く。
国別では、ブラボウァ政権のインドネシアが日本との間で締結されたAZEC協定数で全体(125件の覚書)および2025年10月に発表された新規協定(15件の新規覚書)の両方で首位を占めた。次いでタイが第2位、ベトナムとマレーシアが第3位(同率)となっており、2023年3月以降のAZEC協定締結件数はタイ43件、ベトナムとマレーシアが各36件となっている。
日本側で2023年3月以降で、ASEANパートナーと化石燃料関連のAZEC契約を最も多く締結したのは(官民機関を含む)は、IHIと独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)。JOGMECの事業には、インドネシアにおけるe-メタン関連契約やベトナムにおけるCCS関連契約が含まれる。
ZCAなどの調査によれば、ASEANとの間で締結された日本の300件以上のAZECエネルギー転換に関する覚書のほぼ半数は、依然として初期開発段階にある。このためこれらの事業に投じられる日本からの補助金は、具体的な成果につながるかどうかは現時点では不透明。事業に参加した企業は、成果が上がらなくても、補助金の返還義務はない。
AZECは、当時の岸田文雄首相(当時)が提唱する形で、2023年3月に日本政府によるイニシアティブで正式発足。アジアにおけるカーボンニュートラルとネットゼロ排出を推進するとしている。ただしその方法論は、現行の化石燃料事業を維持しながら排出されるCO2を減少、回収・除去する等の技術開発か、あるいは太陽光、風力等の再生可能エネルギー発電に転換するのか、という2つの技術を両建てにしている。
日本がAZECで連携するパートナー国10カ国は、オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム。各国とのMoU等で推進する化石燃料技術と再エネ技術等の具体的な内容では、バイオマス・バイオ燃料が全AZEC案件で最もポピュラーで、次いでCCUS、カーボンアカウンティング、太陽光発電、ガス/LNG、アンモニア/アンモニア混焼、水素、カーボンクレジット、風力、グリーンアンモニア等となっている。
AZECの取り組み技術を分析したZCAのアジア地域研究員、ユ・サンチン(Yu Sun Chin)氏は「特にCCSは2番目に言及された技術だが、データによれば2050年までにアジアで250億㌧の新たな温室効果ガス(GHG)排出を招く可能性がある。ガスも上位10技術にランクインしているが、ガス火力発電とLNGはフィリピンなどの国々で気温上昇と電力価格高騰の主要因となっており、同国ではLNG輸入に数十億㌦のコストが見込まれている」と懸念を示している。
ZCAのエネルギー転換研究員のエイミー・コング(Amy Kong)氏は「日本はASEANパートナーと新たに49件のMoUを締結し、総計300件以上の合意に達した。だが、これらの合意における上位10技術にガス、アンモニア、水素、CCUSが含まれていることは、同地域のクリーンエネルギー移行を遅らせるリスクがある」と指摘している。
オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学(UNSW)気候リスク・対応研究所研究員のウェスリー・モーガン( Wesley Morgan)氏は 「ASEAN経済を支えつつ、汚染を伴う化石燃料を風力・太陽光・蓄電池に置き換える技術はすでに存在する。にもかかわらず日本は、化石燃料の使用を延長し今後数十年にわたり気候汚染を固定化するための『偽りの解決策』を推進し続けようとしている。ガスとCCSの拡大は、地域のクリーンエネルギー移行を遅らせ、より激しい台風や加速する海面上昇を含む危険な気候影響を固定化するだろう」と述べている。
アジア・リサーチ・アンド・エンゲージメント(ARE)創設者兼マネージングディレクターのベン・マッキャロン(Ben McCarron)氏は「多くの興味深い取り組みがある一方で、日本がAZECの下で複数の化石燃料ベースの電力技術やCCS技術を継続的に含めていることは、真の脱炭素化に向けた明確で拡張可能な道筋が求められるこの時期に、ASEANパートナー国に対して矛盾したメッセージを送っている。日本にはこの変革で主導的役割を果たす技術的・財政的能力がある。移行のリーダーシップとは化石燃料依存からの脱却を意味する——単なるリブランディングではない」としている。
(藤井良広)

































Research Institute for Environmental Finance